神子展覧会 最終商品説明会 宣言 ①
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舞台は第55神殿の神講堂に場面を移して、聖神霊協会主催の神子展覧会、最終商品説明会の開幕宣言が始まろうとしている。
会場は、数多くの貴神等で埋め尽くされていた。
光の円盤に乗った神霊様は、御力を使いぐんぐん空間に浮かび上がった。
会場全体を見渡せる位置に到着すると、会場中が静寂に包まれる。
「統括神霊セント=シャルディリア―ス様より開会の宣言をおねがいいたします」
「皆様、どうかお静かにお聞きいただきますよう、重ねてお願い申し上げます」
神霊様の右腕であるバレッシュが司会進行役の役目を忠実に果たし、神霊様に次の進行のバトンを渡した。
神霊様は神威を込めたお言葉に、強力な御力を纏わせて浮遊水晶島の隅々にまで響き渡るように口上を述べ始めた。
『シャル。わたくしは、貴女神が神子の器足り得る神材であると評価しています』
神霊様の強い神威を纏ったお言葉は、水晶大地の隅々にまで広まり、浮遊水晶島の先端まで轟いた。
大勢の貴神等は、目の前の女神が神等のお茶の間の話題を、いつも賑わせてくれる貴重な存在だと知っている。
その女神が毎日家庭で投影される映像では見られない貴重なお姿――あの女神様が悦に入って我が身を晒している姿に、会場にいる貴神等は様々な表情を見せて注目していた。
だが神霊様が突如、強力な神威波動を降り注いだことに対して、会場では、騒々しいざわめきが巻き起こった。
会場では様々な騒然とした貴神等のやり取りがあった。
「うお―お笑い塵神が顕現されたぞ」
「天神界の負を1柱で背負われている凄いお方じゃぞ、もっと敬わらんか」
「生おシャルディだ、やっぱかっけ―な。俺、神威で吹っ飛びそうになったぜ」
「大爆乳神のお胸が輝いておるわ。なんと神々しいお姿じゃ」
それは、神霊様のご登場に偉く感動している貴神達のやり取り。
「今日の塵神様、凛々しるぎて可笑しいわ」
「塵神の真面目なお顔も乙なものですな」
「映像で見るより、よっぽど迫力あるわね」
それは、強力な神威をものともせずに談笑しながら鑑賞する貴神達。
「ちょっと―いきなりこんな神威振りかけないでよ。髪の毛ボサボサよ」
「そんな強い神威出す必要ないだろ。下級神民等向こうでピクピクしてるぞ」
「ちょっとタンマ。俺には、この神威きついぜ。俺もうちょっと後ろで見てるわ」
「こんなのやるなら、事前にいってよ。もう気持ち悪くなってきたわ」
強力な神威圧を受けて不満を表明する貴神達。
「強力な神威を俺たちに振りかけたかったから、あんな長い事前解説してたのか」
「何をしたいんだ。俺らをビビらせたいのか。そんなの効くかよ」
「いやいや、こりゃ、今から何かを起こす前兆じゃよ」
「しょっぱなから、俺達を威嚇してっから、多分もっと派手な事すんじゃね―の」
いきなりの奇襲攻撃に意味を見出そうと意見を述べ合う貴神達。
「今日の塵神様、お顔に気合が漲ってるな。キメてる表情みてえじゃね―か」
「おいおい、あいつ中級神だろ。中級神が出せる威力じゃなかったぞ。どういうことだ」
「映像でみる雰囲気と全然違うくね―か」
今日の神霊様の異変に気づいた貴神達。
皆それぞれの立場から、生の貴重な存在に、非難や賞賛など騒然しい反応を示し、会場には騒音が満ち溢れていた。
|巨大水晶岩《超高級品》にもお言葉は届いたが、神威反射ユニット標準装備の為、神等の放つ神威の圧力は届かなかったので、シャルにはこれといった異常は見られなかった。
「あれっえっお母さん、雰囲気違いすぎだよ。神核変更しすぎだよ」
しかし、シャルは今更ながら、事の重大さに気が付いてしまった。
突然のお母さんの大変身に戸惑いつつ、なんとか冷静に対処しようと声にだしてみたが、出てきた言葉は、到底お母さんの御心に響くものでは無かった。
「嘘っ冗談はやめてよ、お母さん。嘘だと言って正気に早く戻ってよ」
それお母さんのキャラじゃない、正気に戻って欲しいと願い、手仕草で必死にお母さんに訴えかけ、こうなったお母さんに声が届かないのを承知の上で、それでも正気にもどるように必死に訴えかけていた。
