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光の道しるべは空高く

主要キャラではありませんが人死にが出ます。

苦手な方はご注意を。

 被害のあった村の有る山間部まで行くのには時間がかかった。

 一番近い神殿からでも山に登る必要があった為。


 こんな時、本当にワイバーンが欲しい。 空を飛びたい。

 切実にそう思った時。 

 ──風を感じた。 


「追いついた! 乗れ! セレスティアナ!」

「え!? 何でここにギルバート殿下が!?」


 突如、騎竜に跨るギルバート殿下が現れ、私をふわりと竜の背に引き上げた。


「王城にオースティン伯爵領から竜種の襲撃があったと知らせがあった。辺境伯と其方も

救援に向かったと聞いて、最寄りの転移陣に竜ごと移動して来た」


「お父様は!?」

「ほら、あそこだ」

「ティア!! こっちも竜騎士が拾って乗せてくれた!」


 近くを二人乗りで飛ぶワイバーンがいた。

 良かった!


「煙が上がっている所が村か!?」


 お父様の鋭い声が聞こえた。


「多分そうです! 狼煙だと思います!」


 お父様と同じ竜に乗る竜騎士が答えた。


 はっ! そうだ! ラナンは!?


 ──ええ!?


 ラナンを探して見れば、忍者のように木々の枝を足場に飛んでいる!!

 まるで鳥のように身軽に。


 リナルドも私の肩の上では無く、いつの間にか自分で飛んでいた。


 山に登ってる間に時間が経って空は薄暗くなって来た。


「下に竜種! ブロゲです!」


 お父様が竜騎士に低空へと指示を出して、5匹のブロゲを相手に劣勢になっている3人の戦士の前に飛び降りた。


 槍を振るってブロゲの横っ腹を強打し、薙ぎ払うと竜種が吹っ飛んだ。


 村に先に着いていた戦士は既に満身創痍だ。

 服装から冒険者らしい人が多い。


「こいつら、背中が硬いぞ! 刃が通らない!」


 冒険者の戦士からそんな声が聞こえた。

 ならば──


「背中が硬いなら、腹からはどうかしら!?」


『アース・スピア!』


 ズドッ!!


 私は魔力を練って竜種の腹に土魔法で大地の槍を突き立てた。

 3匹の竜種に、土の槍を背中まで貫通させた。


 ──つまり、串刺し状態である。


「通った!」


 ギルバート殿下が驚きの声を上げる。


「ギャオオオ!」


 竜種が大きな口を開け、威嚇のように凶悪な響きの雄叫びを放った。


 ──その刹那!


 ズドッ!!


「こっちも通ったぞ!」


 ブロゲの威嚇の咆哮に怯みもせず、好機とばかりに大きく開けた口の中を狙い、お父様の槍が貫通!

 そして、すぐさま槍を口の中から引き抜いた。

 血飛沫が舞う。


「竜種のボスはどこだ!? 群れのボスは!?」


 殿下の側近も竜騎士と同乗していて、上空からそう叫んだ。


『こっち! 他のより大きくて赤いの!』


 竜種の上空で旋回するリナルドの声が聞こえた。

 竜種とはいえ、こいつらには翼が無いから飛ばないのがせめてもの救いだ。


 赤いブロゲの首が一撃で切断された。

 閃光のように速い動きで駆け寄ったラナンが首を落としたのだ。


 流石戦闘タイプ! 

 いつの間にか追いついて、見事にボスを仕留めた。


 首領を失った他のブロゲに戸惑いが生まれた。


「夜が来る前に決着を! やつらが闇に紛れたら厄介だ!」


『ティア! 歌を!』


「リナルド!? こんな時に何の歌を!?」

『闘神を讃える歌で味方にバフが乗るよ!』

「わ、分かった!」


 剣戟音が響き、血飛沫が飛び散る中で、闘神を讃える歌を歌った。


 歌が響くにつれ、青いオーラに包まれた味方が体力と気力を持ち直して来た。


「体が軽くなった! 残敵を掃討せよ!」


「応!」

「うおおおおおおッ!!」

「おらああああっ!!」


 戦場に野太い声が響く。


「くたばれや! クソトカゲが!!」

「みなぎって来た──っ!!」


 戦士達の咆哮と共にバフが乗った攻撃が竜種を叩きのめして行く。


 ギャアア!


 山間の村に竜種の断末魔の叫びと戦士達の怒号が響き渡った。



 陽が暮れて戦闘は終わった。


「何匹かは逃走したが夜の山の中で探すのは困難だ! 深追いするな!」

「負傷者を集めろ!」

「生存者はどこだ!?」


 村の人間と家畜に多く犠牲者が出ていた。


「高床式の食料倉庫の梯子を外した中に、何人か村人の生存者がいました!」

「二階のある家にも少し生存者がいました!」


 梯子を外したら上の階には登って来れなかったらしい。


「一階しか無い家は!?」

「扉を壊されている所は残念ながら」


 お父様がインベントリからテントを出してくれたので、そこに負傷者が集められた。

 紛争地域の野戦病院みたいだ。


 私は竜の背から降りて、怪我人に治癒魔法をかけてまわった。


 生存者には大切な家族を失った人達がいて、泣き声や啜り泣きが聞こえる。

 痛ましい姿だった。


「生存者はほとんどが戦えない、女子供や老人だな」

「男達は家族を守る為に戦ったんですね」


 ギルバート殿下の側近の騎士達がいつの間に側に来て話をしていた。


 村の男性達は勇敢だった……。

 テントに入る前に見た。

 愛する者を守る為、死に物狂いで農具を振るった痕跡があった。

 それは血に塗れた鍬だった……。


 涙が出た。


「疲れた……」


 攻撃と治癒魔法でだいぶん魔力を消費したらしい。

 私は膝をついた。


「セレスティアナ。お疲れ様」


 水を差し出してくれる王子様がいた。


「ギルバート殿下……ありがとうございます」


 殿下は私にコップに注いだ水を差し出してくれた。

 さらにハンカチも貸してくれた。


 泣いて失われた水分を補給出来た。

 よしよしと、頭も撫でてくれた。



 魔獣に襲われ、食い散らかされた遺体がそこかしこにあった。

 犠牲者の遺体は焼かれた。


 寿命などの自然死では無い場合、遺体に悪い物が憑かないように火葬にされる。


 私はもう一度歌を歌った。

 今度は鎮魂歌を。


 すっかり夜になり、闇に包まれた山の中。


 私は光魔法を使って光球を天に向かって放った。

 亡くなった人達の魂が、暗い闇の中でも迷わず、天に昇れるように。

 道しるべとして。


 周囲にいた人々も、丸い光が遺体を焼いた煙と共に昇って行くのを見た。

 いくつもの光の球が空高く、神のおわす、天上へと……ゆっくりと昇って行く様を……。


少しでも面白いと思っていただけたら、評価のお星様を贈っていただけると嬉しいです。

励みになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見ていて心がホッコリするとても最高な作品です! ティアちゃんが美味しそうに料理をいっぱい作るので、似たようなメニューで作ってしまいました まだ子供時代なので、これから殿下と...もしかし…
[一言] 領主の仕事は辛いこともたくさんあるということですね…。災害対策は重要な仕事。被害にあった人たちの鎮魂を担って、大人になっていくのかな…。ギルバートいいところに来ましたね。泣いてる幼女を慰める…
[気になる点] ティア様の悲痛な思いと鎮魂歌が、、人の死を目の当たりに見たら、トラウマにならなければいいです、、東日本大震災、、子供の亡骸にずっと寄り添っていた母親の悲痛な姿を思い出しました、、 [一…
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