願い
積み重ねが大事だったという。
途中からジークお父様視点に切り替わります。よしなに。
何事もなく無事に魔の森より、ライリーの城に帰城。
私は裏庭に寄り道して、ポーションにより、ありえない速度で成長した、松の木の針の様な葉を沢山摘む。
それを持って厨房に寄って、ある仕込みをする。
それからお風呂に入って一息つく。
夕食、晩餐会は殿下にいただいた支度金で買ったエビを使って、エビフライを作った。
ソースはケチャップとタルタルの二種類。
「なんだこれ、美味すぎる……」
エビフライ初体験の殿下が驚いてる。
「外はサクっとしていて、中はプリっとした食感が良いな」
お父様も食レポを下さった。
お母様も目が輝いているから、気に入ったみたい。
私もエビフライ大好き!
毒見役の殿下のお付きの人も他の騎士達も「とても美味しいです!」 と、言った後は黙々と食べている。
まるで誰にも奪われてなるものか、という気迫まで感じる。
反応が蟹食べてる人みたい。エビだけど。
今日は『魔の森お疲れ様の晩餐会』なので騎士達も同席を許されていた。
お父様の狩ってくれた魔獣の鳥も、照り焼きピザになって出てる。
こちらも美味しい。
羽根もちゃんと取って残してある。亜空間収納に。
いずれお布団になる。無駄にはしない。
『明日は朝から畑に行こう、セレスティアナ』
私が葡萄を摘んで妖精のリナルドにあげたらそんな提案をされた。
「畑って城の裏の?」
『違うよ、城の外の農民が作ってる畑』
「もう夏野菜の収穫も終わって、寂しい感じになってると思うわ。
それに瘴気の影響で毎回豊作にはなって無いから、元から寂しい感じらしいわよ?」
私は「寂しい感じ」を強調したんだけど……
『良いんだよ』
リナルドはキッパリと言った。
もしかして私が植物系の精霊の加護を賜ったから、何か魔法を試したいのかな?
そう思ったので、聞いてみた。
「それで良いなら私は構わないわ、お父様、お外に出かけますけど、構いませんか?」
「セレスティアナ嬢が行くなら、私も同行しよう」
お父様より先に殿下が答えた。
「殿下がそうおっしゃるなら、私も異存はありません。
森より危険は無いでしょうが、同行致します」
お父様も一緒に来られるようだ。まあ殿下の護衛として最上級の実力者だものね。
「殿下、ただの畑行きで、つまらないかもしれませんよ」
私は一応釘を刺す。
「別に構わない」
……暇なのか。
「其方と一緒なら退屈はしない」
殿下……私の事好きすぎるのでは? ……照れるわ。
そんな訳で明日は妖精とライリーの収穫後のガッカリ畑ツアーです。
正気か?
『蜂蜜レモンとか飲みなよ』
妖精の謎リクエストに応えて、蜂蜜レモンを料理長に作って貰って飲んだ。
葡萄ジュースもあるのだけど、まあ良いか。
お母様が作った氷も入れてくれて美味しいし。
小さい弟は殿下のいる食事の場で泣きだすといけないので、乳母と一緒にいる。
寝る前には顔を見に行こう。
祭壇には魔の森の戦利品、美しい苔も鉢に入れて苔盆栽のようにお供えしよう。
苔盆栽にはスミレの花とか咲かせると余計可愛いのだけど、今回は苔の緑だけ。
大地の女神様あたりになら、苔でも喜んでいただけるかもしれない。
寝る前にお母様の寝室に弟の顔を見に行った。可愛い顔。すやすや寝てる。
起こさないようにそっと出る。
寝る前に祭壇に美しい苔をお供えをして、いつものようにお祈り。
早くライリーの地から瘴気が消え去りますように。
* * *
翌朝
夏だし、朝の方が涼しくて良いと言う事で朝もわりと早くからお出かけ。
涼しげ白いワンピースドレスで行く。髪型はハーフアップ。
お母様とメイドも畑なら危険は無いしって言う事で付いて来るそうな。
殿下一行もいて、大袈裟な一行になってる。
今回うちの騎士は金髪騎士ヴォルニーと銀髪騎士レザークが同行。
金銀で縁起が良さそうね。
収穫後の葉と茎のみの萎れた様子の野菜の畑と隣接して、春蒔きの小麦畑もあったけど、8月上旬から中旬までに収穫も終わっていた。
地味な光景である。
『よし、セレスティアナ、ここで歌って』
リナルドが急にとんでもない事を言った。
突然にも程がある!
「え!? 歌!? 植物系の魔法使って実験とかじゃ無いの?」
私は驚いた、そして周りの人も驚いてる。
「「動物が喋ってる!!」」
「え!? リナルドの声、他の人にも声が聞こえるようになったの!?」
『動物の姿だけど僕は妖精だよ』
「そう言えば妖精だって聞いてたな」
殿下が目を丸くした。
周りの人達も思い出したようだ。
『セレスティアナの魔力が上がって、僕の声が他の人にも届くようになったんだよ』
通訳がいらなくなったのは助かるけど、急だな!
