【118話】最強ペア再び
「────ッ!」
何者かの叫び声を聞いた。
絶叫と言うべきか、ともかくゾンビや魔物とはまた違うしっかりとした恐怖を含んだ声。
それはつまり、行方不明になっていた調査隊ではないかと考えられる。
「今の聞いたな?」
「ええ、向こう側から聞こえたわ」
声のした方に指を刺すモナ。
アイリスもその場で立ち上がる。
「急ぎましょう。もしかしたら、襲われてるのかもしれません!」
救助へと向かうことを俺たちは、総意で決める。
どうして叫び声が上がったのかが気になる。
──急げ! 絶対に助けるんだ!
大胆に。
そして、足音を潜めることなど考えずに俺たちは走る。
悲鳴の聞こえた場所に向かって──。
▼▼▼
ああ、来なきゃよかったよ。
「はぁ……」
それを見た瞬間ため息が出てしまう。
惨劇が目の前に広がっていたからではない。
大量に横たわるゾンビの動かなくなった姿。
中には粉々切り捨てられた個体も存在していた。
「うわぁ、もう。コイツらキモ過ぎ! 刃先がベタベタしてるだけどぉ!」
「お前が騒ぐから、余計に沢山寄って来たじゃねぇか! ふざけんな!」
「あいだっ!」
──とんだ茶番だ。
目の前のふざけた光景を目の当たりにし、俺だけでなくモナもげんなりしている。
アイリスは、呆気に取られたような顔で不気味なこの場所に不似合いな緊張感の欠片すらない光景を眺めていた。
「なにしてんの?」
声をかけると、ぶたれた頭をさすっている少年は、パッと顔色を明るくする。
「あっ、レオっちじゃーん! どもども〜♪」
──俺の心配を返せ。
ヘラヘラしながら、こちらに歩み寄ってくるのは、武術大会の決勝にて激戦を繰り広げた相手であるアウグスト。そして、アウグストに手を焼いているであろう困り顔のレジーナであった。
「こんなとこで何してんの?」
「それはこっちのセリフだよ……」
俺の顔を見て、そのあとアイリスとモナの方に視線を向けると、アウグストは軽く手を振った。
「もしかして、パーティで冒険とかしてた? 邪魔しちゃった?」
「いや、そんな楽しいもんじゃないから」
「え〜、そうなの?」
──いや、当たり前だろ! 誰が好き好んで、こんな不気味な地域にほのぼの冒険しに来るんだよ。
旧教会都市に向かおうなんて冒険者はほとんどいない。
それこそ、緊急の依頼や、報酬の美味しいものでない限り、この場所に入り込むなど、するわけがない。
そういう意味で言えば、アウグストたちがここにいるのも疑問である。
「それで、そっちはどういう要件でここに?」
「探し物だよ。たくっ、なんで私までこの馬鹿ガキに付いてこなきゃいけないんだ……」
尋ねると、レジーナがこちらに寄ってきて答えた。
人探しをしている俺たちと物探しをしているアウグストたち。
対象は違えども、似たような目的でここにいるのかと、納得する。
「この馬鹿が、パーティハウスの掃除サボったせいで、罰としてこんな任務押し付けられたんだよ」
「いや、それだと俺が悪いみたいじゃん!」
「お前が悪いんだよ。自覚持てよ」
アウグストの反論をレジーナは受け付けない。
軽口を叩き合う2人を他所に前に出てきたのは、アイリスであった。
「あの、少しいいですか?」
「んあっ?」
アイリスの瞳は真剣なものであった。
「おふたりは、旧教会都市で行方不明になった人をご存知ですか?」
彼女の質問にアウグストとレジーナはそれまでの軽い空気を捨て去り、揃って頷いた。