「お願いだから、説明は後でいいから、早く普通のお母さんに戻ってよ」
え―どうしよ。いつもとはまた全然違うお母さんだよ。え―どうしたのよ、お母さん。
「また、厄介事に巻き込まれてるの、答えてよ、お母さん」
意味のある言葉を発して、この場の事態を少しでも把握したいのだが、お母さんは、シャルがそこにいないかのように振舞い、質問の問には、まったく答えてくれなかった。
普段の変なお母さんに早く戻ってよ。また、正気を失っているのかな。
普段の変なお母さんだったら、あの御力の威力を押さえ込んでるはずなのに、こうなるとどうなるのかわからないよ。
「ほら、一回深呼吸をして、そしたら落ち着くはず」
お母さんに訴えかけながら自神が見本を示すかのように大きく深呼吸をして、溜まった空気をゆっくり吐き出して自分自神も落ち着こうとしたがやっぱり失敗した。
シャルは混乱をきたしたからなのか、思わず思考の渦の中にグルグルと巻き込まれてしまい、いろいろな言葉が、脳裏を駆け巡ることになってしまった。
上手く御力制御出来てればいいんだけど、御力が制御出来てなければ、これから、この場所がとんでもない事態に巻き込まれる事になるかもしれないわ。
そうなると、収束したあとで、また見たこともない数字が載っている損害賠償請求書を見ることになるよ。
どうしたのよ、お母さん。またどっかでゴツンと頭を強く打って正気を失っているの。
また私じゃ考えつかない仕様もないことで、正気を失ってしまったのかな。
それとも、また、地面に落ちてるわけのわからない神草でも、私女神だから大丈夫ってわけのわからない変な屁理屈つけて、いつもの癖で摘んで試食してたの。
私知らなかったけど、もしかしたら家の財政が、わけのわからない神草を食材にしなきゃいけないほど、そこまで悪化してて苦しかったの。
何があったかは全然わからないし検討もまったくつかないけど、この状態は多分何かがあって、神核に異常が起きてしまっているのよね。
御力の制御が効かなくなっったら、また悲鳴上げだして、むちゃくちゃに建物を破壊して、暴れだしたりするのよね。
そんなのに私達が巻き込まれるのはもう勘弁して欲しいし、二度とそんな神災は懲り懲りよ。もう絶対に嫌だからね。
もう、お母さんったら、いつも変だから、こういう事態にはどうしたらいいのかを、事前にもっとメグちゃんに詳しく聞いておけば良かったよ。
今のわたしだけじゃあ、どうすれば、良いのか解決策が全く出てこないよ。
メグちゃんがいたら、強引な御力づくで解決して一件落着なのに、この場にいないから、どう対処したらいいのか、聞く事もできないし、私の説得だけじゃあ、絶対に解決できないわ。
思考の渦の中で回転する状態の中でもシャルの神眼は、お母さんと私、2柱を取り囲むように撮影陣形をとる、神鏡球の連隊を、完全に補足していた。
その事態に忽ち脳裏世界に注意喚起が巻き起こり、脳裏に警報を鳴り響くことでシャルがはっと気がつくことが出来た。
神鏡球がシャルに接近してくるのに気づいて、慌ててなんとかしようと知恵を絞る。
「ごめんなさい。今忙しいのよ」
「後でちゃんと可愛い笑顔で映るから、ちょっと撮影止めてよ」
「向こうで笑ってる神達でも、撮してたら」
「もう、おねがいよ、やめて、撮さないでよ」
「おねがいだから、CMに切り替えて―」
だが、混乱した状態では貴神達が納得出来る正解にはたどり着けず、わけのわからない不正解な回答を答えてしまった。
不正解なシャルの言動は当然無視され、2柱を取り囲むように撮影陣形をとっている神鏡球の連隊は、彼らの与えられた仕事を忠実に実行していった。
シャルはかなり混乱しているようだった。何を言っているのかも理解していないようだ。
彼らと違う他の神鏡球連隊は、他の舞台も撮している。
自神が撮影されているのを、承知している御力の強い神等は、自神の素晴らしさを映像を視聴している観客にを伝える為に、いかにも簡単そうに神威を片手で払いのけ、のほほんふふんとふんぞり返り、自神の偉大さが伝わるように構えをとっていた。
「くるし―。こんなの聞いてないわ」
「もう駄目よ。御力がもたないわ」
