【102話】目指すは優勝だけ
【シリウス旅団】のペアとの一戦。
油断は決してできないものであった。
しかし、この試合でもモナの器用な戦い方が存分に発揮されることになる。
「速いっ!」
相手の攻撃はモナに当たらない。
高速で飛んでくる矢と魔法を全て回避して、モナは槍を片手にドンドンと距離を詰めていく。
モナが距離を縮めてくるにつれ、相手の焦りが手に取るように伝わってくる。
「くっ、この!」
「ちょっ……気を付けて!」
「へ? ……うぐぁ!」
もちろん、俺は遠くからその様子を眺めているわけではない。
モナが警戒され、そちらの対応に追われている間に、こっそりと逆方向から相手に近付き、そのまま大盾をぶつけて、体勢を崩す。
「ちっ、いつのまに……!」
「モナから目離していいのか?」
「──っ!」
──残念。そこまでモナに接近を許したら、対応しようとしたところでもう遅い。
側に近付いていた俺に気を取られ、モナへの攻撃の手が緩んだところで、モナも一気に距離を詰める。
モナの射程範囲。
あの槍に殴打されれば、流石に無傷では済まない。
「これで、終わりよ!」
モナの槍が相手ペア2人をまとめて吹き飛ばす。
何度見ても圧巻の光景。
大盾を構えていたとしても、モナの全力アタックは受けたくない。それくらいモナの攻撃は強力だし、宙に浮かんだ相手ペアの白目を剥いた姿が哀れでならなかった。
「勝者、モナ、レオ!」
会場は大歓声に包まれた。
▼▼▼
「やったわね! 準決勝進出よ!」
試合後、モナは嬉しそうに頬を緩ませていた。
俺も順調な勝利に内心安堵していた。
──【シリウス旅団】はSランクパーティであるから、もう少し苦戦するかと思ったが……。
アウグスト、レジーナの試合を思い出す。
あの無駄のない速い動きこそ、Sランク冒険者そのものである。
けれども、準々決勝で当たった【シリウス旅団】
戦い方自体は、理に適った良いものであったものの、モナの動きを封じることが出来ず、翻弄され続けたのを考えると、Sランク冒険者ではないように感じた。
「なあ、さっきの相手だけどさ」
「なに?」
「【シリウス旅団】のメンバーなんだよな?」
「そうトーナメント表にあったでしょ。間違いないわ」
「そうだよな。Sランクパーティのメンバーなんだよな……」
──失礼なことを言うようだが、アウグストの言う通りあまり強くなかった。
彼の言っていた意味が理解できた気がする。
Sランクパーティに所属しているからと言って、その人がSランク冒険者であるとは限らない。
あくまでパーティ単位の実力。
あの【シリウス旅団】の2人は、それよりも数段劣った実力なのだろうと思う。
──【エクスポーション】のメンバーを基準に考えていたから、感覚が違ったんだろうな。
モナのように器用に立ち回れる冒険者は少ない。
アレンのように圧倒的な剣技を使えるものだってほとんど見ない。
アイリスのようにあらゆる魔法を高精度で使える者もいなければ、ヴィランみたいに他者と違うものが見えるという特殊能力を持つ者だって、全然いない。
そしてそれは、他2つのSランクパーティ内でも同じことが言えるのだろう。
一握りの強者。
それらが寄り集まり、さらに下に人員が集中したことでできた大規模なSランクパーティ。
実力者はいれども、パーティメンバーの全員が一流のSランク冒険者ということではない。
「……俺たちは、少数精鋭ってやつなんだな」
「今更そんなこと言うなんて、どうしたの?」
「いや、俺は仲間に恵まれているなと思ってな」
俺たち【エクスポーション】は洗練されたメンバーが揃っているということを再認識できた。他のSランクパーティよりも規模が小さいということは、知っていたものの、それでも劣ることのない俺たちの強みは確かにあった。
俺たちは、誰1人として他に引けを取らないくらいの実力を兼ね備えている。
であれば、相手がSランクパーティであるとしても、決して敵わない相手ではないということだ。むしろ、俺たちの方が強い場合がある。
……アウグスト、レジーナペアを除いてだが。
「決勝までは勝ち上がれそうだな」
俺の呟きに、モナは軽く膝を蹴り付けてくる。
「いたっ……え?」
なんで蹴られたのか分からない。
しかし、モナは腕を組んで力強く言う。
「決勝まで……じゃないわ。私たちは決勝も勝つのよ」
言い訳なんて許さない、と。
モナは、次の試合がどうとか、決勝がどうとか、試合ごとに考えを変えることがないんだった。
彼女は、どの試合でも全力で挑み、絶対に勝つという強い信念を抱き続けているんだ。
次は準決勝。
なんとしてでも勝って、決勝でアウグスト、レジーナの最強ペアとの対戦を実現させなければならない。