スネークピット
エルザの反論に、たまらず給仕服の女性は目元をつり上げる。エルザと給仕服の女性の間にバチバチと火花が飛び散っていそうなその雰囲気に、たまらずジョシュアは静かに、ひっそりと、半歩だけ後ろに下がる。エクスレイは先ほどと同じ屈託のない笑みを浮かべ続けたままだ。
「大層なこと言ったって、ギルドランクBなんて大したことないじゃない。私の『前の』ギルドだってギルドランクBよ」
荒い息でエルザはそう言う。エルザの前のギルドの話を聞くのはジョシュアにとっては初めてのことだったようで、わずかばかりの疑問符を浮かべたがそれを口に出すことはなかった。
「いずれにせよ」
エクスレイが口を開くと、エルザと給仕服の女性は同時にエクスレイを睨みつける。それに対してもエクスレイは笑ったままだ。
「こんな子供の喧嘩みたいなやり方が試験なんてことはないだろう? 我々は何をすればいいかな?」
拍子抜けするような朗らかな調子でエクスレイが問うと、給仕服の女性は驚いたように小さく口をあけて、そして入店した時と同じような、屈託のない笑みを浮かべた。
「簡単ですよ。ギルドメンバー全員が私とお話してくれればそれで良いです。この試験の目的はあなた方の素性を暴くことです」
その言葉にエクスレイはわずかに困ったように眉を下げる。どうやら触れられたくない過去の一つや二つでもあるのだろう。
「さて、まだ貴女との話は終わっていませんよ? エルザ・オリヴィエ? 貴女は以前どこのギルドに所属していて、なぜ今はここにいるのか、しゃべってください」
給仕の女性の問いに、エルザは大きく息を吸い込むと回答を吐き出した。
「元『スネークピット』。前のギルドの慣れ合いの雰囲気が嫌いだったから抜けたのよ。こんな話くらいいくらでもあるでしょ?」
エルザは目を伏せて言う。その回答に満足したのか、給仕服の女性は次の目標をジョシュアに定めたようだ。
「あなたは有名ですよ? ジョシュア・エンデュミオン。元『マジック・ミサイル』所属の人殺し。女子供でさえためらいなく殺すって」
その言葉にエルザはぎょっとしたように目を見開いてジョシュアを見つめた。
「……結果的にそうなっただけだ。人を殺すのは好きじゃない」
「じゃあ――」
「その辺にしておけよ『アメリー』」
ドアベルが鳴り響き、初老の男がそう制止した。