第4話 弱者の自覚
投稿が遅くなって申し訳ないです。
俺の画面に初めに表示されたのは復活可能時間である100秒のカウントダウンと動く砂時計だった。
俺はこのクロミナのため、最後の最後まで精一杯戦った。
あれが自分ができる全力だった。
周りにいた人は上級者。
意地悪に助けてくれなかったとも取れるが、相手が強すぎるが故に助けることが出来なかったとも取れるかもしれない。
だから、そう思ったからまるで英雄の生還のような気持ちで残り50秒のところで復活できたのは必然だと思っていた。
クロミナの危機を救った英雄を助けるのはクロミナプレイヤーとして当然だと思ったからだ。
だが、俺が立ち上がると周りには全員レベル1000を超える上級プレイヤーが不満そうに立っていた。
ざわざわと何か話しているのが聞こえる。
俺を復活させてくれたのはその前に一度倒れ、他のプレイヤーに助けられた"リン"というプレイヤーだった。
俺がリンに感謝の言葉を伝えると静かに頷いた。
ついに周りの上級プレイヤーの1人が動いた。
レベルは2530。
全身を黒に統一したその格好は忍者を連想させた。
腕輪や首に巻かれた装飾品などを見る限り相当な上級プレイヤーだということがわかる。
そして胸には何やら刻印がしてあった。
龍の刻印だ。
そしてそのプレイヤーは口を開いた。
「お前が最強プレイヤーだと?調子に乗るな。」
その言葉は俺の少し浮ついていた心にずしりと響いた。
声からして男だった。
「ただのレベルとステータスが誰よりも高いだけの"放置民"だろーが。」
男は顔を俺に近づけて威嚇した。
「お前がこのクロミナの最強?ふざけんじゃねぇ!俺の方がよっぽど強い。悪いが、そう思ってるのはここにいる全員だ!!」
俺はその言葉に我に返った。
周りの人は全員睨んでいるように感じた。
「言っておくが、俺らが今回の戦いに参加しなかったのは、敵にはお前が持ってる"魔滅"シリーズの武器じゃないと攻撃できないからだ!」
はっ、とまた気付く。
確かに最初の方に聞いていた……。
……悪魔にはそれに対応する武器でしか攻撃できない……
すると横からまた別のプレイヤーの声がした。
「君の戦いは全世界にライブ中継されていた。今はもう終わっているが、たいそうなコメントが打たれていたぞ。中には【最強プレイヤーじゃない】というコメントで溢れていたよ。」
またずしりと心に響く。
今まで自分が築いていた何かが壊れて行くような感覚に陥っていた。
「何度でもいうが、この世界はステータスとレベルが全てではない。その2つだけの世界なら君は最強だ。だがクロミナは違う。それは別のRPGでもやればいい。ここでいう最強は"総合力"で認められる。」
……総合力……
俺はレベルとステータスにおいては最強。
だが、他のスキルにおいては0に等しい。
そこが欠点となり総合力で中級者と同じかそれ以下の扱いを受けても仕方のないことなのだ。
「君は何か魔法は使えるのか?」
……魔法……
俺は魔法の全てを知らない。
全て剣術でこと足りると思っていた。
だが、剣術にも魔法によって剣を強化したり守護魔法で結界を張ったりすることができ、今回の戦いも有利に進めることができたかもしれなかった。
魔法の経験があれば。
「君は道具の使い方、使い道を知っているのか?」
……道具……
持っているだけ。
効率よく使ったことなんてなかった。
どんな時にどんな道具がいいかなんて知らない。
「お前はほとんど何も知らない。いや、知っていたとしても経験が無い。そんな奴は最強に居てほしくないのだ。」
そこに並び立つプレイヤーの全てが頷いた。
それは自分の存在価値がゼロだと証明された事と同義だった。
俺は思わず黙り込んでいた。
周りにいる奴らは全員俺に対して友好的ではない。
ましてやその逆だ。
確かに上級プレイヤーの気持ちになってみれば当然のことだったのかもしれない。
地道に最強プレイヤーを目指して戦って、レベルを上げて、経験値を増やしてきたのに突然現れたレベルとステータスだけが高い奴が最強と呼ばれるのだから。
それは心底腹が立つだろう。
妬ましいだろう。
でも……。
だからと言って……俺はどうすればよかったんだ?
すると俺の前に立って周りの上級プレイヤーに呼びかける人が現れた。
それは俺を復活させてくれたリンだった。
「皆さん!確かにカイトさんは私たちよりも弱いかもしれない。だけど、運営に呼ばれただけだし悪魔に対抗できる人も限られてるし、仕方なかったじゃないですか?!」
「"魔滅"シリーズを持つ1人である"リン"には奴の気持ちがわかるのか?それはそうだよな。何てったってこの世界の真の"最強"プレイヤーだからな。」
リンが?ーーー……。
「魔滅……?」
「ああ?お前そんなことも知らな
「"魔滅双剣シャイリフォル"です。」
リンは俺の質問の意図を汲み取ってくれた。
笑顔で返してくれた。
俺に対する罵りの言葉を遮って。
そういえば、俺の魔滅剣は……。
少し離れた場所に落ちていた"魔滅剣シャイリアル"はレベルも耐久力も下がってはいなかった。
「仕方なかったかもしれないが、お前の存在は邪魔でしかない。お前が俺よりも強かったら良い。だが、お前は俺よりも弱いんだ。そんな奴に上にいてほしくない。」
黒い忍者はそう吐き出した。
周りを見渡しても異論はなさそうだった。
なら、俺は……。
「俺はどうすればいい?上級プレイヤーのほとんどに存在を否定され、弱者だと言われた。ならどうすればいいんだ?」
「簡単だ」
その男は軽く言った。
「そのアカウントを使うな。少なくとも、お前が俺らに勝てるようになるまでは。」
「…………」
このアカウントを、使わない?
言ってしまえばこの力は俺の技術で強いわけではない。
このアカウント自体が強いから、俺が強いと錯覚していただけだった。
しかし、それもいま否定された。
そもそも俺は強くない。
たとえこのアカウントを使ったとしてもここにいる上級プレイヤーだれにも勝てないだろう。
「わかった」
結論は出すつもりはなかった。
でも出すしかなかった。
このまま逃げても良かった。
でもきっと逃げれないのだろう。
周りからは笑う声が聞こえた。
でも、何かがおかしい気もする。
本当に俺は間違っているのか……?
隣で少し俯いていたリンは俺の視線に気づくと
「ごめんなさい……説得すること、できませんでした。」
「なんで君が謝るの?俺が弱いからでしょ?だから気にしないでいい。」
「……でも……!」
「君はこの世界の最強プレイヤーなんだってね。君も俺がさぞ邪魔だろう?努力で頑張ってきたのにチートみたいなことしちゃってごめんね。」
「な、そ、そんな……か、カイトさんは誰よりもや、優しいです、!私を助けてくれたから……!」
「もう、いいんだ。」
上級プレイヤーたちは俺の了解に満足したのか、一斉にログアウトを始めた。
その際に残していった不敵な笑みが忘れられなかった。
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