【115話】帰らない調査隊
「行くわよ、殴り込みに!」
黒髪をサッとたなびかせ、モナは堂々とそう宣言する。
そんなモナのことを眺めながら、俺はボソリと呟く。
「……いや、そんな力任せな任務じゃないから」
大盾を背負いながら、俺は後方にいる2人のことを確認する。
アイリスとヴィラン。
今回ばかりは、2人も心配そうな顔である。
「まさか、アレンがなぁ……」
ヴィランの未だに信じられないといった顔が印象的だ。
流石に酒も飲んでいない。
それだけ、緊急性を伴っているということだ。
アレンを含んだ旧教会都市へ向かった調査隊。
日帰りの任務であったはずだったが、それらの者たちは帰ってこなかった。
彼らの動向を探る。
そのような依頼が【エクスポーション】に緊急案件として舞い込んできたのだ。
あのアレンが付いていながら、何か大きな問題に遭遇したとは、ここにいる一同は考えたくない様子であるが、冒険者ギルドから急な申し出。
アレンがどのような状況に置かれているのか心配するなという方が無理な話であった。
「もし、見つからなかったら……」
俯くアイリスにヴィランは、笑いかける。
「見つけるさ。俺の目を信じろよ! ガハハッ!」
能天気に笑っているが、ヴィランも気が気でないことだろう。
強がりとも思えるその態度。
しかしながら、今はその強がりさえも心強く思えてくる。
「目的は分かってるな」
「アレンの捜索と保護」
ヴィランの確認に俺は即座に答える。
「そうだ。絶対にアレンを連れ戻すぞ!」
俺たち【エクスポーション】は、旧教会都市に向けて足を進めた。
▼▼▼
──ここが旧教会都市か。
この場所を訪れるのは初めてだ。
3年間、【エクスポーション】として活動をしてきたが、この薄気味悪い辺境な地に足を踏み入れることは、今回を除いて一度もない。
本来、こんなところに来るつもりはなかった。
来たくもなかった。
亡霊が怖いとかではない。
予想外の事態が起こる可能性が高そうだなと直感的に感じていたからだ。
「さて、どうするか……」
旧教会都市への入り口付近。
地形は複雑であり、入り組んだ路地や建物によって見通しは相当悪い。
しばし考えていると、肩を叩かれた。
「レオさん、私はここの出身だって覚えてますよね。ちょっとくらいなら、ここに詳しいと思います」
そう申し出たのはアイリスである。
案内役を買って出たアイリス。
けれども、3年前とは、この場所も大きく変わっている。
崩れた建物や塞がれた道も多い。
──けど、アイリスが適任か。
俺もモナもこの場所に来たことがない。
ヴィランがどうかは知らん。
そうなってくると、多分アイリスにどのルートで進めばいいかを教えてもらうのが1番安心できる。
「悪い。頼めるか」
「もちろん!」
アイリスはそう言い、旧教会都市の探索において1番前を進んだ。
アレンの探索が開始される。
ゆっくりと見落としがないようにくまなく探す。
「うわっ……」
「酷いわね」
「こりゃあ、驚きだなぁ……」
しかしながら、アレンは見つからない。
それどころか、生者の気配さえない。
目に入ってくるのは、過去に亡くなったであろう人の人骨や魔物の死体。そして、瓦礫や枯れた草花。
──こんなところにアレンはよく来る気になったな。
調査任務とはいえ、この世とあの世の境目みたいな場所。
仕事であっても、お断りしたいようなものである。
「匂いも強烈ね……」
モナは鼻をつまむ。
「モナちゃん、我慢だよ」
「ええ、大丈夫よ。口で呼吸するから」
──そっちの方が良くない気がする。
匂いがなければいいというものでもないだろう。
ここの空気はあまり吸い込みたくない。
「アイリス、周囲を浄化するような魔法とかってあったりするか?」
皆んなが体調を崩したりする前になんとかしたいなと考え、アイリスに尋ねる。
「多分、出来ると思うけど……都市中にその魔法はかけれないかな」
「ここら辺で十分だ。お願いできるか?」
「分かった!」
アイリスが詠唱を始める。
魔法が発動すると同時に澱み切った重い空気は、晴れて、薄暗かった周辺がほんの少しだけ明るくなった。
──安全地帯の完成だな。
旧教会都市での探索は困難を極めると予想される。
空気の悪い場所に長期間居座るのは、身体に悪影響を与えることもある。
だからこそ、こうしたセーフティな場所を確保する必要があるのだ。
「ヴィラン、ここを軸にして捜索をしよう。要救助者がいた場合、ここに運び込めば衛生状況も他よりマシだ」
「なるほど。確かにここは、旧教会都市をぐるっと周回するのに最適かもしれないな!」
旧教会都市内の一角。
【エクスポーション】の臨時活動拠点が設置された。
52000ptありがとうございます!