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【144話】打たれた終止符





 俺の盾が長所を遺憾なく発揮できる展開になってきた。

 こちらに伸びてくる危険な包帯の刺突を弾きながら、そう考える。

 空中に浮遊していた包帯女は地上に降りてきて、そのまま戦闘を継続。

 正直なところ、戦いやすくなったと感じる。

 浮きながら、遠距離からチクチクされるのは苦手だ。

 こちらが届かない場所に敵がいる場合、スキルも当てられなければ、そちらに向かった味方の援護だってやり辛い。


「アウグスト、今だ!」


「うらぁ!」


 包帯の攻撃を防いだ直後に隠れていたアウグストは飛び出し、包帯女と相対する。

 片腕がないというのと、人数的不利を背負っているという観点から、凶悪な怪物であっても疲れが見える。


 アウグストの素早い攻撃をしっかりと受け止めながらも、浅い傷は目立って増えた。


「はぁ、ちょっとだけ危ない気がするわね」


「うるせ、ちょっととか言ってんじゃねぇぞ。土下座してこれまでの非礼を詫びやがれ!」


「ふふっ、とても屈辱的な提案だわ」


「余裕そうな顔が腹立つなぁ」


 会話を続ける2人だが、その反面行われているのは真剣な殺し合い。

 互いに命を賭け、その生命に──自慢の攻撃を交えて奪い去ろうと必死なのである。


 今のところは、俺たちが優勢ではある。

 黒い稲光が効いているのだろう。

 もっとも、その攻撃自体が俺たちの意図したものではないのだが。


「さて、そろそろ幕引きした方が良さそうね」


 包帯女のため息混じりの呟きにアウグストは過剰に反応する。


「うぉい、逃げんのか⁉︎」


 ──まあ、明らかに形成が不利になってるからな。


 後方を確認すれば、凶悪な顔つきの竜はモナとアレンの激しい攻撃に晒されて殆ど動けていない。

 ゾンビを出現させる黒いゲートもヴィランが3つ破壊し、残すところはひとつだけ。ゾンビの勢いも調査隊のメンバーやアイリス、レジーナの活躍もあって下火気味。


 ──撤退のタイミングとしては、最適だな。けど、


「逃すわけにはいかない!」


 アウグストと包帯女が競り合っている場に急接近する。

【釘付け】で確実にキャッチする。

 今、この場で仕留めなければ、後々の不安材料になるのは明らかだからだ。 


 しかし、俺が近付いていることはしっかり確認していたようで、包帯女は距離を取り、壊れかけた建物の屋根の上に足を着いた。


「おいこらぁ〜、降りてこい!」


「ふふっ、ごめんなさいね。でも、私もここで殺されるのは困るの」


 追撃を試みようとするアウグスト。

 しかし、その動きは飛び込んできた黒い影に邪魔されることになる。

 包帯女とは別。

 されども、その者が放つオーラは、悪辣なものであり、近寄りがたいもの。


 アウグストの短剣に対して、細長いレイピアのようなものを押しつけて、その動きを止めたのは、真っ黒な雲みたいなものに包まれた正体不明の存在。


「こいつ……」


「…………」


 ──なるほどな。


 別に協力者がいたというわけだ。

 それもそうか、これだけの大騒ぎをたったひとりで巻き起こし、その場を支配するなんて中々できることではない。


「あはっ、もういいのよね?」


「目的は果たしました。帰りますよ」


 包帯女とは違うタイプ。

 冷静、物静か。

 短い黒髪がゆらゆらと揺れるのが微かに確認でき、瞳だけが青白い色を帯びている。それ以外は、一切の色などない。

 深い闇だった。

 その上で、敢えて言うのであれば、


「……アウグスト、分かるよな? あまり深追いは──」


「しねぇよ。……あんなの関わり合いたくもないし」


 包帯女よりも数段ヤバい。

 人ではないとよく分かる。

 こんな風に死の予感を肌身に感じて、人智を超えた触れてはいけないと、本能が訴えている。こいつは、格上の化け物だと。


 俺だけじゃない。

 あのアウグストでさえ、それを目にし、微動だにしていない。

 敵と分かれば誰彼構わず噛み付くような性格であるにも関わらず、この時だけは手を出してはいけないことをきっちり理解していた。


「──賢明な判断。私たちのことは忘れなさい」


 張り詰めた空気がより冷たくなる。

 辛辣な口ぶりを振り撒きながら、されどもドス黒い女は踵を返すこともなくこちらに視線を向け続ける。


「これ以上私たちの邪魔をしなければ、命は助けましょう」


 上から目線でそう告げられる。

 しかしながら、そんな言い方をされると引き下がりたくなくなるのが人というもの。

 何を企んでいるのか気になってしまう。

 だから、せめてもの抵抗として、


「貴女たちは何者ですか?」


 身元を明かすように交渉をしてみる。

 ああ、こんな問答に意味などない。

 相手が答えてくれる保証はないし、それを聞いたところで状況が好転するかと聞かれれば、変わらないと即答することだろう。


「私たちが何者か……ですか。それを聞いたところで貴方にどのようなメリットがあるのか知りませんが、まあいいでしょう」


 底冷えするように美しい声から返された答えは、予想外のものだった。




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