第9話 アカウント共有
いつもより少し長めかな?
俺らはサーチを終了させ、クエストが表示されている掲示板へ向かった。
5人で掲示板を見ているとリナと翼は違うクエストを選んでいた。
「私はここ!レベル相応のクエストじゃないかしら!」
リナはレベル10向けの「初級モンスターを捕獲せよ」のクエストを選んだ。
「いや、リナ。そんなよわっちいところ行くなよ!俺様の純白に輝くこの"白夜刀"を見ろよ!攻撃力は300だぜ?!ここに決まってる!」
翼は自慢げに刀をすらりと抜きながらレベル30向けの「凶暴モンスター討伐」のクエストを指差していた。
まぁ攻撃力300武器か。
なかなか強いじゃんか。
俺の武器は120だからな。
「カイトはー?」
「カイトはどこだよ?!」
リナと翼に追い詰められる。
俺は逃げるようにツカサに聞いた。
「ツカサはどれにしたい?」
するとツカサはもじもじしながら掲示板を指差した。
「これ…」
ツカサが指差したのはレベル1向けの「お花畑でお花摘み」のクエストだった。
なるほど、可愛い。
ミズキはツカサが見せた可愛さで後ろに倒れそうになった体を抑えながら大きく頷いて
[決まりだね(^^)]
とグループチャットを打った。
「何勝手に決めてんだよ!俺がいるから大丈夫だって!ここにしようぜ!」
自信満々の翼。
[黙りなさい、ガキ。ここにするって言ってるじゃない。]
殺意剥き出しのショタコン。
リナはどうすんのよという目で俺に聞いてきた。
俺は仕方なく決定した。
「じゃあ今日はツカサが選んだやつにするか。」
えー、という翼の声を聞き流し俺はツカサの方を向いた。
ツカサの隣にいたショタコンお姉さんは頷いていた。
リナも仕方がなさそうにしていた。
クエストを承諾した俺らはお花畑のある森林地帯の「ガイア」に向かった。
魔法が使えないツカサのために歩きと馬車で行くことになった。
翼はぶーぶー言っていたがミズキの目を見たリナが止めに入った。
馬車の料金はミズキが翼以外のお金を払ってくれた。
ショタコンじゃなかったらいいお姉さんなんだけどな。
その理由として俺には5分単位でミズキから個人チャットが届く。
全てツカサに関するチャットだ。
なんだ?
俺のチャットを"某つぶやきアプリ"だかなんかと勘違いしてんのか?
まぁいいや。
ここでクロミナのVC.の説明をしておこうと思う。
クロミナの中心都市「ラミナ」ではVC.は話す相手と互いに了承を得た上でしか話すことができない。
しかし、「ラミナ」以外のバトルフィールドでは一方的に"話しかける"という行為が可能になっている。
その仕組みがなくてはクエスト先での急な協力関係も成り立たなくなってしまうからだ。
だから一方的に話しかけられることもあれば、話しかけることもあることを承知しておいていただきたい。
何だかんだで森林地帯「ガイア」に着いた。
「ふぅ、やっと着いたな」
「ごめんなさい、僕がレベル低いせいで…。」
「全くだぜ!時間の無駄ってやつだ!」
「まぁまぁついたんだし!いいじゃない?」
[黙りなさい。糞餓鬼]
「お?誰のことだよ?ミズキ」
「あーっと、あそこに見えるのが花畑だな!翼はここに来たことあるのか?」
俺はとっさに翼に話を振る。
「あたりメーだろ。討伐クエストも何回も来たぜ。ま、アカウント共有したもう1つのアカウントのデータの話なんだけどな」
ん?
アカウント共有?
何だそれは。
「なぁ翼。アカウント共有ってなんだ?」
すると翼は呆れ顔で答えた。
「ああ?そんなのも知らねーのかよ。ほんと初心者だな!アカウント共有ってのはな、」
翼の話が始まった。
俺は翼の話を覚えていない。
というか意味が不明だった。
何語話してんだこの厨二は。
俺の表情から察したのかリナが教えてくれた。
「えっと、つまりね!自分で作ったもう1つのアカウントを自分自身で共有することができるの。だから、このクエストの時はこのアカウントのキャラクターがいいなーとか変更ができるの!まぁやるのは上級者の人が多いけどね。」
「なるほどな。」
つまり、もう一つアカウントを作って、それを今のアカウントと共有し合うことでいつでもスキンや能力、自身のセーブデータの変更が可能というわけか。
「便利だな。」
「でしょ?」
「ツカサもわかったか…っておい!」
ツカサの方を振り向くとつい大きな声を出してしまった。
ツカサと一緒にいたミズキが倒れていた。
「ちょっと、ミズキ?!大丈夫?」
リナが心配する。
「ツカサ!何があった?」
俺がツカサに聞くと恥ずかしそうにしていた。
「いや、その…」
なんだ?
