手札を隠して
エルザの風の魔法による正確な探知とジョシュアの虐殺ともいえるような攻撃によって、廃工場はあっけなく制圧された。金目のものの確認と、念のためにもう一度工場の内部を二人は歩きまわる。
「いつ見てもあなたの魔法はおっかないわ。それにその銃も」
ジョシュアが右手に持つ銀色に輝く大型のリボルバー拳銃、「セレブロ」をしげしげと見つめてエルザは言う。魔法と科学が世界中に広く普及してからすでにかなりの年月が経っているが、魔法使いは科学を信用しないし、科学者は魔法を信用していない。このような魔法と科学技術の両方を合わせた武器、「魔法工学」を使用する人物は稀なのだ。
「拳銃に限らず銃器全般は好きだ。好きが高じてこいつを手に入れて、改造した」
ジョシュアは自らの部屋を回想して応える。部屋のほとんどを支配するガンセーフの中にはいくつもの魔法銃が押し込められているが、どれもこれもジョシュア自身が手塩にかけて改造と調整をし尽くした、文字通り『世界にただ一つだけの銃』だ。中でも「セレブロ」は、まだ彼自身が青二才だったころから、文字通り枕をともにして寝た仲である。
「装弾数は6発。銃身は長銃身にも換装可能だ。それに、銃弾は俺の魔法じゃなく、特殊弾丸を射出できるようにも改造してある。他にもこいつには――」
「待って。私はそんなに銃に対する知識は無いわよ。知りたくもないし。私はもっと小型のナイフとかが好きなの」
そう言うと、エルザはふんと鼻を鳴らして金目の物を探すべく目を光らせる。武器の類は見えないが、服の内側にでも隠しているのだろうか。何度かジョシュアとエルザは作戦をともにしているが、互いに手の内を、そして切り札をさらしてはいない。
一体何ができるのか、互いの手は知らないままだ。
「……なあ、これから互いに戦闘を行う上で、手の内くらいは見せておくべきだとは思うんだが」
「私に切れる手札すべて見せろって言うならお断りよ。絶対にそれだけはいやだわ」
ジョシュアの提案を、エルザはばっさりと切り捨ててそう言った。