【134話】スキルを活かせ
俺のやろうとしていることは至極単純。
攻撃の当たらない相手であれば、絶対に当てられるようにしてしまえばいい。即ち、俺のスキルである【釘付け】と【腐食】を併用して、じわじわ削って行く作戦である。
欠点としては、女の動きを完全に封殺し、確実にダメージを与えられそうであるものの、その下にいる邪悪な雰囲気の竜が干渉してきた場合、無防備に攻撃を喰らうという点がある。
──まあ、そこは仲間の援護に期待しておこうか。
俺が包帯の女に集中できるように、接近するゾンビを退けながら、簡単な補助をしてくれることだろう。
「アイリス、やってくれ」
俺の合図と共に詠唱を終えたアイリスは、キッと瞳を見開く。
「ウィンドバレット!」
▼▼▼
浮かび上がった勢いのまま、盾を構えて衝撃に備える。
目の前に包帯の女が迫る。
下の竜は動かない。
女が油断している証拠だ。
──痛い目見てからじゃ、遅いんだからな。
【釘付け】でキャッチする手法は多分成功する。
問題は、【腐食】が相手に効果的かどうか。
アレンやレジーナでは、傷を付けられなかった。そんな相手に純粋なアタッカーでもなんでもない俺の攻撃手段が通用するのかが分からない。
「アハハッ! 今度は盾の子、私と戦えるのかしら?」
「期待していろよ!」
「ああ、それは楽しみだわ」
うっとりと頬を染める包帯の女は、やはり無防備だ。
無防備なのだが、それでいて恐怖の色が全くないというのが恐ろしい。
戦い慣れしているとか以前に、痛みへの恐怖は多く者が持つ。
それがないのは異常者だ。
感覚が死んでるか、痛みをもろともしない強い精神力を持ち合わせているのか……どちらにせよ厄介な相手に変わりない。
包帯の女は俺が盾で直接殴るだけであると思っているのだろう。
手を広げて、その攻撃を待っている。
──甘いよ。そんな単純明快な手で攻め切ろうなんて思ってないんだ。
【釘付け】
「────⁉︎」
包帯の女と俺の盾が密着する。
相手は何が起きたのか理解が追いついていないらしい。
「どうだ?」
「……そうね。考えなしってわけじゃないことは伝わってきたわ」
女の顔色は舐め切ったものから、少しだけ威のあるものへと移り変わった。
脅威であると認識したか。
しかし、この状態が続くだけなら、女にとっての不都合は少ない。
視界が狭まり、動けない。
それだけだ。
現在進行形で跨っている竜は自由自在に動けるし、ゾンビの大群が足取りを止めるということもない。
「でも、それだと時間稼ぎにしかならないわよ。お仲間さんを逃してあげるってこと? ふふっ、優しいのね」
──まあ、それでもいいんだけどな。
大切な仲間がこの化け物の手が届かない場所に行ってくれればと思う。しかし、それは俺の独りよがりな考え。
アレンやアイリスは俺を置いて逃げたりしないだろう。
だから、時間稼ぎだけでこんな危険は犯して冒してやらない。
【腐食】
「うっ……⁉︎」
動揺した。
包帯の女の焦った顔をここにきて初めて拝んだ気がする。
──突破口が見えたかもしれない。
「俺の毒は……うまいか?」
「ああ、小賢しいわ。その息の根を今すぐに止めてあげたいくらいよ!」
余裕は消え去った。
言葉遣いは荒く、睨みつける女の瞳は憎悪と怒りに満ちた灼熱に燃えるような色であった。
暴れる包帯女は、髪を乱し、充血した瞳で口から吐血もする。
均衡が崩れた瞬間、女の跨る竜がようやく動き出した。
揺れが伝わる。
──来るっ!
長い尾がムチのようにしなりながら、こちらに飛んでくる。
だが、
「ウィンドバレット!」
アイリスの強力な風魔法が、その尾が俺に命中するのを妨害する。
その間も包帯女には、【腐食】によるダメージが蓄積され続ける。
「うっ……できれば離して貰いたいのだけど」
「離さない。俺は、俺の役割をこなす。例え、死の淵に立たされたとしても、お前の生命を削り切るまでは、絶対に終わらない!」
──俺とお前、どっちが先に倒れるか。我慢比べだ。
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