寄生植物は離さない
意外と早くできた
……誤字とか多いかも知れないけど
彼とスペリアの二人は依頼で森の中の舗装された道を進んでいた。
一本一本の木は背の高く伸び、自身の枝を大きく広げ、太陽の光を可能な限り奪っていく。そのため、森の中は光を殆ど通さないため、夜の様に暗く、舗装された道がなければ迷いそうになる。そんな迷い人を捕らえるためか、ここには数多くの植物系の魔物が蠢き、通る者に襲いかかる。
それを彼は剣で斬りながら進んで行く。
(さっきから鬱陶しい植物ね)
「少し前までは、こんな魔物もいなくて、気を付ければ誰でも通れたみたいなんだけどな」
ここは少し前まで、木が日の光を阻むほど大きく育っておらず、道は明るく、人間を殺すほどの魔物も殆どいなかった。
だが、いつの間にか木々は大きく育ち、危険な魔物が現れるようになっていた。
(そう……それは何かありそうね)
「そうだな。けど、原因解明は仕事じゃない。俺たちの仕事は先にある花畑から、花を幾つか取って来れば良いだけだ」
今回の依頼は森の奥の花畑。そこに咲く花を採取するだけ、原因解明などと言った金にならないことをする意味は彼にはなかった。
多くの魔物を斬り倒し進んでいると、ようやく目的地である花畑にたどり着いた。
(あら、綺麗な場所ね)
辺り一面は淡い水色の花で埋め尽くされていた。先ほどの森とは正反対に明るく眩しい。息を吸えば一面に咲く花たちの甘い香りが胸いっぱいに溜まっていく。
その光景はあまりにも幻想的で、思わず彼の口から溜め息が漏れだす。自身が何のために、ここまで来たのかを忘れてしまい。
花を刈り取ることもせず花畑へと歩んでいく。
「お兄さん、だーれ?」
突然、声を掛けられた。
振り向き下を向けば一人の少女がそこにいた。
身長は小さく、10歳ちょっとの子供の様に見え、肌は病的な白い肌を持つスペリアとは正反対の日焼けした肌を持つ。幼い顔立ちに中にある水色の瞳は空を連想させるほどに美しく。頭から肩にまで伸びる髪はふわりとし、草原を思わせる様な綺麗な緑色であった。
綺麗な花畑にいる少女ということもあってか。
彼は何故ここに危険な魔物が現れるようになったのかを忘れていた。
突然、彼の後ろに現れた少女は彼の左手を握る。
瞬間。
彼に悪寒が走った。それはスペリアを取った時と同じような寒気。
「まあ、良いや。それじゃあ、いただきまーす!」
少女の手を離そうとしたときには既に遅く。
彼女の腕から数本の根っこのような物が生え始め、それらは全て、彼の左手に突き刺さり中へと入っていく。
離れようと腕を引っ張るが、少女の手や体は非常に重く。まるで根を張った大木を動かすかのような感覚に襲われる。そのように抵抗している間にも、彼女の侵蝕は進んで行く。
だが。
「あれ?」
途中で根っこの動きが止まり、少女は首を傾げる。
どうやら彼の身体に、これ以上入り込むことができないようだった。
それは今までにない経験だったようで、明らかに動揺している。そんな中、彼の持つ剣は光り、人型へと変わっていく。
「悪いけど、彼は私の物なの。勝手に取らないで欲しいわね」
自身が物扱いされていることに、少々の怒りは沸いたが、ありがたいことにスペリアが少女による侵蝕を防いでいるらしい。
今の状態でなら問題なく少女の首を斬れば、侵蝕を完全に止められるだろう。そう思いはするが、何故か人型になったスペリアの所為で少女の首を落とすことが出来ない。
そのため、すぐに剣に戻れと命令しようとする。
「おいスペリア剣に「けど、半分だけなら、あなたにあげても良いわ」……おい待て」
「ホント!ありがとー!そーれーじゃーあー」
「待て、勝手に話をすs!?」
侵蝕される彼本人の許可なく、彼女の侵蝕は再び始まる。
その感覚はまるで、細い糸が左半身に張り巡らされている様な気持ちの悪い感覚。あの感覚に上手く言葉を紡ぐことが出来ない。
「おーわり!お姉さんありがとー!」
