魔法剣召喚士と死霊術師
それから30分もすると、すっかり闘争の空気が出来上がっていた。一番手はグレイブディガーのマスターだ。男にしては長い真っ黒な髪をたらし、喪服を着こんだ彼の名は「ニコラス・ベルリオーズ」という。
彼、ニコラスの前に立つのは髪で片目を隠した男……小柄で、よく見れば少年のような顔立ちの彼は扉を開ける試験でほとんどのギルドをエレクトリック・カフェに統合させた人物だ。アリーナの観客席からのざわめきは徐々に小さくなり、やがて無音になった。
「それでは、試験を――」
「ちょっと待ちな」
先頭の開始が宣言されようとした瞬間、片目を隠した男は口を開く。
「始まる前に自己紹介でもしようや。俺ァエレクトリック・カフェ『フロア担当』の『ヴェノム・テラー』ってんだ。あんたの名は?」
にかっと人好きのする無邪気な笑みを浮かべて少年、ヴェノムはニコラスに問う。ニコラスは、ふっと柔らかに笑うと回答を述べた。
「グレイブディガー『ギルドマスター』、『ニコラス・ベルリオーズ』」
「終わったらステインと一緒にウチに来てくれ。メシくらいは出せる」
「あぁ……楽しみにしておくよ」
まるで闘争とは正反対の雰囲気で、アリーナを再び静寂が包む。試験管は咳ばらいを一つ落とすと、試験開始を宣言する。
すると先ほどまでの穏やかな雰囲気は嘘のように、ヴェノムがニコラスに向けて突っ込んだ。いつの間にかヴェノムの両手には、青白く半透明に輝く小ぶりなダガーが1本ずつ握られていた。
「おいおい……武器の使用は……」
「武器じゃねえ。あれはヴェノムの魔法さ。魔法剣召喚士なんだよあいつは」
エレクトリック・カフェ連合の新参がそんなやり取りをしている間にも戦闘は進む。ヴェノムはニコラスの首に向けてダガーを振りかぶる。ニコラスは穏やかに微笑んだまま、その刃先を見つめる。
ニコラスの首にダガーが突き刺さり、返り血の鮮血がヴェノムを赤く染めた。
「なッ……!?」
たまらずヴェノムは後ずさり距離をとる。ニコラスは焦点の合わない、光を失った目でうつぶせに床に倒れこんだ。
「ひっ……」
「こ……殺しやがった」
アリーナがざわざわとうねり、ニコラスは小刻みに震えている。ジョシュアがちらりとグレイブディガーの面々を見遣ると、何でもないという風に3人は目を閉じていた。
「こ……こ……こいつ! 自殺するためにここに来たってのか!?」
ヴェノムが震えながら後ずさると、ニコラスがゆっくりと立ち上がる。ダガーは首に2本とも刺さったままだ。
目の前の光景が信じられないように、ヴェノムはニコラスを指さしてぱくぱくと口を開けたり閉めたりしている。
「――――」
ニコラスが何か言おうと口を開いたが、ダガーのせいでうまく話せないことに気づいたのか、首からダガーを引き抜くと床に投げ捨てる。
ジョシュアはたまらず、大きく目を見開いてグレイブディガーの面々を見つめた。エルザやエクスレイも想像していなかったのか、ジョシュアと同じようにしている。
「死霊術ですわよ」
グレイブディガーの1人がそうつぶやいた。