【105話】最後の戦いが始まる
ついにやってきた決勝の舞台。
俺とモナは、横並びに立つアウグスト、レジーナペアと対面する。
タッグ戦の最後。
観戦席も、初日よりも多くの人が集まっており、この一戦がどれだけ注目されているのかがよく窺える。
「どうするの?」
「早めの展開は悪手だ。俺たちのペースで戦えるように戦況をコントロールしていく」
「分かった。細かい指示は任せたわ」
互いにだけに聞こえるような声量で俺とモナは、最後の話し合いを終える。
今回の試合は、これまでの集大成を発揮するつもりだ。
出し惜しみなし。
今出せる全力を尽くして、アウグスト、レジーナペアを打倒してみせる。
「時間となりましたので、これよりタッグ戦の決勝戦を開始したいと思います」
審判の宣言により、会場は盛り上がりを見せる。
いよいよ、アウグスト、レジーナとの力比べが始まるのだ。
「おーい。レオっち、モナっち!」
対戦開始直前だというのに、アウグストは親しげに声を張る。
「対よろ〜!」
「てめぇ、このタイミングで仲良くなろうとするな!」
「あいだっ!」
直後、アウグストはレジーナに頭を引っ叩かれていた。
……こんな調子で大丈夫なのだろうか。
アウグストとレジーナの想定外の態度にモナは戸惑い気味。
「……なんか、調子狂うわね」
「確かに、決勝の緊張感とかなくなっちゃったな……」
強者であることに変わりはないのだが、それでもアウグストを敵視したりということはあまりできない。
あくまでも武術大会の対戦相手という立場。
なんというか、今後俺とモナに絡んできそうな気がするのは、単なる杞憂だろうか?
「えっと、そろそろ始めても?」
ピリピリした空気が全くない俺たちのやりとりに、今までその場をどうしようか悩んでいた審判が確認してくる。
このまま審判を困らせているままにはいかないと、満場一致で進めてどうぞと俺たちとアウグストたちは、審判に向かって頷いた。
「改めまして……武器、飛び道具、魔法の使用は自由です。回復薬や身体強化薬などの消耗品等などの使用が確認された場合は即失格となります」
一通りの注意事項を述べ、審判は腕を挙げた。
「それでは、試合開始っ!」
戦いの幕が上がる。
和やかであった先程までの空気は、その一言によってすぐに消え去った。
▼▼▼
「んじゃ、俺行ってくるわ!」
「おい、普段からあれほど勝手に動くなと……って、突っ込むな馬鹿ガキ!」
先制で攻撃を仕掛けてきたのは、予想通りアウグストであった。ただ、彼の行動は、ペアでの総意ではないということは見て取れる。
アウグストの独断での突撃。
都合がいい。
「モナ、俺の後ろに」
「ええ、魔力を溜めるわ」
アウグストの受けは俺が担当する。
レジーナは来ていない。
彼女がアウグストとタイミングを合わせて来ていた場合は、モナにそちらの相手をしてもらおうと考えていた。けれども、その必要がなくなったことで、モナは魔力の蓄積を開始する。
「守衛っ! 行くぜ!」
「──っ!」
物凄い速さで俺の前に接近してくるアウグスト。
両刀の短い刃がキラリと輝き、俺の盾に斬撃を加えてくる。
──やっぱり、このレベルになると攻撃が重い。
けれども、それは想定していたよりはずっと軽い!
アレンの攻撃ほど衝撃はない。
スピードに特化している分、一撃一撃に占める威力は抑え気味なのかもしれない。
短剣が大盾にぶつかるたびに飛び散る火花。
盾越しに何度も受ける。
「やっべ〜、守衛硬過ぎ。流石、俺が見込んだだけあるってもんだわ!」
「まあ……それが役目なんで」
アウグストは楽しそうな表情を浮かべる。
有効な攻撃を入れられていないことを逆に喜んでいるみたいである。
……この戦闘狂め。
アウグストの猛攻は止まらない。
しかし、俺もアウグストの攻撃をひたすらに防ぎ続ける。
「おい、勝手に行くなよ」
アウグストの攻撃が止む前に、やはりレジーナは少し遅れてこちらに寄ってくる。
アウグストの援護に入られたら厄介な相手。
あの腕につけた鋭い爪では、あまり殴られたくないな。2人がかりで押し込まれたら、防ぎきれるか分からない。
「モナ、頼むっ!」
「ええ、横入りなんてさせないわ!」
魔力を溜め込むのは、ここまで。
俺な合図と共にモナは、俺の後方から俺とアウグストを飛び越えて、レジーナの方へと槍を叩きつける。
「はあっ!」
「あっぶなっ!」
モナからの攻撃を紙一重のタイミングでレジーナはかわす。
「私が相手よ。レオの邪魔はさせない」
「へっ、いいぜ。かかってこいよ」
モナとレジーナもお互いに武器を構え、睨み合う。
決勝の舞台は、そう簡単に終わらない。
そんな予感をさせる開幕であった。