あなたの為の……
その人の存在そのものが貴方へのギフトのようなもの。
色々と買い物も終わらせて、侯爵邸に戻って来た。
侯爵家の方とお食事も終わり、庭園の転移陣までお見送りをしていただいた。
殿下もいるから当然かな。
「殿下、セレスティアナ嬢、またいつでも遊びにいらして下さい」
「お二人とも、またお会い致しましょう」
「ああ、ありがとう」
「本当にいつでも来て下さいませね、歓迎致します」
「其方達に感謝を」
「ワミードの皆様、ありがとうございます」
ワミード侯爵家の男性陣も夫人も最後までフレンドリーだった。
王都の教会の塔の転移陣に移動して来た。
一気に寒い。
コートを羽織り、エアリアルステッキを冷風から温風モードにする。
「殿下、急な話ですが、ライリーに戻ったら買って来た食材で料理とか致しますけど、食べに来ませんか?」
「予想以上に早くワミードから帰れた。
まだ余裕はあるから、構わないぞ」
「え、もっと滞在する予定だったんですか?」
「そちらの交渉が無事終わるまでの予定だ。辺境伯が心配していたようだからな」
「え?」
「聞いて無いのか?
ラピスラズリの生地のお礼にと、そこの黒髪の騎士に美味しいパイとかプリンを持たせてくれて、
其方がワミードに香辛料の取り引きに行くと聞かせてくれた」
「お父様がお菓子を騎士に持たせた? 今初めて聞きました」
「娘を心配して、俺が行くことを期待して話を振ったのだろう」
殿下はローウェの方を見て笑った。
ローウェは視線を逸らして苦笑いをしている。
「それは……ご迷惑をおかけしました」
「モーリスは15歳にして未だ婚約者はいないが、
18歳までに自分で結婚したいと思える相応しい女性を見つける事が両親に許されている。
期間内に無理だったら親が決めるそうだが」
「え、政略結婚でなく、恋愛結婚が認められていると言う事ですか?」
「流石に平民女性は無理だろうが、そういう事だ」
「モーリス様は大事にされているのですね」
「あれはサモナーなんだ。一体だがスフィンクスを使役出来る実力者だ」
「スフィンクス! それは凄いですね。
侍従は二人しか付けずに他領の湖のほとりで自信満々に外でキャンプとか言うから、
無謀な人かと思ってました」
「誰か一人、王城にライリーに行くと伝えて来てくれ」
「では、私が参ります」
金髪の華やかなイケメン騎士が知らせに行くようだ。
「頼んだ」
* *
それからすぐにライリーの転移陣に転移した。
「先に辺境伯に知らせに行きます!」
と騎士が二人、城内に向けてダッシュした。
スマホがあればこんな事には……。
「殿下、客室で冬服に着替えてから、サロンでお茶など飲んでいて下さい。
執事かメイドが用意致します。 私も着替えて参りますので」
「分かった」
ふー。
自室に戻って一息ついた。やっぱりほっとする。
リナルドもポシェットから出てベッドでマッタリ。
さて、晩餐のメニューはどうする?
せっかくだから神様が下さった方のカレーから食べさせてみる?
