【120話】帰れない5人の選択
乱戦模様。
ゾンビの大群に対して、こちらはたったの5人。
通常であれば、数に押されて簡単に負けてしまうような不利な戦いであるのだが、この場にある全員が国内有数の実力者である。
「ほ〜ら、これでも食っとけよ。……っ、くっさ! 風呂入れよ雑魚がっ!」
そこらじゅうに転がっている石ころをゾンビに投げつけ、頭部から破壊して回っているのが、暴君のような口の悪さを見せるアウグスト。
罵倒するのは、一向に構わないのだが、ゾンビにそんなことを言ったところで意味などないと感じる。
「ちっ、キリがねぇぞ。どうする?」
レジーナが叫ぶ。
「ああ? 全部ぶっ殺すに決まったんだろうがぁ! 押せ押せだぁ!」
「その通りよ! 何度も何度も、しつこく向かってきて。ここで、全滅させてやるわ!」
──おいおい。なんでそんなにやる気なんだよ。
アウグストとモナは血の気が多い。
わざわざたくさんのゾンビが集まっている箇所に向かって突撃していく。無論、負けたりはしない。
凄まじい威力の攻撃とゾンビが追いつけない速度で蹂躙している。
──2人は強いが、それでも足りない。
数が多過ぎた。
倒す数よりも、寄ってくる数の方が圧倒的。
終わりは見えないし、終わりがあるかどうかも分からない。
ゾンビの無限湧きとかは考えたくないが、この大群を目の当たりにしてしてしまうと、その可能性も脳裏をよぎる。
「レオさん、引きましょう」
消極的な発言ではない。
冷静に戦況を分析した結果であった。
アイリスは、魔法でゾンビの足止めを試みる。
「グラスバインド!」
荒廃しきった旧教会都市に植物が根を張る。
その植物はゾンビの足に絡みつき、やつらの動きを鈍らせた。
「おらぁ、まとめて葬ってやるわぁ! ……いだっ!」
「いい加減にしろ。撤退だぞ」
レジーナはアウグストをぶん殴り、そのまま服の襟を掴んで引きずり戻す。
まるで、野に解き放たれた狂犬に首輪とリードを付けようとする飼い主のようであった。
「モナちゃん、戻ろ」
一方、アウグストほどアドレナリンがドバドバではなかったらしいモナは、アイリスの言葉を聞くと黙って、後方に飛び、ゾンビの大群から距離を取った。
「レオさん!」
「今行くよ」
盾で押さえ込んでいたゾンビを吹き飛ばして、俺は最後尾から、ゆっくりと後ろに下がる。
落ち着いて話せる場所へ向かう必要がある。
俺たちは、仮拠点としているヴィランが待つ場所へと急いだ。
▼▼▼
「嘘っ……」
アイリスの息を呑む声。
それもそのはず。
仮拠点として、アイリスが浄化したこの場所は、ゾンビの死骸が多く散乱しており、ヴィランの姿もなくなっていた。
──ヴィランの姿がないってことは、まだ無事である可能性があるな。
亡骸が発見されなかったことは幸いだ。
ヴィランのことだ、しぶとくゾンビの群れからも逃げているはず。そう信じたい……。
「ひっでぇな……」
レジーナは鼻を摘み、その死屍累々な光景に目を細める。
異臭がする。
ゾンビが動かなくなって、それなりの時間が経過した証拠なのかもしれない。
「ヴィランが襲われたのは、俺たちが戻ってくるかなり前だったのかもな」
「そうね。焚き火もすっかり消えてるようだし」
足元にあった炭の残りカスを踏んだモナは、足の位置をずらしてそれを確認していた。
「んで? こっからどうすんの?」
アウグストは、周辺を見回しながら、歩き回る。
ここにはもう何もない。
頼りになるヴィランもいなければ、せっかくアイリスが浄化したのも無駄になってしまった。
──ゾンビは旧教会都市の至るところにいる。
「拠点がこれじゃあ、ここも危険だ」
「どうする? 帰る?」
「馬鹿か。探し物どうすんだよ」
──帰れないよな。
ここに来たのにはちゃんとした理由がある。
【エクスポーション】は戻ってこないアレンを見つけて連れ戻すため。
アウグスト、レジーナの2人は、何か大切な探し物を見つけるため。
目的を達していない。
成果も得られていない。
手ぶらで帰るには、状況が変わり過ぎたし、先へと進む以外に選択肢はない。
「どうする?」
俺は、モナとアイリスに問いかける。
このまま引くか否か。
俺の独断では決められない。
もしかしたら、俺たちが想像しているよりも遥かに危険な場面が巡ってくるかもしれないから──。
2人は考える間もなく、口を開く。
「探索を続けるわ!」
「アレンさんとヴィランさんを探します!」
「そっか。分かったよ」
どんなに危険であっても、逃げる場面ではない。
そのことを2人は自覚し、立ち向かう覚悟もしている。
──やることは決まった。
「アウグスト、レジーナ」
そして、それには目の前にいる最強の2人が、助っ人でいてくれるとより助かる。
「協力してくれ。旧教会都市で起こっている問題を解決する」
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