アイアン・ガンマン
ついにギルドランク試験の当日、ステインのギルドメンバー3人は数々の道具を身にまとって会場となるギルド本部を訪れていた。
分厚い扉を開くとまず目に飛び込むのは人だかりだ。仕事の斡旋や依頼、ギルドに関する各種手続きといったものはすべてこの場所で行われるため、普段から人は多いのだが、今日はギルドランク試験もあるため、それこそ人波に押しつぶされそうなほどに人があふれている。
「押さないで! 試験に参加する方は一番奥まで止まらずに進んで!! これも試験の一つです!!」
スーツを着込んだ男性が進行方向の書かれた看板を高く掲げて冗談とも本気ともとれない言葉を叫ぶ。ステインのメンバーは人波を器用に縫い、奥へと進む。
「試験会場。同一ギルドの方は手をつないでお入りください」という札がでかでかと張り付けられた扉に従い、ジョシュアと、エルザと、エクスレイが手をつなぐ。ジョシュアが扉をあけると、先ほどとは打って変わって誰もいない。それどころか、入ってきた扉さえも消失していた。
部屋の中は5メートル四方程で扉や窓はない完全な密室。部屋の中央には小さなスチール製の机だけが、そしてその上には一枚の書類がピンで留められていた。
「なんとこれは……」
エクスレイが驚愕したように呟く。エルザは舌打ちをしてエクスレイとジョシュアが握ったままの手を振りほどく。そしてそのままずんずんと大股に書類のところへと歩き出し、書類に書かれた文字を目で追った。
書類には「この机の脚を4つとも破壊せよ。ただし魔法を使ってはならない」とだけ書かれている。
「ばかげてるわ。ジョシュア、ぱぱっとやっちゃって」
乱暴に書類をはぎ取ったエルザがジョシュアに向けてその書類を突き付けながらそう「命令」する。
エルザの気迫に押されたのか、ジョシュアはセレブロを引き抜くと続いてホルスターの中から慣れたようにスピードローダーを取り出す。6発の銃弾をセレブロにねじ込み、机にゆっくりと歩み寄りながらセレブロの撃鉄を親指で引き起こす。
ドバン、という強烈な火薬の炸裂音が耳を貫くと同時にセレブロから銃弾が発射され、目の前の机の脚を「2つ」まとめて吹き飛ばす。支えを失った机がぐらりと傾くが、それが床に触れるよりも早くセレブロから放たれたもう一発がさらにもう一つの脚を、そして衝撃でぐるりと裏返った脚に向けて放たれた最後の一発が、最後の脚を吹き飛ばした。
ジョシュアは撃鉄を引き起こし、そして撃つ目標が無くなったことに気付いたのかゆっくりと撃鉄を下ろしてホルスタ―にセレブロを仕舞いこんだ。
「他愛ない」
ジョシュアが背後の二人を振り返ってそんな風に呟くが、エルザは耳を両手でふさぎ、ギュッと目をつむっていた。
「それ……バカみたいな音が出るのね……」
今まで魔法銃としてしか使用していなかったせいか、エルザは怯えたように耳から手を離す。一方エクスレイは何でもなさそうなそぶりで、いましがた吹き飛ばした机をしげしげとみつめていた。いつの間にか、彼らが入ってきた場所に扉が現れていた。