【127話】静かな別れと希望溢れる再会
「それでは、俺は行きますね」
「うん……」
別れの挨拶を済ませる。
ギフリエさんは、小さく頷き、そしてあるものを俺に差し出してくる。
「レオ……あげる」
「これは?」
「御守り……きっと役に立つから」
手のひらサイズの小袋。
中身はなんだろうと括ってある紐に手をかけると、ギフリエさんは顔を顰めてそれを止める。
「えっ……」
「開けないで……中身を見てはいけない」
「わ、分かりました」
「ん……」
──何が入っているんだ?
どうしても中を見られたくないのか、ギフリエさんはその小袋の上からさらに布を巻き付ける。
そんなに見られたくないものなのに、俺にくれるのか。
疑問に思うが、ギフリエさんの意思を尊重しようと、俺はその小袋を懐に入れた。
「じゃあ、これで」
「うん……」
少々名残惜しくもあるが、ギフリエさんとはここでお別れだ。
俺は、先程聞こえた恐ろしい鳴き声の主を探すべく、声のした方へと向かう。
旧教会都市の中央に近い場所からであった。
もしかしたら、アイリスとレジーナが接敵しているのかもしれない。
──急げ、俺!
前だけを向き、息を吐きながら駆け抜ける。
「私が……守るから」
最後のギフリエさんの呟きは、俺の耳には届かなかった。
▼▼▼
ゾンビの数が多くなってきた。
声のした方向に近付けば近付くほどに密集度合いが物凄いことになっていっている。
ぶっちゃけてしまえば、辿り着ける気がしない……。
「アッ……ガゥァ〜」
「どけっ!」
近付いてくるゾンビを盾で思いっきり吹き飛ばす。
しかしながら、暫くするとゾンビはむくりと起き上がり、再びこちらに向けて、ゆっくりと接近してくる。
「キリがない……」
打撃だけだとゾンビの息の根を止めきれない。
やっぱり、決定打に欠ける。
対人戦や通常の魔物に対してであれば、盾での打撃は有効であった。しかし、ゾンビとなるとそうもいかない。痛みなど感じない。無我のままに生者に群がる死体。
動けさえすれば、それだけでいい。
そんなゾンビ相手に俺はかなり相性が悪い。
「せめて、アタッカーがいてくれればな」
サポートに特化しているので、サポートする相手がいないと本領発揮がしにくい。
ジリジリとゾンビに囲まれながら、俺は考える。
進みたい。
だが、無闇にゾンビの群れのど真ん中に入れば、四方八方からの攻撃が飛んでくる。防ぎ切れるという保証はない。
──どうする。迂回するか。いや、同じ結果になるだけだ。ゾンビは旧教会都市の中央を囲むように布陣している。強行突破は必須だろう。
「アッガァ……」
もどかしい。
あと少しで目的地。視線ではその場所を捉えている。にも関わらず、これ以上の前進ができていない。
「邪魔をするな……」
「ダゥッ……アデェ」
「くそっ!」
どうしようもない。
諦めかけたその時、俺の横を風のようなものが吹き抜ける。
輝く剣筋は、真っ直ぐと正面に向き、斬撃は何層にも連なるゾンビの壁をいとも簡単に跳ね除ける。
「ギャァァァァッ!」
周囲のゾンビが吹き飛ぶ。
その疾風の如く現れた人物を俺は待ち侘びていた。
「アレン……?」
「やあ、タイミングはバッチリかな」
金色の髪を揺らし、アレンは俺の横に立った。