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【112話】想定外の結果(グロウ子爵視点)




「失礼します。主人様、ご報告が」


 部屋の扉が開かれる。

 入室してきたのは、セントール子爵家に仕えている使用人のログであった。


「どうした?」


「はい。先程、こちらの書状が届きました。お目通しを……」


 ログの手元には、2枚の封筒。

 まあ、だいたい察しはつく。

 ログは、私の顔色を窺いながら、ふぅっと息をこぼす。


「……っと、その様子だと、これらは必要ないようですな」


「いや、一応見ておこう」


 ログから渡された封筒の中身に目を通す。

 1枚目の手紙は、『セイ・ジョール伯爵令息は予定通り、罪人として捕縛された』というもの。

 これは、まあ……事前に聞いていた。

 こうなるように手回しさせていた者が気紛れで私の部屋を訪れ、ペラペラ話して行ったからな。


 ──まったく、直接来るなら手紙を出す意味がないではないか。


 当の人物を思い浮かべながら、私はこめかみを抑えた。

 私と会うのは控えるように言ってあった。

 それなのに、性懲りも無く屋敷を出入りしていく、あの自由人。あれで、役に立たないやつであったら、即刻追い出してたところだ。


「こちらもどうぞ」


 2枚目の封筒の中身も、多分知っている。

『モナリーゼお嬢様が武術大会優勝』


 ──はぁ。


「大丈夫でございますか?」


「ああ、少し予定が狂っただけだ……」


 優勝、したのだ。

 私の娘が、自慢の娘が、武術大会という化け物がこぞって集まるような魔境で。

 嬉しいはずなのに、それと同時に優勝まで漕ぎ着けるだなんて、考えていなかった。


 モナリーゼの実力が相当高いというのは、だいたい把握していた。

 だからこそ、2回戦。

 セイ・ジョール伯爵令息と当たらせるように仕向けた。

 あんな、軟弱な貴族ごときにうちの娘が負けるはずがないと自信があったからだ。


 セイ・ジョールは、不正を行い、何が何でも勝とうとしたようだが、それでも届かないほどの実力を有していたのがモナリーゼだ。


「それでも、優勝は考えてなかったぞ……」


「モナリーゼお嬢様は、ご立派になられました」


「そう、なんだろうな」


 万が一。モナリーゼが優勝しそうになった場合、私はちゃんと抑止力を準備していた。

 絶対に勝てないであろう相手。

 大会最強のペアを……。


 それなのに──。


「はぁ……」


 決勝で負けるなんて、それは予想していなかったぞ。

 アウグスト、レジーナペア。

 あの2人は私が知る中で最強であり、今大会の中で最も完成された参加ペアであった。モナリーゼがいくら強かったとしても、あの2人の洗練された動きを前にその実力を最大限に発揮できるとは考えられなかった。

 だか、モナリーゼはその強敵を破り、大会を制した。


「アウグストめ。ふざけたことをしてくれたものだ」


 決勝であの男が敗北したと聞き、耳を疑った。

 あの男は、どんな強い相手が来たとしても、負けるようなやつではない。

 正真正銘の化け物。

 Sランク冒険者なんていう肩書きを持ち、その実力は保証されているが、私は知っている。


 ──そんな程度の存在ではない、と。


「アウグスト様は、モナリーゼお嬢様の魔法に最後やられたようですね」


「書いてあることが真実であれば、そのようだな」


 それでもやはり信じられない。

 腹立たしい。

 そもそも、こんなまどろっこしいことをするに至ったのは、3年前にモナリーゼが失踪したからだ。


 ──あの男が尾行を完璧にしていれば、モナリーゼを見失わなければ、こんなことにならなかったのだ。


 沸々と怒りが込み上げる。

 モナリーゼをセントール子爵家に戻すことに失敗した。

 はぁ、全部水の泡だ。


「アウグスト……」


 ログは、私の肩に手を置く。


「そんなに落ち込まないでください。モナリーゼお嬢様の成長を喜ぶべきです」


「素直に喜ぶことはできない」


「そうですね。主人様は、モナリーゼお嬢様がいつでも戻って来られるようにこの3年間寝る間も惜しんで頑張っていらっしゃった」



 確かに、娘を陥れたセイ・ジョールという男に罰を与えようと動いていたのは事実だ。

 モナリーゼのことを悪く言うような、セイ・ジョールに肩入れするような連中もじっくり時間をかけて排除した。

 モナリーゼの悪い噂も消した。

 収束した噂を吹聴しようとした連中の弱みを握ったりもした。


「見合いの話もこれで消えたな」


「ほほっ、見合いの話なんて元々無かったのに、そんなことを言うものじゃありませんよ」


「…………」


「おっと、失礼しました」


 分かっていたなら口に出すな。

 ログを睨みつけるが、彼は特に反省したような様子はなく、澄まし顔のままである。


 だがしかし、それは私が勝手にやったこと。

 断じてモナリーゼのためなどではない。

 セントール子爵家として、その主人としての使命を果たしたに過ぎないのだ。


「はぁ、骨が折れるな。私のしてきたことが全部無駄になった」


「無駄ではなかったではないですか。主人様の大切なモナリーゼお嬢様は、過去を乗り越えて、大人になられました。向き合う機会を与え、過去の邪残滓を捻り潰すきっかけを作ったのは主人様です」


「違う。偶然だ」


「ははっ、ご冗談を。モナリーゼお嬢様のためでないのに、主人様があんなに必死に動いたことなどこれまでないではありませんか」


「ログ、それ以上は言うな」


「主人様は、本当に素直じゃありませんね」


「んなっ……!」


 ログは臆することなく、呆れたようにそう告げる。


「モナリーゼお嬢様が戻ってこないのは、寂しいかもしれませんが、そんなに落ち込まないでもいいのではないですか?」


「落ち込んでなど……いない」



 仕方のないことだ。

 私が出した条件。

 モナリーゼは、その条件をクリアした。

 セントール子爵家に戻ることはない。

 あの娘は、冒険者としての人生を歩むのだろう。


「主人様」


「なんだログ?」


「モナリーゼお嬢様にお手紙を出してはいかがですか?」


 ──手紙、か。


 ログの言葉に少し戸惑うが、その提案は悪くないなと感じる。


「うむ……」


「この場でモナリーゼお嬢様との関係が終わったわけじゃありません。主人様とモナリーゼお嬢様は、血の繋がった家族なのです。親が子を心配するのは、当然。手紙を出すくらいは、してもいいんじゃないですか?」


 そうだ。あの時モナリーゼに出した手紙には、冒険者を続けることの条件を提示した。

 確かにモナリーゼは、その条件を満たした。

 だからと言って、モナリーゼがセントール子爵家との繋がりを完全に解こうなどということは許可していない。


「ログの言う通りかもしれんな。……手紙、書こうか」


 ──たまには家に帰ってこい。とでも、伝えておくか。



 モナリーゼは、私の娘だ。

 それくらいのささやかな願いを伝えるくらいであれば、モナリーゼも納得してくれるだろうか。


 私は手元に置いてあった手頃な紙に筆を走らせた。




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