ルーキーハンター
正式に魔物の調査、および殲滅の仕事を受けたステインのメンバーは、仕事場所を訪れていた。あたりは見渡す限りの草原で、とても魔物が生息しているようには思えない。とはいえ油断したとたんに殺されることも珍しくないことを知っているのか、3人は緊張感を保ちながら周囲の調査を行う。
「何もないわ。周辺には何もないの。ねえ、異常なことよ」
屋外のためエルザの風魔法のレーダーによる探知感度が著しく鈍いとはいえ、それでも生物がいるかいないか程度は判別できる。そのレーダーに何も反応がないというのは、つまり周辺には生物がいないということに他ならない。
「……生活の痕跡や足跡もないね。食事や排泄の痕跡もない。確かにこれは異常だ」
エクスレイが周囲を見渡しながら、時には地面に膝をついて文字通り「草の根を分けて」探しても、何も見つからないようだ。
「一体何が――」
ジョシュアが言葉を切りだそうとした瞬間、3人の立っていた場所が数メートル周辺ごと突然陥没した。まるで落とし穴にかかったときのようで、たまらず3人はしたたかに尻もちをつく。見上げれば、2メートルは落下しただろうか。草と地面がクッションになってくれたおかげかそこまで大きなダメージはないようだ。
全くの突然に、まるで土から湧き出るように何人もの人間が姿を現す。おそらく土の魔法で地面に溶け込んだかなにかしていたのだろう。
「ずいぶんと単純な手で引っ掛かってくれて助かるよ」
「個人的な恨みはないが、死んでもらう」
口調こそ穏やかだが声色はドスがきいている。見るからに「ならず者」といった風貌の男女の集団がそこにいた。
「『ルーキーハンター!!』」
エルザがぎりぎりと歯を食いしばりながら彼らを睨みつけて叫ぶ。初心者ギルドのメンバーを抹殺し、ギルドそのものや施設、設備といったあらゆるものを奪い取る盗賊のような非合法集団が彼らだ。
ジョシュアはセレブロを引き抜いてルーキーハンターに向けて構える。エクスレイはステッキを頼りによろよろと立ちあがった。
「さあて仕事だ」
ルーキーハンターのリーダーだろう男が一声そう宣言すると、ルーキーハンターは手に持った武器や魔法を展開してステインを消滅させようと襲いかかる。
ステッキで地面をたたく柔らかな音がルーキーハンターの足音でかき消されるのと同時に、ルーキーハンターの半数が「地面から立ち昇った黒色の槍」によって串刺しにされた。男と女の絶叫が地下に響き、満杯になって地上にあふれた。
「は……?」
目の前で起こったことが理解できないのか、無傷のルーキーハンター達は串刺しにされて絶叫する仲間たちを見つめた。
「やれやれ、人間を殺したくはないんだよ。急所は外してある」
「影の棘」はエクスレイの魔法だ。彼の魔法は影を利用する。
「いつ見てもえげつないわ」
目の前の惨状にも慣れたように、エルザは攻撃のための魔法を展開する。しなやかな指先を指揮者のように振り上げ、そして振り下ろすと、指先から風の刃がとびだし、ルーキーハンター達を切り裂く。不可視の斬撃を魔法障壁で辛くも防いだものもいたようだが、その「不運な」生き残りにはセレブロの銃弾が突き刺さり、生きたまま体を焼いていった。