【110話】勝者と敗者……
タッグ戦において最も強いペアというのは、力を合わせて戦った時に実力以上のことができる者たちだと思う。
相性、それから個々の実力。
それらが噛み合って初めて、ペアとしての力量となるのだろう。
「勝者、モナ、レオペア!」
だから、この試合で俺たちが勝利を収められたのも、アウグスト、レジーナペアよりも連携力が高かったからであろうと勝手に分析している。
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最後の瞬間。
あれは確実にアウグストが有利な場面であった。
動きを完全に止められなかった俺とゆっくりだが攻撃を無条件に当てられるアウグスト。
本来であれば、負けていた。
……そう、モナと組んでいなければ、きっとそのまま無様な負け姿を晒していたところだろう。
「──ぐかぁっ‼︎」
悲鳴にも似た声を上げたのはアウグストであった。
予想外の攻撃。
地中から急激に浮き上がってきた槍状の岩。
それは見事にアウグストの下あごに直撃していた。
──やっぱり、この感じはモナの魔法の痕跡だったんだ!
モナは、魔力切れによって力尽きる前に、遅延して発動する魔法をフィールドの複数箇所に仕掛けていた。
ただでは倒れない。
相討ちなんていう益のない行動はしていなかったのだ。
俺とアウグスト、一騎討ちに見せかけて、モナの遅延して発動する魔法が奇襲的な役割を担う。
「……アウグスト、お前の敗因は、目の前のことだけに集中して、他の可能性に目を向けなかったことだ」
仰向けの格好で吹き飛ばされるアウグストに届かない言葉を紡ぐ。
そのままアウグストは地面に打ち付けられ、気を失った。
「勝負あり!」
怒涛の急展開。
誰もが予想していなかった結末。
最後、アウグストをダウンさせたのは、モナの魔法。
勝利への布石をばら撒いた。
結果的に俺のサポートがあったものの、2人のSランク冒険者をモナが完全に封殺したのである。
──やっぱり、モナは最高の相方だったよ。
優勝の歓声が上がる中、この大会で最も奮闘してくれたモナのところへと俺は駆け寄るのであった。
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「……レオ?」
目を覚ましたモナ。
俺は優しくモナの背中を支える。
「目が覚めたか」
「ええ……その、勝負は?」
モナは、少しだけ心配そうな顔をする。
アウグストとレジーナが、すでに意識を取り戻し、こちらの様子を静かに見ていたからだろう。
満身創痍な俺とモナ。
相手が元気である状況。
試合の結果がどうなったのか気になるというのは、当たり前のことだ。
俺は、ゆっくりと口を動かす。
「安心してくれ。モナが頑張ってくれたおかげでなんとか勝てたぞ」
「そ、そう……よかったわ」
モナは安らかな微笑みを浮かべ安堵の息を吐く。
「立てるか?」
「ええ、多分……きゃっ!」
ふらつくモナを俺はしっかりとキャッチ。
あんまり心配させないでほしい。
「肩を貸すよ」
「ありがとう」
まだ魔力切れの影響の残るモナを支えながら、アウグストとレジーナのいる方へと俺たちは歩く。
彼らは、悔しそうな顔色を浮かべているが、それと同じくらい清々しい雰囲気を醸し出していた。
「いい試合だったよ。負けるとは思わなかった」
レジーナは笑顔でモナにそう告げる。
「私もこんなに緊張した戦いは久しぶりだったわ」
レジーナとモナは互いのことを認めたような顔付きであった。
そして、アウグストは俺の方へと視線を向けてくる。
「守衛……いや、レオっち。今回は俺たちの負けだけど、次は絶対に負けねぇ」
ギラギラとした瞳は健在だ。
再戦に燃えるアウグストに対して、俺は少しだけ口角を上げて言葉を返す。
「俺はもう、戦いたくないよ。速いのは懲り懲りだ」
「いや、そこは『次も俺たちが勝つ!』って、やつじゃん!」
「……ははっ、冗談だ。また機会があれば、その時は頼むよ」
「あれ? なんか俺の扱い雑くね? ……レジーナと同類かーいって」
困り顔のアウグストは、肩をすくめた。
「てめぇ、アウグスト。私がなんだって?」
「ひえっ」
レジーナに睨まれて、ビクッとするアウグスト。
こんな緊張感の欠片もないやりとりを行なっている2人であるが、今大会において相性と実力は本当に高かった。
もし次にこの2人と戦うことがあれば、勝てるかどうかは分からない。
「レオ」
だが、今回は俺たちの勝ちだ。
俺の横でモナは、嬉しそうに微笑んだ。
「優勝、したのね。……私たち、1番になったのよね」
「ああ、俺とモナがこの大会の頂点だよ」
どうなるかと思われた試合であったが、見事に勝利を飾ることができた。
アウグスト、レジーナペアの大会3連覇を阻んだ俺たちのペアは、更に注目を集めることになる。
けれども、その話はまた別の機会に。