【123話】回り道の先には
「血迷った……って、ことじゃなさそうだな」
戸惑いながらも、レジーナはそう確認をしてくる。
「ああ。ちゃんと考えて──決めたからさ」
「たくっ、考えた結果がそれかよ」
大盾にアイリスとレジーナの乗せ、俺は穴の向こう側を見据える。
やろうとしていることは至って簡単。
穴の向こう側に2人を送り届けること。
足止めされている暇なんてない。
少しでも早く、目的地に到着する必要が俺たちにはある。
──黒幕を倒さない限り、仲間を助けることもできないし。
「アイリス、ごめんな。後で必ず追いつくから」
「はい。私は私の役目を果たします。レオさんは、レオさんのやるべきことを──」
アイリスの言葉を受け静かに頷く。
俺は、モナとアウグストの救助に行くわけじゃない。
優先順位はしっかりと認識した。
あの2人よりも、これまで行方不明になった者たちの方が、はるかに危険な状態にある可能性が高い。
……実力のあるアレンを除いてだが。
中央に向かい、壁を作りだした黒幕を見つけるのもそうだが、本来の目的である行方不明者の探索もしなければならない。
どうせ分断されたのだ。
この先でアイリス、レジーナと離れ離れにならない確証はない。
であれば、先手を打って別行動。
最短ルートでアイリスとレジーナには、旧教会都市の中央部に向かってもらう。
俺は迂回し、行方不明者の探索を続けながら、中央部へ近付こうと考えている。
運良く迂回先で黒幕と思しき人物と鉢合わせればなおよし。
効率重視。
固まって動いているだけではないということを、俺たちを嘲笑っているであろうやつに思い知らせてやる。
「じゃあ、飛ばすぞ」
腰を落とし、反動を付ける。
そして、思いっきり、盾で2人を空中に打ち上げた。
距離十分。
大穴を超え、アイリスとレジーナは対岸に着地する。
「レオさん!」
アイリスがこちらに向かって大声で呼び掛ける。
「ご武運を!」
「ああ、2人も!」
別々のルートを進む。
アイリスとレジーナであれば、大丈夫だろう。
何故か自然とそんなふうに考えた。
▼▼▼
「はぁっ、はぁっ」
迂回したルートにゾンビはあまりいなかった。
快適に駆ける。
それにしても、先が見にくくなってきた。
日が暮れ始めている。それに加え、白い霧のようなものが周囲に立ち込める。
──俺を惑わしてるのか?
予期せぬ不意打ちを狙ってのことなのか、あるいはただの自然現象か……いや、自然にこんな濃い霧が急に出てくるはずがない。
「近いのか?」
現在地は、実のところあまり分かっていない。
この道の先がどこに繋がっているのかということも、分からない。
濃い霧のせいで方向感覚がおかしくなっているのだ。
「────!」
だから、目の前の人影が視認できた瞬間、俺の顔は強張った。
最初は、またゾンビかと思ったがそれは違った。
こちらに寄ってくる気配もなく。
たどたどしい足取りでもない。
地を踏み、その人物の方へと足を進める。
「……誰?」
こちらに気付いて、その人物は振り向く。
その声は、透き通るように綺麗なものだった。