【136話】絶対絶命には陥らない
先に限界が来たのは、
「うぐっ……」
俺たちの方であった。
大きくしなった尻尾が俺の背中に激痛を与える。
アイリスの妨害が間に合わず、俺は無防備な状態でその攻撃を受けた。
──痛っ! ……ヤバい。もう一撃受けたら、多分耐えられない。
「あぁ……痛そう。このままだと死んでしまうわよ?」
「だ、まれ……」
「フフッ、やっぱり人間が苦しんでいるところを見ると気分が高鳴るわね。苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて──それから、苦痛に苛まれながら、死ぬところが、最っ高に素敵なのよ‼︎」
しっかり狂っている。
包帯の女は、歪な性癖を暴露しながら、俺が歯を食いしばっている顔を頬を染めながら凝視していた。
──これ以上は、やめたほうがいいかもな。
【釘付け】と【腐食】の解除を視野に入れる。
だが、解除したとしても、安全に離脱できるとは限らない。
視線を後ろに向ける。
「レオッ!」
アレンが飛んできていた──。
なんと律儀な。
救出までしてくれるなんて、やっぱりアレンは格好いいと思う。
アレンがこちらに到着するタイミングで、俺は2つのスキルを解く。
俺はそのまま盾を構えて背中を向けた方向へと下がる。
「逃がさないわよ」
「はぁっ!」
前に出てこようとした包帯女を剣で止めるのは、アレン。
その剣は包帯女を貫けないが、俺が離脱する隙を作る足止めという意味合いであれば、大きな意味を持ったものだった。
「フフッ、邪魔をしても無駄なことよ。貴方ごと吹き飛ばしてあげる」
「──っ!」
包帯女は不穏な言葉を告げる。
またあの謎の衝撃波がやってくる。
盾を構えて、それを受けたとて、その勢いに押し流され、ダメージ的にはあまり軽減されない気がする。
「マジックシールド!」
アイリスが防御魔法を展開する。
これなら、ある程度の威力なら耐え切れる。
アレンと俺は、包帯女から全力で離れる。
「──ばぁん!」
豪風。
俺とアレンは、しっかりとそれを受けた。
──これは想像以上に、ヤバい。
アイリスの防御魔法で衝撃波の威力を減衰させていなければ、どうなっていたか分からない。
今のをまともに食らって、無事だったアレンがどれほど凄いのかを改めて実感する。
「レオ、大丈夫か?」
「ああ、アイリスのおかげでな。でも……」
──これで振り出し。
脅威は強者感を存分に見せつけてくる包帯女だけではない。
その下の竜も相当危険だ。
ゾンビも減らないし、このまま劣勢が続くようなら、俺たちに明るい未来は訪れない。
「アイリス、魔法はあとどれくらい使えるかな?」
アレンの確認にアイリスは少しだけ苦しそうな顔をする。
「もうあまり──さっきの防御魔法で余力分魔力の大半を使ってしまいました」
「そうか」
さて、俺が与えたダメージも包帯女の命を刈り取るにはまだまだ足りない。
また【釘付け】【腐食】で耐久チャレンジをしてやろうとは思えない。リスクが高過ぎた。
考えていたより、攻撃がもろに通ってしまった。
痛む背中は、未だ焼けるように熱い。
装備もかなり損傷し、持久戦はもう現実的ではないと理解できる。
「3人だと厳しいかもね」
「そうだな。せめて、ヴィランかモナがいてくれれば、違ったのかもしれないけど」
「はぐれたんだろ?」
「ああ、2人が無事かも分からない」
安否不明。
都合よくこの2人が助けに来てくれるかと言われれば、それは未知数なものだ。
「あらあら、もう終わりかしら?」
──チッ、余裕ぶりやがって。
有利対面を作り出した包帯女。
だか、その喜びに満ち溢れた表情はすぐに崩れ去ることになる。
「……おい、随分と楽しそうにやってんじゃねぇか」
髭面のオッサンの登場によって──。