コミカライズ記念SS「記念日と日常」
※3月31日より、コロナEXにて辺境伯令嬢コミカライズが公開されますので、その記念書き下ろしSSです。
このSSは完結後の話です。
内容がネタバレとなりますので続編(完結編)のギルバートとセレスティアナを読了してから読むことをおすすめします。
コロナEXは午前11時更新らしいです。
その日は我が領地で新しく本が出版される記念日。
推しの作品が世に出るのだ。
私は小規模ではあるけれど、記念に実家のライリーの城の庭園内でパーティーをやる事にした。
これは領地内の識字能力向上の為、私が進めている事業である。
そしてこの小規模な身内用パーティーはデビュタント前の子供も参加でき、城で働く騎士から使用人の、子供まで参加できる。
お料理は照焼きピザとフライドポテトとりんごジュースなど、子供達にも人気のメニューを用意している。
「クルミの殻でお船を作るの? ティアお母様」
私の愛娘の小麦色の肌をしたエディットが好奇心に瞳を輝かせて訊いてくる。
この小麦色の肌は夫のギルバート似だ。
だから私の使う愛称は小麦ちゃん。
親や夫などはエディと呼んでいる。
「そうよ、小麦ちゃん。水にキャンドルを乗せたクルミのお船を浮かべて、水面を揺らして、最後まで蝋燭が消えずに航海を終えたら、願いが叶うから、やる前に願い事を決めるの、でもまずはお船を作るところからね」
ロウソクが消える前にクルミのお船の航海が無事だったら、長生きができるとか恋が成就するとか。
地球だとクリスマスか、ハロウィンでやってた占い遊びのようなものだったと記憶している。
水に浮かぶクルミのフローティングキャンドルは一晩水に浸したオニグルミを使う。
「お母様、クルミ、これ食べられるの?」
私の愛する息子が私を見上げて、問いかける。
「そうよ、ディートフリード。フライパンで炒って割って食べると、味が濃くてなかなかに美味しいから、中身は食べてしまいましょう」
「やったー!」
クルミの中身は我々で美味しくいただきました。
「さて、おやつを食べた後は工作の授業。皆でロウを溶かして、芯をセットして、流し込むとこまでやりますよ」
「「「はーい!!」」」
子供達の愛らしく元気なお返事の声が響く。
「できたー!」
「お母様、これでいいかな?」
「お母様、エディのも見て!」
「ええ、二人とも上手に出来たわね、皆も完成したらタライの水に浮かべてみましょう」
「「「はーい!!」」」
「私も出来たぞ」
「ギルバートも参加するの?」
「ああ、叶えたいことがあるからな」
「じゃあ一緒に遊びましょう」
「オールで、妨害の波を立てる役は、私がやりましょう」
元某国の王女リリアーナは、なぜか私のメイドを希望して、今回は魔女役をかってでた。
「リナは叶えたい願いはないの?」
「ないことはないですが皆様が楽しめるのが一番です」
「そうなの、後で魔女役を代わるから、自分の願いも叶うかチャレンジしてみて」
「ありがとうございます、ティア様」
「ねー、まだー?」
おっと、フローティングキャンドルをセットし終わった子供達がしびれをきらしそうだ。
「さーて、皆、かき回しますよ!」
皆、キャーキャー言いながら、自分のお船の航海の無事を祈る。
私も願う。
『私の推しの作品が多くの人に愛され、また、よく売れますように!』
この本は領地で先行販売されるけど、後で王都などでも販売される。
その時は、もっと大きな規模のパーティーを開き、貴族達にも宣伝する予定。
そしてリナは大きなタライの前に座り、普通にオールを漕いで波を立てた。
ギルバートも子供達と同じように自分の船を浮かべ、見守る。
水面はしっかり揺れているにもかかわらず、誰のクルミの船も転覆しないし、蝋燭の火も無事だった。
ギルバートは水と風の精霊を操れるから、もしかして、航海を見守る神様をやっていたかもしれない。
「皆、無事に航海を終えましたね!」
リカが嬉しそうに言う。
「わーい! 私長生きできるんだって!」
「あたしもー!」
「俺も!」
「ぼくも!」
子供達もそれぞれ願いをかけたようなので、
「小麦ちゃんは何を願ったの?」
「お母様とお父様が長生きしますように」
!!
「ディートは?」
「お父さまとお母様がずっと仲良しでありますように」
「とくに喧嘩もしてないのに! 自分達の事より私達の事を願うなんてなんて優しい子達かしら!」
私は自分の推し作家の事を願ったと言うのに……。まぁ、でも、これはこれで別に罪ではないわよね。
「ははは、それで、我が妻の願いはなんだったのかな?」
「先にギルバートの願いを聞いてみましょうか」
「私の願いは愛する者達皆の幸せだよ」
「……100点の答えがでてしまったわね」
「それでお母様の願いは?」
「これは出版記念パーティーなので! 推し作家の作品が長く皆に愛されますようにと!」
「流石ブレないな、我が妻は」
ギルバートは笑った。
「流石です、ティア様」
リナも子供達も笑った。
「ティア、推し作家が城に到着したようだぞ」
最初の推しのジークお父さまが現れた! そして隣には麗しきお母様も!
「お父様! ありがとうございます! ちょっとお迎えに行って来ます!」
「ティア! 焦って走って転ばないようになさい!」
「はぁい! 気をつけまーす!」
私はドレスの裾をつまんで城の庭を走り出した。
そしてつんのめって転びそうになると、ギルバートがあわてて支えてくれた。
すぐに追いかけて来ていたらしい。流石夫。
略してさす夫。
「まったく、義母様から言われた側から危なっかしいな!」
「ひ、久しぶりに走ったので、それとドレスの裾が長いのがいけませんね!」
「ドレスのせいにしない」
「はぁい、早歩きにするわ……」
「ティア様ー! 危ないので走ってはいけませんよーー!!」
ライリーの騎士達が微笑ましいというような笑顔で声を掛けてきた。
「わかったわ! 歩くから!」
────これはライリーにおいて日常茶飯事の、いつもの光景だった。
私の愛する場所の、平和で優しい日常の、日々の一コマ。
念願のコミカライズを祝して書き下ろしました。
皆コロナで漫画読んでね!可愛いので!