「何してんだよ、まったく!」
翼はイラついてきた。
ツカサは恥ずかしそうに口を開いた。
「怖いから、手繋いでって言ったら倒れちゃったの…」
は?
おいミズキ。
まさかお前…
堕ちたか。
ミズキを起こすリナ。
ショタコンお姉さんは鼻血を出していた。
いや、顔面から転んだからじゃない。
あれは興奮だ。
「「仕方ねーお姉さんだ。」」
俺は翼と初めて意見が合った気がした。
騒がしいけど、なかなか楽しいクエストになりそうだな。
俺らは一旦、リアルの夕飯のためクエストを中断することにした。
再集合は8時に決まった。
あと1時間後だ。
クロミナを一時的にやめると夕飯のためリビングに行った。
するとお母さんから紙切れを受け取った。
「何これお母さん。」
「戒斗の部屋を掃除してたら見つけたんだけど何かのコード?お母さんわからないけど捨てる前に戒斗に聞いた方がいいと思って…」
コード?
真っ白のメモ帳の切れ端のような紙。
その裏を見た。
「00002581……?」
その時。
またもや耳鳴りと共に激しい頭痛に見舞われた。
先程感じたものと同じだ。
この痛みは…
記憶が蘇る前兆。
またもや5年前と思われる俺が脳に映し出される。
あまり見えないが、またもやクロミナの画面だ。
「まめつけん、しゃいりある…」
映し出された文字を読んだ。
【魔滅剣】
【5年前の俺】
【クロミナ】
【コード】
【00002581】
はっ!
頭に雷が落ちた。
ごちゃごちゃに絡まり合っていた全ての単語が繋がった。
俺は静かに笑った。
そして思った。
過去の俺ありがとう、と。
7時30分。
俺は多分最強だ。
このコードのアカウントでログインすると5年間放置したデータが蘇る…
筈だ。
確信はまだない。
なんかの拍子にスマホが壊れた時にデータごと逝ってしまった可能性も否定できない。
でも、クロミナにはオートセーブ機能がある。
クロミナのサーバーの中に俺のデータが残っていれば復元できる可能性はある。
しかも、リナが言っていた通り、俺の剣である魔滅剣シャイリアルの安否は確認できている。
データは多分残っている。
しかし、俺はそれでいいのか疑問に思っていた。
俺はたしかに強くなりたい。
でも、最強にならなくてもいいんだ。
俺は楽しい高校生活を送ることができればそれでいいと思っていた。
最強の姿でグループメンバーの前に出ればそれは敬われるし、褒められるだろう。
でもそうしたら俺とあいつらの関係は崩れてしまう。
あいつらは俺が最強じゃないから近寄ってきてくれた。
最強だったら見向きもしないだろう、いや、見れないだろう。
俺はアカウントのログイン画面に移動した。
[データ復元]の欄にコードを入れた。
すると幸いデータは全てクロミナのサーバーに保存されていたのようで無事だった。
俺の携帯が壊れたのは最近。
だとしたらそれまでクロミナの放置が行われていたとすると俺は5年放置したことになる。
「ようこそ」の文字が出て、どこか懐かしい公園のような広場に出た。
ステータスを確認しようとしたが、アップデートのため動かさなくなった。
俺は10分くらいかかって5年分のアップデートを終わらせた。
そしてすぐにステータスを確認した。
【聖騎士エグバート】LV.5203
体力/702000
攻撃力/57421+68214(武器分)
防御力/86321+52000(防具分)
魔力30085
何これつっよ。
頭おかしいんじゃないかってほど強いぞ?なにこれ。
確かクロミナの中のレベル最大値はLV.9999だったはず。
現段階クロミナ界の最高レベルがLV.2000くらいだったか。
つまり俺が最高か。
持っている武器…
これがリナが言っていた"聖剣"
【魔滅剣シャイリアル】LV.6042
「この剣は騎士にのみ装備可能。この世界に一本の名剣であり、魔物を切り裂く力を持つ。剣自体も時と共に成長し、時間が経つにつれてステータスも上昇していく。攻撃力68214/防御力32584/耐久値30425」
言葉も出ない。
これは魔王軍だかなんだかは倒せるわ。
でも……ーー。
俺は固く決心した。
このアカウントは"もしも"の時にしか使わないようにしよう。
強敵に襲われた時とかに。
第9話、最後まで見てくださり、ありがとうございました!
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