グレイブディガー
試験会場は異常なものであった。広大な森林が目の前に広がり、樹木に固定されるように扉が立ち上がっていた。
目の前の異常性に直ちに適応したギルドはすぐさま手近な扉に飛びつき、鍵を調べている。あるギルドがドアノブを何気なくひねって扉を開いた瞬間、そのギルドメンバーごと、数人が消失し、ひとりでに扉が閉まった。扉の向こうは見えなかった。
そのできごとにひるんだのか、熱心に扉を調べていたギルドは1つを除いてすぐさま扉から離れる。それと同時に、カチンという小気味良い音が森林に響いた。
「子供遊びみたいなもんだな、こんなの」
髪で片目を隠した男が手元の針金のような工具をもてあそびながら言う。唖然とする他の参加者の前で、男は悠々と演説を行う。
「俺は『エレクトリック・カフェ』だ。俺は手慣れたもんだから開けられるがお前らじゃあこの錠は開けられねぇ。だから自信のねえギルドはエレクトリック・カフェに統合されろ」
その言葉にどよめきが大きくなる。アメリーは勝ち誇ったようにエルザを見つめ、エルザは今にも殺しかねないほどの眼光をアメリーにぶつけている。
「……おれたちはその話に乗る」
苦々しげにあるギルドが言うと、次々に賛成するギルドが現れ――結果的に4組のギルドがエレクトリック・カフェに吸収された。
「あんたらにとっても悪い話じゃないぜ?」
男がエクスレイに言うが、エクスレイは柔和な笑みを浮かべたまま首を横に振る。
「そうかい、残念。そんじゃあ最後のアンタらは?」
ステインの他に残った最後の1つは、喪服を身にまとった男女4人のギルドであった。「グレイブディガー」という魔法ギルドだ。
「俺達も断る」
リーダー格の男がそう言うと、エレクトリック・カフェの男は大げさに肩をすくめた。
「そんじゃあごきげんよう」
そして彼は悠々と背を向け、扉を開く。彼は消え去ることはなく、扉の奥に広がる真っ白い光の中に消えていった。