【122話】揺らぐ信念を
やるべきこべきことが決まれば、あとは行動するのみである。
【エクスポーション】と【神々の楽園】のタッグチーム。
国内であれば敵なしクラスの最強メンバーで向かうのは、当然旧教会都市の中央部。
──何かの魔法を使って壁を張っているのであれば、中心にその壁を作った張本人がいるはずだ。
「おらぁ、道を開けろよ〜」
先陣を切って進むのは、アウグストとモナ。
あちこちで徘徊しているゾンビを吹き飛ばし、ひたすらに前へと進む。
「集団で来ないと、本当に弱いわね」
「腐りかけのノロマだかんな。骨も脆いし」
「殴り甲斐も薄いわ」
バキッ、ボキッ、ガコンッ!
小気味いい音が響く。
あれは、もはや災害だ。
アウグストとモナの通過した場所が綺麗に片付き、その両脇にゾンビの死体がズラリ。
あらゆる敵を討ち滅ぼし、無双する2人を後方から追いかける俺たちは、若干引き気味に眺める。
「たっ、楽しそうだな」
「ほっとけ。どうせ、落ち着けと言っても、暴走は止まらないからさ」
慣れたようにレジーナは吐き捨てる。
アイリスの方も、モナの生き生きとした機敏な動きを無表情で見つめている。
……いつものこと。
そういう風に考えてしまう俺たちはきっと、感覚が麻痺しているのかもしれない。
▼▼▼
展開が変わったのは、順調に前を進む2人がとある事態に巻き込まれてからであった。
ぐんぐんと速度を上げるアウグストは、目の前に迫るゾンビの処理に夢中。モナも同様であった。
それが、悲劇のきっかけになったのだ。
「もう少しで、中央広場にっ──!」
ガラガラッ!
アウグストがそう言いかけるが、次の瞬間、彼の姿は消える。
消滅したというわけではない。
下に落下したのだ。
踏み込んだ足は、地面に接することなく、空振り、重力に従って下る。
「あっ⁉︎」
「────っ!」
落下するアウグストに手を伸ばしたのは、1番近くにいたモナ。
なんとか、アウグストの手を掴むことに成功したのだが──。
「きゃっ!」
モナの立っている足場が崩れて、アウグストと共に下へと落下していく。
「モナッ! アウグスト!」
間に合わない。
地中の闇に消えていく2人を手の届かない場所から、見ていることしか出来なかった。
穴はかなり深い。
どうして気が付かなかったのだろう。
どうでもいい。
助けに行かなければ!
穴を降りようとするが、後ろからレジーナに腕を掴まれる。
「やめとけ。入って、出られる保証なんてないんだぞ」
「だからって、2人を見捨てろってことか? 俺は嫌だ」
──失いたくない。
「状況を考えろ。これが罠の可能性だってあるんだ」
「罠だったとしても、俺は助けたい!」
「はぁ……立場を理解しろ。冷静に判断できねぇようなら、2人を助けることもできない!」
「────!」
レジーナの言うことが正しい。
焦って、何も考えられていなかった……。
「悪い。……驚いて、目の前が見えてなかった」
謝ると、レジーナは首を横に振る。
「いや、お前の気持ちは痛いほど分かるよ。けど、そういう時こそ冷静に動かなきゃってこと。……お前の仲間はまだここに残ってるんだろ?」
──ああ、そうだった。
アイリスの方に視線を向ける。
彼女は震えていた。
モナがいなくなり、俺がこの穴に飛び込もうとしたからだろう。
何をやってるんだ、俺は。
「アイリス……ごめん」
「レオさんの気持ち痛いほど分かるから──私は動けなかっただけで、レオさんと同じ気持ちだったから」
アイリスの表情は曇る。
アレンが帰ってこなくて、1番不安だったのはきっとアイリスだった。
今も目の前で仲間が消えた。
アイリスは【エクスポーション】の中で最も若い。
大人しくて、聞き分けがよくて、つい忘れてしまいそうになるが、支えてあげないといけない。
──情けないな。俺がもっとしっかりしなきゃいけないのに。
冷静に考える。
2人の救出は悪手。
黒幕が仕掛けた罠の可能性──。
大穴によって、旧教会都市中央への道中が露骨に阻害されていること。
不自然だな。
まるで、部外者をそこに近付けたくないみたいな……。
この大穴が単純な罠とかではなくて、時間稼ぎの用途で用意されたとしたら?
考えが巡る。
──旧教会都市の中央に何かがあるのか?
「なあ……」
「あ?」
「この穴はやっぱり不自然だ。……足止めされてるみたいな、そんな気がする」
「…………」
急いだ方がいい感じがする。
しかし、穴は大きく飛び越えるのは簡単ではない。
「レジーナ」
俺は、レジーナに頭を下げる。
「アイリスを頼む」
たったひとつ。
頼み事を口にする。
その意味合いがどういうことなのかというのをレジーナは薄々察したのか、驚いた顔をした後に長い長いため息を吐いた。