【124話】不思議な女性と墓場
初対面……のはずだ。
しかし、目の前の女性の顔は、どこか懐かしく感じる。
黒い髪に少しだけ金色の部分があり、服は真っ黒であるのに加えて、肌の露出は極端に少ない。
目の部分にも黒い布。
不思議な女性。
そして、この旧教会都市という人気のない場所にひとりでいること自体が異質なものである。
「貴女は──何者ですか?」
尋ねてみるが、女性は俯き答えない。
お腹の前に組んだ手は、力を入れたようにぎゅっと握られている。
「……お墓」
「え?」
女性の呟きはとてもシンプルであった。
おずおずと女性は指を指す。
その方向には、確かに墓標と思えるものが無数にあった。
「お参り……大事なこと……」
──墓参りってことか。
確かに、墓石の近くには、最近添えられたであろう花束が置かれていた。
女性は困ったように唇を噛む。
疑ってしまってなんだが悪い気分だ。
「すみません、変なこと聞いてしまって」
すぐに謝罪の言葉を口にするが、女性は首を振る。
「私も……喋るの、得意じゃない……ごめんなさい」
「いや、その──」
女性の低姿勢さに思わず、戸惑う。
旧教会都市に壁を張った悪いやつ。
アレンたちの失踪に関係しているのかもしれないと考えたいが、こんなにも丁寧な反応を返されると、そんなことは考えられなくなる。
──しかし、よく無事だったなこの人。
旧教会都市内は、いつからだか分からないが、ゾンビが溢れていた。
この場所はたまたまゾンビの姿が見えないが、絶対的に安全地帯というわけでもないのだろう。
「とにかく、ここは危険です。すぐに外に……って、出れないんだった」
失念していた。
透明な壁によって外に出れないことを。
女性はキョトンと首を傾げる。
「危険……? どうして?」
──間違いない。ゾンビに襲われなかったんだろうな。
ここは旧教会都市のかなり奥の方だ。
ゾンビだって多く徘徊している。
「この旧教会都市には、ゾンビがいるんだ」
「…………」
「だから、ここは本当に危険で──!」
「…………」
「すぐに安全な場所……に……」
なんだろう。
すごく眠たくなってきた。
緊張が解けたとか、そういうのではない。
目の前の女性と話してたら急に睡魔が襲ってきたのだ。
「大丈、夫……?」
女性は心配そうにこちらに歩み寄ってくる。
ダメだ。
意識が……保てない。
視界が狭まり、瞳に映る景色がぼやけてハッキリと見えなくなる。
足に力が入らず、そのまま倒れそうになるが、俺の両肩はしっかりと支えられる。
──ああ、情けない。こんな時に……。
遠のいていく意識の切れる瞬間、女性の声が消え入るように聞こえてくる。
「安心、して……」
俺はそのまま意識を手放した。