魔弾の射手
ステインのジョシュアとエルザはギルドマスターであるエクスレイに留守番を押し付けた後で仕事場所である町はずれの廃工場を訪れていた。雨は止んだとはいえ廃工場内部は湿気が充満しており、気温も高いためじめじめとした不快感が体にまとわりつく。屋根があるくらいしか良い点はない。
「今回の仕事は工場内部の魔物の殲滅だ。市街地から近いが駆除しても駆除してもいつの間にか魔物がすみついている。きっと他のギルドも同じ仕事をしてたんだろうな」
「ってことは、『廃品回収』は期待できないわね。あーあ、報酬も大したことないしこんな仕事しかないなんて、いつか資金がなくなっちゃうわね」
エルザの言う廃品回収とは、仕事場所で金目のものを持ち出す行為だ。表向きには決してできないが、よほどの聖人君子ギルドでもない限りはほとんどのギルドが手を染めている。
「なんでこんな場所取り壊さずに残してるのかしらね」
工場内部をつぶさに観察しながらエルザが独り言のような調子で言う。見たところ何かの機械部品の製造工場だったようだが、金目のものはすっかりと無くなっている。残されているのはゴミや虫の死骸といったものばかりだ。
「おそらく、俺たちのような無名ギルドの育成場所だろうな。それか、下手に壊して魔物が町の近くまで来るのが嫌なのか」
ジョシュアは警戒しながらエルザの後ろを歩き、その言葉に返答をする。
しばらくの間歩き続けたが、突然エルザが立ち止まる。おそらく魔物の気配でもとらえたのだろうか。
「『流れ』が変わってる。あの角で私たちを待ちかまえてる」
エルザは工場内部の曲がり角を指さす。光が届かず薄暗くなっているその場所は、油断している相手を奇襲するには最適だろう。だが、ジョシュアもエルザも素人ではない。
エルザは風の魔法を扱い、ほんの少しの気流の変化でさえ読み取ることができる。屋外ではあまり役に立たないだろうが、こういった閉所では抜群に効果的だ。
「そうか」
あわてる様子はなく、ジョシュアは腰に取り付けたホルスターから銃を引き抜いた。銀色に輝くリボルバー式の大型拳銃『セレブロ』はジョシュアの魔力を弾丸として打ち出す魔法銃だ。基本的には弾薬もリロードも不要だが、彼は通常の実弾も射出可能なように改造を加えてある。彼の長年の武器の一つだ。
ジョシュアはセレブロを構えてわざと大きな足音を立てて曲がり角へと歩み寄る。エルザは用心深くあたりを観察している。
魔力の炸裂音とともに一発、ジョシュアの魔力を込めた弾丸が射出され、曲がり角の床に着弾した。曲がり角から犬型の魔物が数匹、ジョシュアを食い殺そうと飛び出す。すると床に突き刺さった弾丸は炸裂し、曲がり角周辺を炎が包む。生き物の悲鳴と肉の焼ける匂いが満ちる。
ジョシュアは間髪いれずに数発発砲し、そのいずれもが炸裂して炎を生んだ。すっかりと魔物を殺したことを確認したのか、ジョシュアは背後のエルザを見遣る。
「この近くにはもういないみたいね。他の場所を探しましょ」
戸惑う様子もなく、エルザは言った。