「ふふ……どういたしまして」
勝手に許可された侵蝕が終わると、モチモチとした幼い少女の右手と彼の左手は硬く繋がれていた。
それはスペリアに呪われたときと同じ様にガッチリと。
その様子を見て、彼は嫌な予感しかしなかった。
「おおおー!すごーい!」
結局、彼の予感通り、左手から少女の右手が離れることはなかった。
一度は殺そうかと思ったが、スペリア自身がそれを拒む上、両手が使えない彼が少女を傷つけることが出来ないため断念した。
右手から離れないスペリアの呪いを解除するために、お金を稼いでいた筈なのに、気が付けば左手から離れない少女が現れていることに対し、彼の気分は雷雲のように暗かった。
「はあ……ラリー。あんまり騒ぐな」
彼は街の様子に少女。ラリーは歓喜の声を上げる。
どうやら、魔物として生まれた時から、あの花畑に住んでいた彼女にとって、多くの人が住んでいる街を見るのは初めてなようで、さっきから隣で大きな声ではしゃいでいた。
時折、気になる物を見つけては走り出す。無論、彼とスペリアは離れることが出来ないため、ラリーを強制的に追いかける羽目になる。
そのため、依頼を報告したいのに中々行けずにいた。
「お兄さん!お姉さん!ここ凄く美味しそうな匂いがするよ!」
「お、お嬢ちゃん。一個いるかい?」
「いるー!」
ラリーが彼らを引っ張りまわして少し経つと、ある屋台で焼いている肉の匂いに釣られ、そちらに走り出す。
どうやら、ケバブと呼ばれるパンで肉を挟んだ物を売っている店の様だった。
「あら、良いわね。二つ貰えるかしら?」
「あいよ!お二人さん別嬪だからオマケしておくよ!」
「ふふ、ありがとう」
「ほら、あんちゃん。全部で200ゴールドだ」
「いや、お前ら勝手に……まあ良いけど、それじゃあ、もう一つ追加で」
「あいよ!じゃあ、合計で500ゴールドだ」
「オマケはないんのか……いや、当然か」
勝手に決められたことに腹は立つが、正直彼も小腹が空いていたため、迷わずそれを購入する。
そして、商品の代金を払うため、左手で自身の財布を取り出そうとするが、それはできなかった。
「んー?お兄さんどうしたの?」
前までは左手は自由だった彼だったが、今彼はラリーの手と硬く繋いで離せないことを忘れていた。それゆえ、財布を取り出すことが出来なかった。
「ふふ、そういえば、そうね」
そのことに気が付いたスペリアは笑いながら彼の財布がある場所へと手を伸ばす。左ポケットにあった財布を取り出し開ける。
ただ、スペリア自身も、片手ではお金を取り出すことが出来ないため、開けた財布をラリーに持たせてお金を取り出す。
事情を知らない店主は、そんな不可思議な行為に疑問を覚えるが、何も言わないでいた。
「毎度あり!それじゃあ、ほい、三つ」
お金を受け取った店主は三つの商品を手渡す。
一つはラリーに、一つスペリアに。
もう一つを彼は貰おうとしたが、両手が塞がっている彼は持つことが出来ない。とはいえ、スペリアたちが片手で二つ持つのは難しい。
頼んで出てきた以上は返却することは出来ず、どうするか悩んでいると。
「美味しかったー!もう一個食べたいなー!」
今さっき渡された筈のケバブを食べ終わり、美味しさで笑みを浮かべるラリーがいた。
「美味しいねー」
三つ目のケバブをラリーに渡し、三人は屋台を後にする。歩きながらケバブを食べる両側の彼女たちを見ながら、彼はお腹を鳴らす。
そんな、彼を見てか、スペリアは手に持っているケバブを彼の口へと運んでいく。
「ほら、あーん」
「……は?」
突然のそれに彼の思考は停止する。
「は?じゃないわよ。あなた食べたいのでしょ?」
「いや、そうなんだが……」
事実。彼はケバブを食べたかった。
だが、それはそれとして、スペリアに食べさせてもらうことは、酔った状態でしかなかったため、シラフでそれをやるのは、少し恥ずかしかった。
「はあ……。なに恥ずかしがっているのよ。今後あなたは私に食べさせてもらうしかないのよ」
