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【139話】それぞれの役割を





「モナッ! 無事でよかった」


 俺はモナに駆け寄る。

 大切な人。

 失いたくない存在が今こうして目の前に現れてくれたことで、俺は感情を抑えきれなかった。


「当たり前よ。そう簡単に大怪我したりしないわ」


「そうだったな……」


「そうよ。貴方の彼女は、誰よりも強いんだから」


 己の心が落ち着くのを感じる。

 モナの前向きで強気な言葉を聞き、その微笑みを見て──。

 その手を握り、温もりを肌で感じるたびに微かに涙が目からスルリと流れそうになる。


「本当に……よかった」


 モナは、俺の頭を撫でる。


「もう、そんな顔しないでよ」




▼▼▼




「あと少しだ、狩り終えるぞ!」


 モナの魔法によって黒いゲートは、消滅した。

 その影響により、ゾンビの無制限放出がストップ。

 形勢は一気にこちら側に傾く。

 セントール子爵領から派遣された調査隊の冒険者は、先程よりも勢いを増しながら、ゾンビを切り倒していく。


 ──これで戦況は安定したな。


 ホッと一息するが、全てが終わったわけではない。

 モナの魔法で半殺しにされてはいるが、竜は未だに健在。

 包帯女もゆっくりとこちらに戻ってきていた。


「フフッ……とーっても、痛かったわ」


「チッ、痛かったんならもう帰れよ!」


 悪態をつき、アウグストは舌打ちをする。

 千切れていたはずの包帯はまた元に戻り、女は何事もなかったかのように振る舞っている。

 確実にアウグストの斬撃によって飛ばされたはずだ。大怪我とか、そのレベルじゃないくらいに命の危険を背負っていた。


「……あれが、今回の黒幕ってやつ?」


「そうだよ。あの人が旧教会都市にゾンビを溢れさせてた原因」


 初見のモナは、目を細める。

 その問いにアイリスが答えた。

 アレンも同様に険しい顔のまま剣を構える。


「それから、調査隊がその日のうちに帰れなかった理由でもある」


 ──あの透明な壁も、当然のこの女が仕掛けたものだろう。


 あの包帯女は強い。

 Sランク冒険者である俺たちが束になって攻撃を仕掛けたとて、それをその身ひとつで耐えるくらいのフィジカルとこちらに的確なダメージを与える攻撃手段を持っている。

 油断すれば、簡単に全滅もあり得る。

 さらに、あの女の笑みを消し去ったのは、俺とアウグストだけ。

 アレンやヴィランの攻撃は効果なし。

 レジーナやアイリスも同様だろう。


「物理攻撃も魔法も効果なし……お前ら、気を引き締めろ!」


 ヴィランの鼓舞に調査隊を含めた全員が覚悟の表情を浮かべる。

 攻撃手段が全て封殺されていると聞くと、やはり絶望感が尋常じゃないくらい大きいが、何故か効果のあった俺とアウグストの攻撃。


 共通点は──。


「スキル……か?」


【釘付け】と【腐食】が発動した。

 あれは、明確な有効的な戦法であったと、あの時に証明できたのだ。

 そして、アウグストの裏取り。

 あのタイミングで背後に現れるには、彼のスキルである【神速】を使用したに違いない。


 つまり、あの女を倒す鍵は、スキルだ──。


 物理攻撃も魔法も効果がない。

 けれども、ちゃんと活路は存在している。


「ヴィラン」


「あ?」


「スキルだ。スキルなら、やつにダメージを与えられる」


 確定ではない。

 でも、限りなくこれは正解に近い。

 もう一度挑み、それで通用したならば──あの包帯女から勝利をもぎ取れる。


 ヴィランは「なるほど」と呟き、その謎大き瞳で包帯女をじっと見る。


「……賭けてみるか。レオに」


「アウグストもだ。【神速】使用中なら、俺よりも有効的な攻撃ができる」


 アウグストは、短剣を構える。


「へー、じゃああのサイコパス女は、俺とレオっちが相手にしなきゃってことね。いいじゃん、そういうの燃えるぜ!」