あと、ロブ、ロズスターの料理も。
チーズ焼きにしてみるかな。
デザートはどうしようか。
プリンとアップルパイはお父様が亜空間収納に取って置いたのを最近あげたんだろうし、違う物。
じゃあ、マンゴーケーキでも出してみようか。
マンゴーと生クリームのコラボなら美味しいでしょう。
さて、調理法を絵と文章にして料理人に渡す為にメモをとりたいけど、
殿下のお相手もしないと。
とりあえず冬仕様のワンピースに着替えて髪もポニテにした。
サロンの様子を見てみよう。
リナルドもベッドから移動して私の肩に飛んで来た。
殿下の接待はお母様かお父様がしてくれてると思うけど。
サロンを覗いて見たら、旅行に同行した騎士を混ぜて場を持たせているようだった。
旅の話をしてるのかしら。
「ああ、お帰り、ティア」
「お帰りなさい、ティア。きちんとしたドレスを着ていないようですが、どうしたのです?」
「ただいま帰りました。今から料理長にレシピなどを伝える仕事がありまして」
お母様がまあ! と言う顔をしてるけど、殿下の前でシンプルな服を着てるのは、今多忙なので許して欲しい。
「じゃあ、料理を指導しているのを見てていいか?」
「だ、だめですよ、殿下。料理人達が緊張するので、ここで待っていて下さい。
代わりにリナルドを置いて行くので撫でていて良いですよ」
「リナルドを?」
目の前にリナルドを強引に突き出された殿下は、受け止めるしかなかった。
胸に抱いて頭や背中を撫でている。
リナルドはされるがまま目を閉じて撫でられて気持ち良さげなので、大丈夫でしょう。
お父様が食事だけで帰るのもバタバタしてしまうので、殿下に泊まりを提案してくれて、殿下もそれを了承した。
グッジョブ。なるべくゆったりと過ごして欲しい。
なるはやで作り方を説明して接待に戻らねば。
任せられる所は任せるぞ、プロだもの。
カレーの方はもうマスターしてるから大丈夫ね。
何しろカレールーが既に完成されたチートな存在。
ロズスターのチーズ焼きとマンゴーケーキの方をメインに説明しよう。
* *
料理人達が頑張ってくれたのでなんとか晩餐用の
カレーライスとロズスターのチーズ焼きとデザートのマンゴーケーキはできそうだ。
マンゴーケーキの方はシエンナ姫様の分もお土産を用意しておいてと料理長に伝えてある。
王城に帰る時に渡す。
厨房で忙しくしていると食堂に来た騎士に言われた。
「お嬢様は、お優しいですね」
黒髪眼帯の年嵩の男性騎士ヘルムートの言葉に何やら含みを感じた。
「甘いとか過保護だって言いたいのかしら? でも、殿下は本当に優しい方なのよ。
だから、出来るだけ優しい人のまま育って欲しいし、幸せであって欲しい。
内心落ち込んでそうな時は励ましてくれる友人がいる人生と、いないのでは、いる方が幸せだと思うし。
愛されて育った人、そうでない人は魂の強度が違う。
愛されて育った人は、自分の命に価値を見出せるだろうし、であれば他者の命も尊重できると思う」
「つまりは、権力を持つ者には優しさがあって欲しいと」
「慈悲の心の無い人に貴方は仕えたい?
私は忠誠を捧げるなら優しい人がいいわ。
優しさだけではもちろんだめでしょうけど、汚れ仕事は私が引き受けても良い」
「お嬢様がそのような事をする必要はありません。汚れ仕事が必要な時が来た時は我々にお任せ下さい」
そう言って苦笑いをされた。
「貴方も優しいわよね」
人生何が起こるか分からない。
前世でも不摂生してお酒を飲んで突然死した私だ。
突然何かの天災や疫病や魔王の復活やらで王位継承権の有る上の人材がまかり間違って全滅したら異例の事が起こりかねないのではと思う。
なんにせよ、指導者やまとめ役はいた方がいい。
ゆえに、本来資格が無かった人が繰り上がって、王位につかないとも限らない。
そもそも貴族は魔力が関係してるせいか子が産まれにくいとされてるから本妻の子でなくても魔力持ちが産まれたら手元に引き取る事が多い。
貴族のみならず、王族も同様。
本来なら王家の血筋の者などお家騒動の火種になりかねない物は秘密裏に消されてもおかしくはない。
しかし魔力持ちはこの魔物のいる世界では貴重で大事な戦力だ。
自分が仕えるなら優しい王様が良い。
重税を課したり、残酷な戦争大好きの圧政者とかは嫌だわ。
殿下には優しい人のままでいてほしい。
何よりまだ子供なのだから、多少の甘やかしがあっても良いはず。
私は寂しい時にはお父様やお母様に甘える事が出来るけど、殿下には難しいじゃない。
将来嫁でも出来れば嫁に甘えれば良いけどまだ婚約者もいないし。
なら友人の出番ではないかなと、私は思う。
私ごときがやれることなんて限られているから、できる事をするだけ。
友情もあるけれど、思わず最悪の事態も想定して動いてしまう。
死を身近に感じた、体験した人の発想です。
まだその人が大事だと思う感情が友愛だと思っていますが恋かもしれない。




