代理
ギルバート殿下視点のお話です。
話は前回と繋がっています。
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〜ギルバート殿下視点〜
「お帰りなさい。ギルバート!」
ライリーから帰還して城に戻るなり、姉上が待ち構えていた。
「ただいま戻りました。姉上」
「で、どうだった!? ラピスラズリのドレスは令嬢に似合っていた?」
「もちろん、とても綺麗でしたよ。記録の宝珠にしっかりおさめております」
「早速鑑賞会しましょう! お茶を飲みながら」
姉上にせがまれて俺はサロンに移動した。
側近はエイデンだけを残して休め。と、命じておいた。
「よく戻った。ギルバートよ」
「お帰り、ギルバート」
「お帰りなさい」
サロンで待っていたらしき陛下と兄上と王妃が声をかけて来た。
「ただいま戻りました。今回の神殿での事は記録の宝珠で見れますので、執事に渡しておきます」
「おお、楽しみだな」
「ああ、ルークも呼べば良かったわ、あ、でもー……」
姉上が何か言いたげに俺を見た。はいはい。
亜空間収納からお土産とメモを出してやる。
「フルーツタルトケーキです」
「わあ!今回もちゃんとお土産があるのね!」
「マツバサイダーの作り方メモも貰いましたよ」
受け取ったメモを開いて確認する姉上。
「ありがとう! ……んん、案外面倒なのね……」
「諦めますか?」
「諦めないわ、人を雇えば解決するもの。商会にマツバが手に入るか聞かなくては。
メアリー、問い合わせをしておいてちょうだい」
「はい、シエンナ様」
メアリーと言う侍女に早速仕事を言いつける姉上。
「ケーキも切り分けてちょうだい、アウレリア」
「はい、王妃様」
今度は王妃が侍女にケーキのカットを命じた。
「アウレリア。私はライリーで同じ物を食べて来たので、今回は4人分で切り分けてくれ、私はお茶だけでいい」
「かしこまりました」
ケーキは綺麗に四等分に分けられ、陛下達の前に置かれた。
俺はお茶だけいただく。
エイデンが素早く毒見を終えて、こちらに戻す。
「ギル、クッキーやフルーツならそこにあるわよ」
テーブルの中央の皿に甘味が置いてある。
「大丈夫です。お腹は空いていませんので」
「そうなの、じゃあ遠慮なく! ……美味しい……!」
「やはりライリーのケーキにハズレはありませんわね」
「ふむ、フルーツも瑞々しいし、このタルト生地部分も美味しい」
「本当に美味いな」
口々にセレスティアナのケーキを褒め称える。
そうだろう。
俺はケーキ以外にも美味い物を食べて来たので、ここは皆に譲る。
「陛下、宝珠の用意が出来ましてございます」
「よし、映せ」
そして、宝珠の記録が、壁に用意されていた大きな白い布に映像を映しだす。
「流石、あんまり見ないデザインのドレスだけど素敵ね。……え、あ!
ちょっと本当に聖下までいらっしゃる……!」
「まあ、本当に綺麗なドレスね。天使のようだわ。そして……あの歌声も」
「うむ、本当に美しく可憐な……、ああ! なんだあれは……!? 奇跡が!」
陛下が映像の中の奇跡を見て、思わず声を上げた。
「天使の梯子! 凄いな、無理してでも現場に行けば良かった」
兄上はお忙しいから侯爵令嬢の誕生会にも代理で俺を行かせたのですよね。
余計な動きをしないでいただきたい。
「ふー、急にあのような奇跡が起こりうるとはな」
「絶対に他所の令息に取られないようにするのですよ」
「ああ、予算は潤沢に使って構わない、ドレスでも宝石でも惜しみなく贈るといい」
国王夫妻が揃って激励してくるが、肝心のセレスティアナ本人は、他の令嬢とも交流を持った方が良いと言う。
彼女は人よりも死を身近に感じたせいで、わざと自分以外の令嬢と繋がりを持たせて、万が一にも辛い想いをするかもしれない、俺にとって逃げ道とも言える選択肢を用意してくれようとしているのは分かった。
だが、どうしても彼女以外に心が動かない……。
「あまりに高いものは、恐縮されますので」
「そういえば、そんな事を前にも言っていたな」
「なんにせよ、国外の王族や貴族にだけは渡さないように」
「辺境伯の側を離れたがらないので、父親が健在なうちは大丈夫でしょう」
優しく頭を撫でたり、抱きしめてくれたあの温もりは、まるで慈愛に満ちた母親のようだった。
だけど、唇に触れたあれは、彼女の悪戯心か、それとも、やはり手にキスをするのを避けたお詫びのつもりだったのか……。
思わず、試されたように感じた事を、問い詰めてしまったせいで、やや、気まずい雰囲気になって別れてしまった。
ーーああ、なんであんな余計な事を言ってしまったのか。
彼女の誕生日にまつわる記憶は、楽しいものだけで良かったのに。
彼女の側にいられるなら、何でも良かったじゃないか。
もういっそ、はっきりと好きとか愛してるの言葉を使って伝えた方が良いだろうか。
こちらから彼女の逃げ場を封じてしまうのもどうかと思い、言ってはいなかった。
何故か大人びた事を言うが9歳の女の子だし。
何しろ王族からそんな事言われたら……困らせてしまうと、友達ですらいられなくなるのも辛い。
「ギルバート。後日、かのルーエ侯爵家の方に治癒魔法師と共に見舞いに行ってくれるかしら。アーバインは別の視察予定が入っていて、時間が取れないのよ」
「兄の私の代わりにすまない、ギルバート」
「仰せとあらば……」
「アーバインは忙しいのか……ギルバート、護衛は十分に連れて行くのだぞ」
「ありがとうございます。陛下」
また王妃が面倒な仕事を回して来たな。
さては危険な事があったルーエ家に自分の息子をかかわらせたくないのだろう。
王妃に言われれば、ほぼ命令に近い。
「では、私は支度とスケジュール調整がありますので失礼致します」
歓談は「家族」でやればいい。
俺はエイデンと共にサロンを後にした。
* *
俺の自室に戻り、侍女を追い出して俺の訪問着の用意をしつつ、ぼやくエイデン。
「何故この仕事が殿下に回って来るんでしょうね。そもそもルーエ侯爵家から招待を受けたのはアーバイン様ですのに」
「危険があった所に実の息子を行かせたくない親心だろう」
「別荘ではなく、今回行くのは本宅ですよね」
「それはそうだが、気分的に良くないのだろう」
「殿下が便利に使われていて、不満です」
「仕方がないだろう、王族の数が少ないから」
王族や貴族の子が産まれにくい弊害だ。
「本宅ですから、転移陣は使えるでしょうが、御守りはきちんと装備して下さいね」
「いつもしているさ。セレスティアナがくれた首飾りを」
「それなら結構です」
彼女がくれた御守りのサファイアは、いつも胸にあるんだ。
とりあえず、夏の誕生日には呼んでくれるはずなのだから、今は慌てる必要もないか……
そう、次の約束は、ちゃんとあるんだ。
帰るなり、仕事を増やされた殿下ァ




