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苦手な方はご注意ください。

堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる

堕ちた枢機卿は復讐の夢をみる(短編版)

作者: 夕立

時は第五次世界大戦終結後の28世紀。

戦争で放射能汚染され尽くされた地球において、唯一被曝を免れたヨーロッパのごく狭い地域が物語の舞台である。

大戦の破壊行為のため、文明レベルは、一時中世並みにまで落ちた。

それでも、日々の研究により、21世紀程度の科学力は戻ってきている。


そんな世界で、裏社会に根を張る巨大組織を潰そうと暗躍する男性、ジョエレ(自称31歳)が本作の主人公である。

公表年齢、名前、全て偽物だ。


過去、ジョエレはベリザリオと名乗っていた。

カトリックを軸に新たな秩序を築いた世界において、絶大な権力を持つ枢機卿の1人で、化学分野の研究開発を担う選帝侯家当主でもあった。

様々な能力が高く、出世競争が順調なこともあり、次期教皇(政府トップは教皇)に最も近い男と言われていた。


そんな彼には様々な虫が寄ってくる。

寄ってきた虫の中に、世界の滅亡を目論む組織があった。

構成員の1人になれ、幹部待遇でもてなそう。と、組織はベリザリオを勧誘してくる。

しかし、権力と金を持ちつつ高潔なベリザリオはなびかない。

脅迫で彼を操ろうと組織は方針転換した。


そうして運命の日がくる。

親友であるエルメーテとディアーナのカップルと妻(聖職者でも妻帯は許可されている)と、4人で私的な行楽に向かった出先で、ベリザリオは組織から襲撃を受けた。

大怪我を負ったものの、彼自身は助かった。

だが、エルメーテと出産間近だった妻を失い、ベリザリオは虚無感に包まれる。

そんな中でも組織からの勧誘はしつこく続いて――


彼の心は壊れてしまった。

思考を拒否する頭が現在の状態から抜け出す道としてはじき出した方法は、ベリザリオが死ぬこと。


けれど、キリスト教において自殺は大罪だ。

枢機卿の地位にあるベリザリオが自殺だなんて、家まで非難される未来が予想できた。

それを回避するため、彼は自殺を実験中の事故に偽装する。

お粗末な計画だとわかっていたけれど、唯一生き残っている親友のディアーナに後始末を丸投げして計画を実行。

医学の大家であり聡明なディアーナなら、何もかも丸く収めてくれると信じて。


結果。

ベリザリオという人間は戸籍上死んだ。

ほぼ死んでいたベリザリオはディアーナによって強引に蘇らされた。

けれど、彼にはもう何もない。

戸籍も、生きる気力も。

せっかく生き永らえたというのに、再度自殺未遂を起こす始末だ。


組織の襲撃に巻き込まれてディアーナは恋人と親友を失った。

大切な人を失った原因は目の前のベリザリオだ。

彼は憎い相手。であると同時に、学生時代から将来の夢を語り合ってきた親友であり、同志でもあるのだ。

これ以上大切な誰かを失うことに、ディアーナは耐えられなかった。


彼女はベリザリオに生きる目的を与えた。

「大切なものを奪った組織に復讐する。付き合え」と。

新しい名と戸籍も与える。

ベリザリオに与えた名は、彼の子が男だった場合に付けようと、戯れに口にしていたジョエレという名だった。


そんな事件から26年。

数度の接触を経て、ジョエレは組織の尻尾を掴んだ。

引き換えに、ジョエレの存在も組織に知られてしまった。

自殺未遂の副作用で、ジョエレの見た目は30代の頃から変わっていない。それに、ベリザリオは死んだものと世間は認識している。

ジョエレがベリザリオであると組織は気付かなかった。

けれど、組織にとって有益な存在になるであろうと、勧誘に動き出した。


これ幸いと、ジョエレは組織の構成員を倒しに動く。

交戦を重ね、組織幹部を倒すことは成功した。

しかしながら払った代償は大きい。

闘いの途中でジョエレは毒を受け、時折幻覚を視るようになった。

ジョエレ同様組織から勧誘され、拒否し続けていたディアーナは、凶刃に倒れ死亡した。


ディアーナ暗殺事件を契機に闇でうごめいていた組織が表に顔を出し、兵器施設を巡って政府と大規模衝突が起こる。

ディアーナの計略で政府側戦力に組み込まれていたジョエレは、組織に作られ敵将の1人として動いていたベリザリオクローンを、自らの手で灰にした。


なんとか生き延びはしたものの、ジョエレはもう満身創痍であった。

クローンとの戦闘で重傷をおい、それでも動かねばならぬから痛み止めで痛みを誤魔化し。

兵器施設を攻略中に組織首領の意識体に取りつかれ、体の主導権をめぐる精神面での争いが続き。

それなのに、体を癒して叱咤激励してくれるディアーナはもうおらず。


最後の力を振り絞ってジョエレは兵器施設深部へと潜った。

施設を内部から爆破するために。

施設の崩壊に己を巻き込むことで、首領の意識体も消滅させることを目論んでの行動である。


親友達や妻の幻影に手を引かれ、男は世間から消えた。

古きものを道連れに、新しきものに未来を委ねて。

着火のその瞬間、彼の表情は穏やかだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいですね。 長編への期待が膨らむ設定や伏線の数々、クローンをどうやってつくったのかや、幻想に悩まされながら、それに癒される姿、色々な場面や裏設定を考察できるSFの醍醐味にあふれています。…
[一言] めちゃくちゃ好みの作品です……! 派手なアクションはありませんが、雰囲気でハリウッド映画のような画が頭に浮かびました。すごく良かったです! ラストも救いがないように見えて、本人はこの終わり方…
[一言] 文字数の少なさが感じられないくらい内容が濃く、密度が感じられました。 復讐までの流れも理解しやすく、言い方は悪いですが結末まで物珍しさは無いものの、とても引き込まれる展開だと思います。
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