『セレブロ』
廃工場を危なげなく制圧したジョシュアとエルザは、寄り道も無駄話もすることなく所属ギルド、ステインへと帰っていた。
退屈そうなエルザには気付かないふりをして、ジョシュアはギルドマスターのエクスレイに今回の仕事の報告を行う。本来ならば彼ら自身が依頼主であるギルド本部へ報告すべきなのだろうが、仕事をとってきたのはギルドマスターであるエクスレイ自身だ。だからこそ、ジョシュアは彼の顔に泥を塗るまいという親切心でエクスレイに仕事の完了報告をしてもらうつもりなのだろう。
「あぁ、素早い仕事で助かるよ」
ジョシュアの報告ににっこりと笑みを浮かべて、エクスレイは報告のためにギルド本部へ向かうのか外へと歩き出した。次いでエルザが外に出ようとしたときに、ジョシュアが声をかける。
「昼飯を食わないか?」
「いやよ」
エルザがその言葉をばっさりと切り捨てると、ジョシュアはほんの少しだけ悲しげな笑みを浮かべる。だがそれを一瞬で消すと、彼の自室へと歩き出した。
ジョシュアの自室は異様なものだ。部屋のほとんどをガンセーフが占領しており、その他の空間にあるのは就寝用のベッドと小さなテーブルとその上に乗った工具箱、それと衣装ケースくらいだろうか。ガンセーフの中はうっすらとしか見えないが、何丁もの銃器が所狭しと押し込められている。
ジョシュアはセレブロを腰から引き抜くと、机の上において整備を始める。リボルバー式の簡単な構造の拳銃だからこそ、彼はこの作業を趣味としていた。
何も考えずに行えるルーチンワーク。分解して、清掃して、組みなおす。頭の中を空っぽにしてできることが、彼は何よりも好きだ。
十数分程いつもの決まり切った手順を繰り返して、彼は再び一つに組み合わされた愛銃、セレブロをしげしげと見つめる。
雨が降り始めたのか、窓ガラスを一度だけ、雨粒が叩いた。