『伴奏に妖精の力を貸すよ』
そう言ってリナルドは鈴蘭のようなベルの形をしたお花を手元に突然出現させて振った。
なんと知ってるメロディーが流れ出す。
前世で姉が私のゲームの為に作曲してくれた曲だ。
忘れるはずがない。でも、リナルドは何故知ってるのか。
『風魔法の使い手はセレスティアナの声が、できるだけ遠くまで届くように援護して!』
リナルドがそう言うと、殿下とレザークが了承した。
ええ──!? ちょっと……逃げ場が無い。
今はギャラリーを待たせているので言われるまま歌うしかない、殿下まで巻き込んでる。
覚悟を決める。
涼やかな風が吹き渡る。
妖精の伴奏にのせて、ゲーム内で神を讃える歌として作った、
日本語とも違う、それっぽく聞こえる造語の歌詞を歌う。
実際同人ゲームで使ったのもこの歌詞とも言えぬ歌詞で、それっぽく聞こえたら良いのだって感じの造語の曲だ。
雰囲気重視。
それでも、神に捧げる歌として作られた祝福と奉納の歌である。
地に光、大地に恵みをと、祈りを込めて歌う。
歌声が光を纏うが如くに、周囲を輝かせた。
萎れた緑が瑞々しさと力強さを輝きながら取り戻す。
それは神の奇跡のように、収穫を終えたはずの夏野菜が急速に実り始める。
光が奔流となって、周囲に拡がっていく。
収穫後の小麦も、再び成長を始めた。
緑の波の如くに、周囲の茶色い荒地も草原に変わる。
……歌が終わると皆呆然としていた。
蒼穹の下、さながら草の海原の如くに広がる草原を見て、私も呆然とした。
荒地が蘇っている。
畑の野菜達はもう一度収穫が出来る状態になっている。
『おめでとう、セレスティアナ、ようやく君の願いが叶ったね』
「え? 私の……願い……」
『ライリーの地から早く瘴気が消え去るようにと朝晩、祭壇にお祈りしてただろう』
「ええ。それは、そうだけど……」
『瘴気の影響で大地の女神も力が弱まっていたけど、ようやく君の祈りの蓄積で道が開いた』
「……道?」
『神に祈りが通る道筋が開いたんだよ』
ひえ… …神って言った!
「せ、聖女様!?」
突然殿下のお付きの神官が私の前で膝を突いた。
「え!? 違います!」
私は即座に否定した。
「ですが、この奇跡の力は! この一帯の瘴気が消えています!」
えええ────っ!?
『歌で瘴気を浄化したんだよ』
「やはり聖女様でしょう!?」
黙って神官! 前世でエロ漫画読んだりエロゲまでやってた私が、聖女のはず無いでしょうが!
「いいえ、違います! 絶対に聖女じゃないのです!」
『うん、セレスティアナはいわゆる聖女とは違うよ、聖女の花模様の印も体にないし』
良かった! 妖精も違うって言ってる。
「一応、最寄りの神殿で印の確認をさせて下さい! 巫女がいるはずです」
私は男なので自分で令嬢の体の確認が出来ませんので、と、しつこい。
「お母様、私が産まれた時に花の痣などありませんでしたよね?」
お母様に救いを求める私。
「はい、ありませんでした」
お母様の証言でも、お身内の言葉だからと神官が譲らない。
聖女がいたら国に申告義務が発生するから神官も強気だ。
私はなおも言い募ろうといたけど、目眩がして、ぐらついた所をお父様に支えられた。
完全に気を失う直前に
『力を使いすぎて疲れたんだよ、一晩寝れば回復する』
と言うリナルドの声を聞いた。
* * *
ジークムンド視点。
馬車は神殿を目指してひた走っている。
私の膝の上では愛する娘が気を失って眠っている。
ティアの美しいプラチナブロンドの髪をそっと撫でつつ、馬車の中から窓の外を見る。
豊かな緑が蘇った大地を見て私の目頭は熱くなった。
目が痛くなりそうな程の夏空の下には、一面の草海原。
それは、幼い頃に見た。
まだ瘴気に侵されていない頃のライリーの大地と同じ風景。
風は清涼な空気を纏っている。
妻も美しい草原を馬車の窓から眺めて、静かに涙を流した。
感動のあまり、奇跡を目の当たりにしたと言う実感が、今更出て来たのだろう。
ティア付きのメイドのアリーシャなどは既に畑で、感極まって号泣していた。
殿下も大変驚いておられた。
ティアがもし聖女だったら王に報告しなければならないので、違う馬車で同行している。
* * *
神殿に到着して巫女がティアの体に印があるか調べたが、妻や妖精の言う通り、そんな聖女の印たる花の痣は無かった。
……良かった。教会に奪われてしまうかと思った。
そんな事になったら我々親の事が好き過ぎるあの子は寂しがって泣いてしまうだろう。
何か特別な子ではあるだろうが、とりあえず「聖女」では無い事が証明された。
報告を受けて殿下も何故か少しほっとしていたようだ。
しかし、神官は一度王都に帰還すると言い、転移陣に向かった。
これではもう、魔の森には殿下をお連れ出来ないな。
まあ、それどころじゃない騒ぎになってはいる。
何しろ妖精の話によるとティアが要所の畑で歌えば、徐々に大地の女神が力を取り戻し、この広いライリーの地から瘴気が消せると言うのだ。
……魔の森は除く。との事だが。
それでもとてつもなく有り難い。
民の暮らしもこれから豊かになる。
私にとって、いや、このライリーにとって、やはりティアは救いの天使だった。
城に戻れば程なくして、突然緑なす大地に戻った地域の領民から、何があったのかと問い合わせが殺到していた。
城の城壁の周りにも人々が集まって来ている。
そのまんま神に祈りが通じて奇跡が起こったとしか言いようが無いが。
さて、どうやって騒ぎを収めるか──。
ようやくティアの努力が実った訳です。
ブクマ、評価、感想等ありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。