それとは対照的に御力の弱い下級神等は、冷や汗を流しながら必死に神威圧と戦っていた。
神霊様の強力な神威を纏ったお言葉の神圧力は、当然下級神では抗うことは全く叶わず、御力の弱い下級神達は神体の糸が切れたかのように次々と地に伏し倒れ込んでいく。
御力の弱い神等はこれ以上神威の圧力に耐えられないと屈し、指に嵌めた指輪型の神晶鍵に神威を込め神晶石に転移し退避、神晶石は無事舞台から神速の勢いで離脱していく。
離脱したグル―プは、神晶石の神工知能の判断により、神殿外に退避させられてしまう。
「うわ―ん。生シャルディもっと見たかったのに」
「え―せっかくプレミアムチケット買ったのに・・・」
「そんな―ひど―い」
離脱組は神鏡球から送られてくる映像から神殿内の状況を確認している。
自神達が舞台からあっという間に退場してしまったことに、心の底から本当に悔しがっていた。
再び場面変わって、指揮官専用神鏡球内では....。
(神霊ちゃんとお姫様にもっと近づけ)
(親シャル、子シャルが対立している構図を撮ってこっちに送れ)
(他のお子ちゃん達の身悶える姿も全てアップで撮せ)
日輪放送現場監督神ゼノバランスが、現場映像編集を行いながら、部下神等に神念話で矢継ぎ早に指示を与え喚いていた。
神殿内の様子に映像が切り替わると、神子候補生達の搭乗している水晶岩には、同じく神子候補生達も水晶岩の中で地に伏して身悶えていた。
候補生達が搭乗している水晶岩には神威反射ユニットが装備されていないらしく、モロに神霊様の神威圧を浴び続け神体が圧迫され悲鳴を上げていた。
「お母様、お願いです。シャルちゃんを助けてください」
「なんでもしますから、お願いです」
神子候補生エマメルダは、地に伏し、身体にかなりの重圧がかかる中であっても、それでも必死に祈り続ける。
「ぶっひ――ぶひぶひして来ちゃうな―、ぶひっそうだぶひ!!」
「決めちゃったぶひ。おいら今度は、この子競り落として傍でぶひ―っと侍らせちゃうぶひ」
1柱の豚づらの神は、耐え忍んでいるエマメルダをじ―っくり鑑賞して恍惚としている。
エマメルダは、その悍ましい視線も無視して、必死に祈り続けた。
水晶神宮殿を見渡す限り、あたり一面の水晶大地では、
神霊様の神威が合図となり、計画の為に以前から水晶地表に蓄えられていた神威熱がふつふつと湧き始めていた。
突然の張り詰めた神威の空気に近辺にいた多種多様の神獣の群れは脱兎のごとく駆けて逃走していく。
「メグちゃん。私どうしたらいいのかな」
「私だけで、お母さんを正気に戻せるかな」
「メグちゃんいないと、やっぱり心細いよ」
シャルはお母さんを見つめながら、ふ―と可愛らしいため息を吐いた。
「11112」「11113」「11114」
神子候補生グレオガスト通称グレオは、こんな状況にも関わらず、お顔を紅潮させながら、神霊様の神威圧力に必死に耐え、ただ腕立てを繰り返している。
その周りにいる貴神等はグレオの腕立て回数で賭け事が見事成立し、その場では、歓声が沸き立っていた。
この場にいる神等は、皆神霊様の話など全く無視し、神威も問題なく耐え切り、会場の混乱など全く眼中になく、歓声を上げて賭け事に身を投じている。
当の賭けの対象グレオは、まるで別の世界にいるようだった。そう、まさしくそうだった。
グレオは、脳裏世界で自慢の筋肉達と楽しく会話を楽しんでいた。
(上ちゃん、やっぱかっこいいよ)
―グレちゃんこそ男神らしいよ。
―この神圧でもっと引き締まったグレちゃんになれるわよ。
―これで、どんな女神もグレちゃんにイチコロね。
―ストイックさは大事だよね。
―グレちゃんの想い女神も振り向くかもね。
(そのためにも上ちゃん達、俺に力を貸してくれ)
―まかせて、グレちゃん。
―みんなで頑張ってモテモテグレちゃんに大変身よ。
―((((やったるで―))))
今は上腕二頭筋さんと楽しく喋りながら、一緒になって神威圧力を楽しんでいる。
脳裏世界の中で、グレオはまさに至福の時を送っていた。
グレオの水晶岩を取り囲んでいる貴神等は、必死にグレオを説得することで頭が一杯なのか、周囲は凄い歓声で包まれ、神霊様のお言葉など蚊帳の外の出来事のような扱いだった。
