【111話】幸せな夜
モナと2人きりの帰路。
白熱した武術大会を終え、静かな夜道を横並びに歩く。
月光に照らされたモナの横顔を見ながら、俺は視線を落とす。
「……そういえば」
モナは、そう言いかけて言葉を切る。
「そういえば、なに?」
「その……覚えてる? 優勝したら、私の欲しいものをくれるって話」
耳まで真っ赤になって、モナは小さくなっていく声をなんとか届けようと口を動かす。
「覚えてるよ」
「──! そ、そう。よかった」
約束。
当然、覚えている。
優勝へのモチベーションに繋がればいいなと頭の片隅に置いてあった。
──それにしても、モナへの贈り物か。
「俺があげられるものなら、なんでもモナに贈ろうと思ってる」
「なんでも、ね……」
モナは考え込むような仕草をするが、チラチラとこちらに視線を向けてくる。
そんな負担になるようなことじゃないのにな。
モナは優しいから、気を遣って遠慮するんじゃないかと思ってしまう。
だから、俺はモナに優しい声音で語りかける。
「遠慮なんていらない。モナが本当に欲しいものを言ってくれれば、俺はその望みを叶えるよ」
モナが冒険者を続けられる。
また、隣に彼女がいてくれる。
それだけで、俺は満足しているんだ。
贈り物は、その感謝の気持ち。
大切なモナがいなくならなかったことへの対価のようなものだ。
俺の言葉にモナは微笑みを浮かべ、凛とした瞳をこちらに向ける。
「遠慮なんてするわけないじゃない。……だって、私は、1番欲しいものを手に入れるために武術大会を頑張ったんだから」
モナは悩んでいなかった。
約束したあの時から、モナは欲しいものを決めていたみたいだ。
俺の心配は杞憂に終わったのだろう。
「じゃあ、モナの欲しいものを教えてくれ」
「ええ」
風が俺たちのそばを吹き抜け、澄んだ空気を押し流す。
モナの髪が月の光に照らされ、流れゆく風に揺らされ、モナの気恥ずかしそうな顔は、本当に可愛らしいものであった。
ゆっくりと、モナは言う。
「私、3年前からずっと異性が苦手だった。あの男が原因なんだけど、分かっていたんだけど……」
儚い表情。
【殲滅の悪役令嬢モナ】と呼ばれるような面影は欠片もない。
「でも、そんな私を救ってくれた人がいた。……レオ、貴方よ?」
心臓がバクンと跳ねる。
モナが何を伝えようとしているのか、それが予想できない。
欲しいものがあるとモナは言った。
それなのに、どうして俺のことを……。
モナとの距離が縮まる。
モナの顔が間近に迫る。
彼女の吐息を感じ、目を合わせられない。
「レオ……。貴方は私にとって、心の支えだったのよ。【エクスポーション】の皆んなに出会えて、レオに出会えて……私は、幸せだった」
「モナ……」
「でも、私は強欲で……それだけじゃ足りないの。その先にあるものを手にしたいって、いつからか考えるようになったの」
モナは、俺の手を握る。
「だから、今回の武術大会を利用した。……レオ、私は──!」
モナの指先に力が入るのが分かる。
そして、その先の言葉を鈍感ながらに察してしまった。
声が出てこない……。
カラカラと喉が渇き、フワフワとした変な感覚に襲われる。
夢の中にいるような、自分でも信じられない音が耳に入り込んでくる。
「私は、貴方が欲しい!」
ざわめく感情。
どうすればいいのか、頭が真っ白になり、目の前の愛おしい彼女のことをもっと好きになってしまう。
──聞き間違いなんかじゃないよな。
そんな風にモナが俺のことを考えているとは、これまで考えていなかった。
叶わない片想い。
強くて、格好良くて、可愛いモナ。
俺は、彼女の魅力に見合うような男になりたいと考えていた。そうでなければ、モナは振り向いてくれないものであると……。
しかし、そんな凝り固まった思想は俺の妄想であったと思い知らされる。
モナは、俺が欲しいと告げた。
その意味がどういうことであるかなど、わざわざ口に出すまでもない。
「……俺で、いいのか?」
「レオがいいのよ」
答えるべきだろう。
モナは、俺からの返答を待つように視線をこちらに向け続ける。
彼女の想いと向き合う。
そして、俺の素直な気持ちを伝える──。
「……俺は、3年前に惨めにパーティから追い出された。何もかもどうでもよくなって、未来のことなんかこれっぽっちも考えていなかった」
「────」
「でも、【エクスポーション】の皆んなに出会えた。そして、モナと巡り会えた。これまで送ってきた日々は、俺にとって幸せ以外のなにものでもない」
全てを諦めた過去。
それでも、やっぱり。心のどこかで、足掻きたいと考えていた。そうして俺は、【エクスポーション】に加入した。
「【エクスポーション】に入る前の俺は、特に凄いやつでもなくって、今でもやっぱり地味な役回りだなぁ、なんて考えたりもする。でも──」
手に入れた大切な世界。
Sランク冒険者になったからではなく、純粋に出会うことができたからこそのもの。
繋がりを求め、どうしても守りたい存在ができた。
──だから、伝える。
「俺は、モナとずっと一緒にいたい。モナが俺のことを欲してくれるのと同じように、俺もモナが近くにいてくれないと、耐えられない!」
「それって、つまり──」
モナは、瞳の奥を潤ませる。
彼女に握られた手をこちらに引き寄せる。
俺は、モナの背に手を回した。
「俺の身でよければ、モナに捧げるよ。その代わり、モナのことをずっとずっと守らせてくれ。俺の命が尽きるまで──」
頼りないかもしれない。
本当は必要ないかもしれない。
モナはひとりでも力強く生きれるのかもしれない。
そうだとしても、俺はやっぱりモナが好きだし、彼女が望んでくれるのであればそれを叶え続けてやりたい。
「俺は、モナが大好きだ」
「──っ! 嬉しい。夢みたい……」
モナは涙を頬を伝わせて流す。
「これから、ずっと一緒よ。絶対に別れてなんてあげないから」
「ああ、俺も。モナのことを離さない。……例えまた、今回みたいな大きな壁が目の前に立ち塞がったとしても、必ず超えてみせるから」
「うん……」
この日、俺とモナの繋がりは、より深いものとなった。
今はもう、ただの仲間ではない。
これまでよりも近く、特別な関係。
月夜の闇に掻き消されるように、俺とモナが唇を交えた瞬間は、誰からも見えないものだった。
騒動は終わり、平穏が訪れる。
祝福溢れる夜に、幸せな感情が2つ。
綺麗な月を眺めながら、俺とモナは再び歩みを進めた。
俺たちの歩みは、まだまだ終わらない。
【更新再開まであと少しだけお待ちください】
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