『主役』が出揃いました
サラが王家の人間に呼ばれ、王宮を訪れる予定となっているサタ曜日。王立学園へ入学してから初めての休日にあたる週末のこの日、レナもまた続く正妃教育の一環で第三庭園へやってきていた。
タイーブ王国が誇る王城の第三庭園は、【始まりの聖妃】が愛した花で埋められた第一庭園には及ばないが、歴代の正妃が管理するものとして公式に認知されている大切な場所だ。十五歳の誕生日を迎え、学園で本格的に魔法を習いだした正妃候補は、ここで必ず同じ課題を与えられる。
それは、自分の夫となる男(要は第一王子)へ贈る花を自らの魔力で育てきること。タイーブには持ち主の魔力を吸って育つ種があり、課題を行う正妃候補がどれだけ真摯に向き合うかで咲く花の種類が変わるのだとか。
過去、そのシステムのおかげで不貞が発覚した少女もいれば、彼女の一途さを裏切るように贈られた花を枯らしきる王子もいたらしい。
とかく当代の二人を表現するにこれほど最適な手段も無く、王国の発展を占う物として機能するなんて聞かされれば、どんなに乗り気でなくとも挑む道しか許されていない。
溜息を必死に呑み込みながら、レナは重たい足を動かしていた。渡された種は二粒。同じところに埋めるべきか、それとも万が一の事態へ備えて分けるべきか。
迷う彼女を呼び止めたのは、
「レナー!」
生まれて初めて出来た『友人』からの呼び声だった。
「えっ、サラ……!?」
制服のスカートを翻し、こちらへ向かって駆け寄ってくるサラ。
謁見の間と第三庭園は大分離れた距離にあるはずだが、まさかずっと走ってきたのだろうか。
聖妃候補が、護衛の一人もつけずに?
(そうまでして、“私”に会いに来てくれたの)
ルミネパピヨンによる作戦会議を重ねた結果、大筋は『ヤンデレ☆きんぐだむ』に搭載されていた機能をなぞってみんべという結論へ至った。所謂、『特訓パート』と『会話パート』である。
前者(授業)でステータスを上げ、後者でお目当てのキャラクター達の元を訪れ好感度を稼ぐ。それがサラ=トレヴィラの定められた基本的な動きなので、恐らくそこを極端に逸脱した行動は認められていないというのは本人の言。
とはいえ、『会話パート』で『誰』に会いに行くかは主人公が決定権を握っていた。その枠をすべてレナと会うのに費やせば、なんとかなるんじゃないかと蝶の向こう側で意気込む彼女。勿論、週末共に過ごすのも作戦のひとつに含まれている。
それぞれ向かう場所は違えど、同じ日の同じ時間帯城にいるのは把握していたわけだから、こうしてわざわざ足を伸ばしてくれたのか……。
抱えていた種についての悩みをひとまず隠し、サラを迎え入れようと動きかけたレナの手は、しかし中途半端な位置で固まる羽目となる。
「おーいレ、――んぶっ!」
あと少しで伸ばした腕が届くというところで、誰かが唱えたらしき“遠所転移”の着地座標サークルが出現し、タイーブ王国第一王子にして『ヤンデレ☆きんぐだむ』のメインヒーローたるリケヴィル=アインポーラと、ヒロイン・サラ=トレヴィラが正面衝突する“感動的な”出会いの場面へと切り替わってしまったのだから……。