グレオも、神威圧力に耐える喜びを脳裏空間で感じるのに集中して、周囲で巻き起こる歓声も同じく蚊帳の外に置かれていた。
『わたくしは貴女神を慈しみ育ててきました』
神霊様の神威を纏ったお言葉は、大空をかけ空の彼方まで声が澄み渡っていく。
「う―――ん、うごけない」
「くるし――い、いきができ....」
神子候補生ミルエッテも、神衣服の裾を肌蹴させながら神威の圧力に屈していた。
「プハ―...ん―...は―...んっは――...ん―」
ミルエッテは神威圧に持ち堪えられず、仰向けに大の字を描くように倒れている。
乱れる衣服にも構う余裕すらなく、荒い吐息を吐いて、必死に耐えていた。
ミルエッテのお胸様も神威圧に耐えられず、プニプニと潰れている。
瞳を滲ませ顔を桃色に染めて、必死に悶え助けを求めている魅惑的なお姿に、周りに蔓延る男性神等は注視していた。
「その表情、いいよ、凄いよ。光ってるよ。そのままゆっくりこっち向いて」
「失敗した―。この子、競り落としとけば良かった」
「う―ん、こりゃタマランね―。いい余興だよ」
「他の子達もどういう表情なのか、見に行こうぜ」
水晶岩の周りを取り囲んでいる御力の強い男性貴神等は、神眼をキラキラ輝かせながら、それぞれお気に入りの子の前で身悶えている。
会場の外では神霊様の放った神威が大空をかけ空の彼方まで声が染み込んでいく。
神威は辺り一面を満たすと晴れ渡る空に溢れ出した。
大空の神威流と水晶地表に蓄えられていた神威熱が交じり合い空を徐々に薄暗く侵食していく。
「もっと気合入れろよ―」
「もっと踏ん張れ―」
「もっと力んで―」
「もっと真面目な表情、見して―」
「生シャルディ、なまはげろ―」
「化粧剥がれろ―」
「早く自爆して―」
神講堂で蠢いている御力の強い貴神等は、貴重な存在にそれぞれ黄色い声援を送り、展覧会場は大きな歓声や怒号に包まれ場は一気に乱れ始めた。
会場の外では危険を察知した大空を舞う神鳥群は、この界隈からの逃走を一斉に開始していた。
「は―どうしよう。もうこうなったら、これしかないね」
シャルはお母さんを見つめながら、自分自神の考えを口に出して呟いた。
私には、みんなが後ろについてるもの、みんなのちからが合わせれば、きっとなんとかなるわ。
お母さん緊急対策協議会、おっかいの招集よ。
シャルはそう考えて、自神の脳裏世界に目を向ける。
その世界では、500柱の幼い風貌のシャルが集まり鬼ごっこをして遊んでいた。
(今度は鬼ごっこしてるの)
(今からおっかい緊急招集したいの)
(みんな助けてよ)
(みんなの御力を貸してほしいのよ)
―え―今鬼ごっこで忙しいのよ。
―また今度にしようよ。
―いま、いいところでしゅ。
―もうちょっとだけ、待ってくれない。
―そう、そう。
(それなら、私が鬼になってみんなを捕まえるわ)
(みんなを捕まえたら、おっかい招集するわよ)
(それでどう)
―面白そうね、それ。
―にげきってやるぞ―。
―あなたが鬼なら入ってもいいわよ。
―いいでしゅよ。
―現実世界はどうするのよ
(向こうはお母さんの宣言がまだまだ続いてるから、それまでに全部おわらせるわ)
―わかったわ。じゃあ、勝負しましょ。
―しょうがないわね。
―みんないくわよ。
―わ―い。
―今日の勝負は私がもらったわ。
―それにげろ―。
もう、お母さんは、何か変なお母さんモ―ドにに入ってしまったわ。
もう何を言っても聞かないし、届かないし、あれはもう無理。
早くおっかいを招集して、みんなの御力を合わせて対処しないと、
また、凄い事態が巻き起こってしまうわ。
この時間まで生き残ったみんななら、きっともう大丈夫なはずよ。
私はなんとかお母さんを惹きつけて、事態が混乱しないように、
『おっかい』開廷して緊急協議して、対策をたてて実行するわ。
メグちゃんが助けに来るまで、私が絶対に持ちこたえて見せるわ。
(さぁみんな―行くわよ―全員捕まえてやるわよ)
シャルは一旦現実逃避することに決めた。
今は脳裏世界で幼いシャル達を鬼ごっこで対決しみんなを捕まえ
『おっかい』を招集することに全力を傾けようと御心に誓った。