試験開始
数日後、ステインのギルドメンバーたちは再びギルド本部を訪れていた。人波をかき分けて以前と同じ部屋の扉を開くと、そこには病院の待合室のような空間が広がっていた。
据え付けられた長椅子には何人もが座ったり、窓辺で外の景色を眺めたりしている。ジョシュアは観察するように室内を一瞥すると、大きく息を吐いた。
エルザも同じように室内を見渡し、エレクトリック・カフェの「アメリー」を見つけると狂暴な笑みを浮かべる。アメリーも見つかったことに気付いたのか、目線は合わせないようにしながらも小刻みに震える。
エクスレイは迷うことなく「受付」へと歩きだす。ジョシュアとエルザも、そのあとに続いた。
「お疲れ様です。えぇと、ギルド名をお伺いします」
スーツ姿の女性が問う。
「『ステイン』だ」
柔和な笑みを浮かべてエクスレイが言うと、受付の女性はカウンターの上の受付表にチェックをいれた。
「試験開始までもうしばらくお待ちください」
「ありがとう」
事務的な会話を終え、エクスレイは踵を返して手近なあいている席に着く。それに倣って残る二人も腰かけた。
「あとは待つだけ。今のうちに気持ちを整理しておこう」
まるで試験を何度も経験してきたようにエクスレイが言う。ジョシュアはなぜ彼がこれほど落ち着いていられるのか、不思議でたまらなかった。だがその質問を切り出す前に、試験開始を告げるチャイムが鳴る。
ざわざわとしたうねりは次第に静まり返り、やがて咳払いの音さえも聞こえないほどの無音になった。すると、受付の女性が一つだけ、咳払いを落とす。
「今回の試験には8組のギルド、28人が参加しています。さっそくですが試験内容を説明します」
その言葉に、緊張の糸が張られる。一言だって聞き漏らすまいと必死だ。
「あなたたちが入ってきた扉を試験会場に接続しています。あなたたちは試験会場に行って、4つの鍵のかかった扉のうち1つの『錠』を開けてください。扉の向こうに行くことではなく、錠をあけることが今回の試験です。錠に対応するカギは室内に隠されています」
その言葉にあるギルドは戸惑いの表情を浮かべ、あるギルドはすでに合格したとでも言いたげな表情を浮かべる。エレクトリック・カフェのアメリーはほっとしたように息を吐いて、エクスレイは困惑したように困り眉をつくった。
「禁止行為の説明をします。錠を壊すこと。ただしピッキングは使ってかまいません。そして錠を開ける前に扉の向こうにいくこと。そして、1つのギルドで2つ以上の扉をあけることです。これらを行った場合、即座に失格とします。質問は?」
静寂が室内を包む。すると満足したように女性は笑みを浮かべた。
「それでは、試験を開始します」
女性の言葉と同時に、我先にとギルドの面々が駆けだした。そして試験会場になだれ込んだ。