【135話】無駄話
慎重に戦闘を進めていかなければ、
「ああ、痛い……でも、それほどの効果はないのね」
包帯女と俺の睨み合いは続いている。
こう着状態は、継続して。
俺の【腐食】によるダメージは包帯女に蓄積されていく。
変化があったとすれば、下にいる竜が暴れ出したことと、包帯女が焦りを抑えつつあるところだろうか。
「余裕な顔だな。でも、この状態が続けばお前は──」
しかしながら、包帯女はにニヤリと不敵に表情を動かす。
持久戦に活路を見出した。
そんな感じだ。
「フフッ、貴方が無事なのは、あの人間が私のペットの邪魔をしているから──けど、それがいつまで続くかしら。魔法は無制限に使えないわよね? だとしたら……」
──分かってる。アイリスの魔力が無尽蔵でないことくらい。
どれだけ優れた魔法使いであっても、限界はいつか必ずやってくる。
しかしながら、それは目の前の包帯女にも同じことが言える。
【腐食】によるダメージは決して大きくはない。
けれども、着実にその身に積もり続けている。
厳しい状況なのはお互い様。
憎まれ口を叩いているのは、本質的に言えば意味がない。
──けど、そんなこと言われるとこっちも焦ってくる。
「アイリスの魔力が尽きるより前に、お前の生命を削り切ってやるよ」
「あらそう……フフッ、それはとても楽しみね」
ブラフであることは既に透けている。
正直なところアイリスがどれほど魔法を放てるのかが分からない。
ゾンビ戦や包帯女とのやりとりしている間にどれだけ消耗したのかを直接見ていない。
だからって、逃げ腰になることはないが、
「あっちは相当大変そうね」
息切れしながら、包帯の女はアレンとアイリスの方に視線をやる。
ゾンビの勢いは衰えるところを知らないが、アレンは剣を振り続け、アイリスはアレンと俺の両方を交互に確認しながら魔法を使っている。
こっちがジワジワ削っているのに対し、包帯女は従えた竜の一撃で俺の耐久を完全に削り切るつもりだ。
実際それだけの威力があった。
アイリスの魔法で妨害されていなければ、俺の背中に直撃。
骨が折れる程度じゃ済まなそうだ。
「それでも、俺らが勝つ」
頑なに俺は盾を押し付け続ける。
「フフッ、無駄話だったわね」
気晴らし程度に考えているのだろう。
包帯女は未だに元気。
削る速度は、中々遅かった。
一般的な魔物であれば、もっと早くにダウンさせられる。それらとは一線を画していることが明らかということである。
長期戦になる予感がした──。