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【138話】勢揃い





 多くのゾンビと数十人規模の冒険者が入り乱れながら、激しい戦いが開始された。


 優位も不利もない。

 こちら側がゾンビの集団を圧倒する時もあれば、逆にゾンビの数に押し返される時もある。

 ゾンビの数は今のところ無限。

 黒いゲートを塞がなければ、終わることはないのだろう。

 そして、その黒いゲートの門番のように鎮座している凶暴な竜とこの場において最もヤバいであろう包帯女。


「取り敢えず、斬ってみるぜ!」


 ゾンビの頭上を踏みながら、駆け抜けていくのは、綺麗な刀身の剣を片手に正面から竜と包帯女に突撃するヴィラン。

 相手のスケールの大きさや威圧に屈さず、迷いなんてない。

 一直線に、


 その首だけを狙っている──。


「フフッ、無駄なことを何度も何度も」


「無駄かどうかは、試してから決めるってもんだ!」


 包帯女と対峙したヴィランは、含みのある言葉など歯牙にも掛けない直情的な剣捌きで迫る。

 しかし、その剣は包帯女には効果がない。


「なるほど。こんな感じか……」


「ここから、どうするのかしら?」


「ならっ──!」


 ヴィランは軽い魔法を包帯女にお見舞いする。

 アイリスやモナほどの魔力はない。

 気休め程度かどうかも怪しいくらいにその威力は控えめであるが、魔法が効果的かどうかを試すのには十分なものである。


 魔法が衝突する。

 その瞬間、無惨にも魔法は効力を喪失するかのように色を失う。


「魔法もダメなのか」


「アッハハハ! そんなことしたって意味なんてないの! 人間が私に勝てるわけないんだから!」


 ヴィランに手をかざし、その身を害する存在が悪魔のような甲高い声で叫ぶ。

 しかし、ヴィランは動じない。

 ただじっとその女のことを観察し続ける。


「ばぁ──!」


 恒例の衝撃波。

 威力からして、ヴィランには厳しいものである。

 が、それがヴィランに命中することはなかった。

 女の唇が揺れるだけ。

 ヴィランは、狂人に目を向けていたわけではなかった。その後方、今まさにその女の首を狙い続ける狂犬のような少年を認識していたのだ。


「あんま調子乗んなよ、女ァ!」


「なっ⁉︎」


 黒い短剣を振りかざし、気付かれることもなく背後を取ったその少年の瞳には怒りが満ちていた。


「────っ!」


 その鋭い斬撃は女を吹き飛ばす。

 はるか遠くに建てられた、過去の遺物を破壊しながら、その壁を貫きながら、女は数々の建物を巡る。

 包帯がボロボロに裂け千切れ、その爛れた肉体が露わになる。


「馬鹿ガァ! お前の作ったゾンビがキモ過ぎんだよぉ‼︎ 地下にうじゃうじゃ配置しやがって! 全部ぶっ殺したかんなぁ‼︎」


 その怒りは、本当にどうしようもないもので。

 全く見当違いなものであったが、今はそれすらどうでも良い。


「アウグスト!」


 思わずその名を呼ぶ。

 救世主のようにその場に君臨するのは、ある種の暴君だった。

 敵は全て滅殺し。

 立ちはだかる壁があろうものなら、無差別に壊して回るような過激な行動を幾度となく行っていそうな【神々の楽園】の中でも指折りの実力者。


 神速の如く現れたアウグストは、そのまま下に視線を向ける。

 竜を認識。


「うわ……また、めんどそうなのが……まあ、ぶっ潰すしかねぇなぁ」


 短剣を構えるアウグストにヴィランが近寄る。


「よう! さっきの攻撃は中々良かったなぁ!」


「誰だよオッサン」


「俺はヴィランだ!」


 2人が出会った。

 奇想天外な行動をする両Sランクパーティの問題児。

 その部分について言及するのは、後回し。

 今はただ、その2人が凶悪な竜をどう倒してくれるのかを見届けよう。

 アウグストは、ヴィランの名を聞き目の色を変える。そして、すぐさま下にいる竜に指を差す。


「あのクソ女は暫く動けない。だから、先にこのデカイの処理するぞ。遅れんなよ、オッサン」


「ガハハッ、いい度胸だ!」


「うるせぇ! 行くぞコラ!」


 落下するヴィランとアウグスト。

 斬撃を繰り出し、竜の両翼を根本からぶった斬る。

 コンビネーションなんてものは欠片もなかったが、各々が自慢の剣技で的確なダメージを竜に与えた。


「グォォォォォンッ‼︎」


 痛みを訴える咆哮が響く。

 大量の血が噴き出す傷口に向け、追い討ちをかけるかのように大きな氷の針が上空から落ちてくる。

 その魔法は、魔力ギリギリのアイリスが発動させたものではない。


「──アイシクルドロップ」


 その氷柱は竜の太くたくましい首筋を容赦なく貫いた。


「ギャァァ……⁉︎」


 氷柱は他にも無数に落下し、付近のゾンビにも大きな被害をあたえる。そして、黒いゲートにも──。


 コツコツと優雅な足音が響く。

 死屍累々、ゾンビと死にかけの竜をバックに黒髪を揺らす美女。

 安心した。

 俺は胸を撫で下ろす。この大事な戦闘中も、頭のどこかでは彼女の無事をずっと考え続けていた。

 だから──、


「お待たせ」


 ──モナ、無事で良かった。


 待ち侘びた。

 彼女の登場を。

 俺は安堵の笑みを零す。


 役者は揃った。

 こうなれば、あとはなんとかなるだろうと漠然と考えられる。

【エクスポーション】は勢揃い。【神々の楽園】からは強力な助っ人が手を貸してくれている。

 そして、調査隊の冒険者がこの場に加勢。


 最後の一手を、包帯の女を倒すための前段階は整った。




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  邪智暴虐の闇堕ち聖女〜追放された元聖女は理不尽な世界へ復讐するため、悪逆非道な制裁を執行する〜

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― 新着の感想 ―
[一言] エクスポーション全員無事でよかった~
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