 俄然やる気になったというようなギラギラした視線をアウグストは包帯女に向ける。

 相手もその熱気に当てられてか、薄気味悪く微笑む。


「フフッ、さっきみたいに簡単にやられたりはしないわよ?」


 女が何かを唱える。

 黒いゲート──。

 モナが破壊したものと同様の形をしたゾンビの出入り口が生成される。

 しかも、


「アハハッ! こんなに真面目に戦うのなんていつ以来かしらね」


 ──黒いゲートが四つも⁉︎


 単純計算するのであれば、ゾンビの出現スピードが4倍。

 その様子をそれぞれがヤバいことであると認識して、緊張感が増す。

 モナが仕留めかけた竜も、包帯女の唱えた呪文によって、黒い輝きを放ちながら、傷が塞がる。

 本気で厳しいかもしれない。


 アウグストはその様子を睨むようにし、拳を強く握った。


「きっつ。時間制限付きかよ」


 弱音とも取れるその発言。

 しかし、アウグストの苦し紛れな一言を正面から否定する言葉が、


「おいおい……そんな弱気で、どうすんだよ……カハッ」


 先程まで動かなかった血だらけのレジーナがフラフラになりながら、告げた。

 アウグストは彼女の方に振り向くことはない。

 ただ背中を見せつつも、レジーナの声に反応して、


「うるせっ、お前こそ、ボロボロ過ぎてダセェぞ」


 冗談混じりにそう言った。


「はっ、別に……まだ本気出してないから」


「死にかけで、んなこと言われたって、説得力ないぞ。……休んでろよ。俺があの女ボコしてきてやるから」


 それはアウグストの本心から出た言葉だった。

 けれども、レジーナは足を前に踏み出す。


「休むわけないだろ。……私は、お前の相方だ。雑魚敵の相手くらいするさ」


「──勝手にしとけ。傷口痛んでも、助けてやらねぇからな!」


「ああ、望むところだよ」


 アウグストがレジーナの行動を止めることはない。

 軽口を叩くだけ。

 アウグストは、俺の肩に手を置いた。


「つーわけだから、さっさと終わらせような」


「ああ」


 俺もこの戦いを長引かせるつもりはない。

 出来うる限り最速で決着を付けようとするだろう。

 アウグストがレジーナの余力の心配をするのと同じように俺も、大事な仲間があとどれだけ戦えるかが気になるのである。


 ──包帯女との対峙が最も長かったアイリスは、消耗が激しい。


 魔法での回復に徹してくれたとしても、魔力は使い続けることになる。

 この場にいる者たちのダメージ量があまりに積み重なると、先にアイリスに限界が来る。


 ──となると、重要になってくるのは、


「カナの回復魔法になるのか……」


 回復魔法を専属で使う彼女は、アイリスの魔力切れをした際に唯一なんとかこの戦況を維持し続けられるポテンシャルを持つ。

 もちろん、そうなる前に包帯女、並びに竜やゾンビ、黒いゲートなどに対応しきれれば、1番いい。

 迅速な対処。

 スタンピードを鎮めることや、凶悪なモンスターを素早く倒すこととなんら変わりない。


「よし! レオとアウグストがあの黒幕を──俺とアレンとモナで竜と黒いゲートを潰す。アイリス、レジーナの2人は、調査隊とゾンビの殲滅及び、俺たちの援護をよろしく頼む! 陣形に関しては、各々の判断に任せる」


 ヴィランの的確な指令にそれぞれが最適な配置へと移動する。


「フフッ、始めましょうか。楽しい楽しい真剣勝負というものを──!」


 包帯女の挑発的な言動。

 それが引き金となった。

 それぞれが動き出し、戦火の火蓋が切って落とされた。




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[一言] 激戦の中でもほのかに感じる甘い空気(*´▽`*)
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