【137話】頼もしい援軍
「何者なの? 凄い嫌な雰囲気だわ。彼女と一緒……」
瓦礫の上に足を置き、悠然とした面持ちで登場したのは、いつの間にかいなくなっていたパーティリーダーのヴィランであった。
外傷はない。
苦労の色ひとつ見せない振る舞いは、包帯女の機嫌を損ねるのには十分なことであったのだろう。
「この旧教会都市は、今や私の庭同然。それなのにらどうしてそんなに元気そうなのかしら?」
「ガハハッ、どうしでだろうなぁ。ウヨウヨしてた抜け殻は、全部切り捨てたが」
──やっぱ、ゾンビに遭遇はしてたんだな。
ヴィランはしっかりと戦えるアタッカーだ。
普段はあまり動こうとしないが、こういう非常時においては本領を発揮してくれる。
ヴィランは白い歯を見せ、手を大きく広げる。
「それからなぁ、もうひとつサプライズだぜ!」
ヴィランがそう告げると、多くの足音と共に声が近付いてきた。
なんだと思ったが、それは吉報。
数十人規模のフル装備を身に纏った冒険者が、ヴィランの後方から顔を見せた。
「お前ら、この旧教会都市のゾンビは全て掃討する! 武器を構えろ。反撃開始だ!」
「うおぉぉぉぉっ‼︎」
「やられっぱなしじゃ終われねぇよなぁ!」
「無様なだけじゃ終われないわ!」
「生捕りなんて舐めた真似したこと後悔させてやる!」
「おらっ、進めぇ!」
雄叫びを上げ、士気の高い調査隊の冒険者たちは、数多いるゾンビに挑む。
ゾンビも調査隊に狙いを定めて、行進するが、それを跳ね除けるくらいの勢いが調査隊にはあった。
「調査隊の皆んな……無事だったのか」
アレンは呟く。
アレンと共に行方不明になっていた調査隊の面々。
様々なパーティに所属している冒険者がその場に集う。
そして、
「もう、やけくそよ! じゃんじゃん回復魔法かましてやるわ!」
「こんなのさっさと終わらせて、私はアレンと一緒に帰るんだから!」
──カナ⁉︎ ……と、アレンの幼馴染までいるのか。
思わず二度見。
いやいや、と首を振り、当面の大問題へと視線を戻す。
──そっちに関しては、また後でだ。今は、包帯女を突破しないことには、どうにもならない。
幸いにもこの旧教会都市内において、2人はこちら側だ。
過去のいざこざがあったにせよ、この場で戦い、セントール子爵領に帰るという目的は変わらないだろう。
ここまで援護が揃ったなら、行くしかない!
「よお、ガキ共! よくここまで耐えたな!」
「遅いぞヴィラン」
「待ってましたよ。リーダー」
「ヴィランさん、無事で良かった……」
ヴィランとの再会を喜ぶ。
そして、次の瞬間、俺たちの意識は包帯女へと注がれる。
「ヴィラン。調査隊の救出は助かった、けど……」
「見てりゃ分かるさ、あの禍々しいレディを倒さないとなんだろ?」
「ああ。でも、アレンの攻撃が通じない……」
一気に削るという手段はなくなっている。
地道に俺の【腐食】でダメージを与えていくということも試したが、どうにも効率が悪過ぎる。
ヴィランの知恵が借りたい。
俺の意思は、しっかりとヴィランに伝わったようで、考え込んでいる。
「……弱点がないことはないだろ」
「それが分からないから困ってるんだよ」
「ならば、探すしかないな!」
ガハハと笑いながら、ヴィランは前に出る。
「ガァダァ……アァ……」
ゾンビの接近にも動じない。
両脇は俺とアレンが固めていた。
アイリスも魔法書を構えて、その行く末の活路を切り開く準備を整える。
調査隊は、既にゾンビと交戦中。
ゾンビがこちらに向ける勢いは、分散され、ある程度の余裕ができた。お膳立てとしては、完璧なものだ。
邪魔なんてさせない。
ヴィランがこの戦いにおいての希望をその瞳で捉えるまで、俺たちはなんとしてでも、全力の援護をし続ける!
「ガキ共、雑魚の相手は任せた。ちょっくら探ってくるわ!」
その背中は頼もしい。
酔っ払いのだらしなさなど感じない。
あるのは、【エクスポーション】のリーダーとしての風格。
「アレン、やるぞ」
「ああ、レオ。押し込めるだけ押し込もう!」
揃いつつある【エクスポーション】の戦力。
今度こそ、包帯女の好きにはさせない。