そう、彼は理解していた。
左手が使えた前とは違って、今の状態は全ての行為を彼女たちに任せないといけないことを。それは物を持つこと、食べること、子供でも出来る様なこと全て。
理解はしていたが、受け入れたくはなかった。
そう思いながら、諦め半分で彼は差し出されたケバブにかぶりつく。
「ふふ、美味しい?」
「……まあな」
その後、ようやく依頼の報告を行き、予約していた宿に戻ってきた。
ずっと美女と手を繋いでいた彼が新しい女の子と手を繋いで両手に花の状態だったため、他冒険者からの嫉妬の視線が酷く、ただ依頼を報告するだけだったのに、非常に疲れが溜まった。
すぐにでもベッドに横になって眠りたい気分であったが、スペリアはそれを許さなかった。
「ほら、やるわよ」
片手に絞った手拭いを持ち、固い意志で彼を睨む。
正直、今日だけは勘弁してほしかったが、様子から見ても逃してくれるようではなく。渋々と拭かれるため身構える。
「なにそれー?私もやるー」
それを見たラリーは何をするのか理解してないまま、子供の様にやりたいと叫ぶ。
「それじゃあ、前をお願いね。このタオルで優しく擦ってあげて」
「はーい!」
今までだったら、前だけでも自分でやることは出来た。
だが、両手が使えない今、前を拭くだけの行為も彼女たちに任せるしかなかった、
「いくよー!」
ラリーは彼の身体を拭き始める。
初めてなためか、少し力が強く感じるものの、これはこれで汚れを落としている感覚が強く感じる。不便な片手で一生懸命にやっているためか、彼女の右手に力を込め、子供特有の柔らかさが手に強く伝わる。体全体を大きく揺らすため、髪の毛が自身の鼻先で大きく揺れる。そこから、木々の様な香りが鼻をくすぐる。それは森林浴をしているかのような安心感を覚えるものだった
「それぐらいで良いわ。ありがとう」
「はーい!」
ラリーが終わると次はスペリアの番。
座っている彼の足へと跨り、手を背中に回す。殆ど抱き合っていると表現しても良いほどの体制は、知らぬ人から見たら、勘違いしそうなものであった。
そんな体制のためもあり、半裸の彼の身体に彼女の服越しからもわかる柔らかな肌が密着する。首筋や髪の毛から香る薔薇の様な香りが鼻をくすぐり脳天を揺らす。
正直、ラリーは見た目が子供だったため、大して意識することはないが、スペリアは違う。どこからどう見ても大人の女性であるその見た目は彼の精神を大きく揺さぶる。
そんな、天国の様で地獄の様な時間を何カ月も体験しているが未だに慣れることはなく、彼は必死に我慢し続けている。
天国と地獄の時間が過ぎ、後は眠るだけ。
その時間も、また天国と地獄であった。
「ちょっと、狭いわね」
「だな……。でも、これ以上大きいのはないんだよ」
元々は彼とスペリアで寝るための二人用のベッドで、前の様にスペリアと寝るだけなら広さ的な問題はなかった。
しかし、今夜からはラリーも一緒に寝る必要があり、二人用のベッドで少し狭くてお互いに身体をくっつけるしかなかった。ついでに言えば、他の部屋にも三人で眠るためのベッドは存在していないため、今後もこの広さのベッドで眠ることになるだろう。
「んじゃ、おやすみ」
「おやすみー」
「おやすみなさい」
そう三人は言うと眠り始めた。
とは言え、彼一人は眠れる気がしなかった。
寝ようと意識すれば意識するほど、右側の感じる薔薇の甘い香りやスベスベと柔らかい肌が身体を密着する感覚が。左側の森林の様な安心感を覚える香りやモチモチと弾力のある肌が体に密着する感覚が、ハッキリと伝わってしまう。
ちなみに前まではスペリアと寝る際も離れて寝ていたため、彼女と密着したまま寝たことがないと本人は思っているが、実際は彼が酔っ払っている日などは彼女の抱き枕にされていることが良くあったが、それを彼は全く知らない。
そのため、彼は今日一日は眠ることが出来なかった。
二人の女の子に両手塞がれて、色々お世話されたい。