第3話 心境
お久しぶりです。
4月17日11時。
クロミナが壊滅する少し前に時は遡る。
氷雪地帯から逃げるワープの途中、カイト達はこれからの行動を話していた。
「みんな、聞こえるか?」
カイトが5人に問いかける。
全員から応答が返ってくると話し始めた。
「俺はこれから運営の為に魔王から中心都市を守る為に戦いにいく。」
「私も行く!」
美咲が吠える。
だが、みんなわかっていた。
美咲も勿論強い。
それに運営からの呼び出しがあったことも知っている。
だが、彼女は今戦える状態ではなかった。
新しく作った「ミサキ0812」のアカウントは毒に侵され瀕死の状態。
元々あった「ミサキ」のアカウントも回復したものの戦う武器が消失した為戦うことができない。
「ごめん……」
ミサキは自ら訂正した。
「私たちも何か手伝えたらいいんだけどね……」
ミズキはそう話す。
「お前らには美咲の毒を治す仕事と即刻ログアウトする仕事がある。それで充分だ。」
「毒を治すことなんてできるのか?」
翼が話す。
「どういうことだ?」
「解毒剤持ってないだろ?俺たち」
つまり、この混乱した状況で解毒剤など何処に売っているんだという話だった。
「金はあってもな、その物自体無いとな」
「おれはツカサに既に解毒剤を渡している。」
「はい!持ってます」
「ならいいか。」
翼も了解した。
「でも…やっぱり最前線で戦うことって難しいの?」
まだ何かを諦めきれていない様子のリナが話す。
「ああ、難しい。俺でも防ぎきれるかどうか分からない状態だ。」
「そう、だよね」
少しの沈黙が流れる。
「皆んな了解したな。このワープが終わったらすぐに行動するんだ。時間は迫ってる。」
一斉に全員から応答が返って来る。
それから1分足らずでワープが終わった。
それと同時にチャット回線も切れた。
正確には切った。
お互いの無事を願って。
「これを」
ワープが終わった後、まだ辺りにはプレイヤーも存在し、これから魔王の軍団が進行して来るなんて思えないほどの静けさがそこにはあった。
しかし、いつも流れているBGMも消え、雲行きも悪くなってきていた。
そんな状況でツカサはミサキに解毒剤を渡す。
道具の名前は
【解毒剤=パーフェクトマックス】
という名前で、解毒剤の中でも最高級の道具だ。
「こんないい代物…使っていいのかしら」
冗談じみた発言をしながらもミサキはアカウント共有をした後解毒剤を使用する。
完全に毒は治り、それとともに体力も少し回復した。
「よし、これで完璧だな」
翼が声を上げる。
「みんな、ありがとう」
自分のために時間を割いてくれた4人にミサキはお礼を言った。
「それよりも早くここから出ましょう!」
ツカサが威勢良く話す。
全員頷いて見せるとツカサ、ミズキ、翼は速攻でログアウトした。
リナがログアウトしようとした時ミサキがリナに声をかけた。
「本当はカイトと居たかったんでしょう?」
驚いたようにリナはミサキを見る。
「さっきの発言からしてもわかったよ。願わくば一緒に戦いたい、一緒に居たいって。」
「……でも、無理だから」
リナは吐き捨てるように言う。
「私は……私はミサキやカイトみたいに強く無い。ましてや弱いくらい。一緒に居たって邪魔になるだけなんだ」
グスリ、と泣いているような声が聞こえた。
ミサキはリナを心配していた。
「今はさ、リナ。ここを離れよ?はい、これが私の連絡先。」
そういうとリナとミサキの個人チャットに他のSNSアプリケーションのミサキのコードが表示された。
「これで後で一緒に話そう?話聞くよ」
「うん…ありがとう」
「じゃあ行こう」
そういうとお互い一緒にログアウトをした。
「はぁ」
私は1つ溜息をつく。
スマホの画面はクロミナのスタート画面。
この中で今カイトが戦っていると考えると無力だとしても一緒に戦いたいと思ってしまう自分がいた。
私はクロミナを閉じると他のチャットアプリに飛んだ。
そこで先ほどミサキから貰ったアドレスを入力する。
数分後。
ミサキから友達登録が承認された通知が届いた。
そのすぐ後にはチャットを飛ばしていた。
[お疲れ様]
すぐに既読は付き、返信が返ってきた。
[お互いにね。]
そのあとなんて話を進めたらいいかわからず、少し間が空いた。
その間をすぐ埋めたのはミサキからだった。
[色々と話したいこともあるけど、これ見てる?]
私は"これ"がわからなかった。
なんの話か、聞いてみると、どうやら動画投稿サイトでクロミナの現在の状況がリアルタイムで配信されているらしい。
すぐさま私は動画サイトを確認するとすぐ上の方に表示されていた。
動画タイトルは「合体魔王と聖騎士エグバートの戦い」だった。
リアルタイムの視聴者は今現在185.290.635人だった。
沢山のコメントで動画の下画面が溢れ返っていた。
[今見てみたけど、凄いね。これがカイトなんでしょ?]
[うん。凄い注目されてるね。]
コメントの中には
『下手じゃね?』
『これが最強?嘘でしょ?』
『もっと強い人いる』
『俺の方が上手いな』
と書かれていた。
それに反応した私はミサキにチャットを飛ばす。
[コメント打ってる人、酷い言い方する!]
私は共感を得られる物だと思っていた。
だが、実際はその逆だった。
[仕方ないね。]
[え?]
[確かにカイトはステータス面では誰にも負けない最強だけど、技術、戦法、慣れ、経験が不足し過ぎていて並大抵にやっているプレイヤーからしても劣っているな、って思っちゃう部分を見つけるのはそう難しい事じゃないね。]
そして続けた。
[第一にカイトは魔法やスキル、道具や道具耐性、効果を理解してない。」
[理解はしてるんじゃないかな?]
わからないこともつい楯突きたくなってしまった。
これほど色々言われたからこそ反論してしまった。
根拠なんてないのに。
[いや、理解してない。だって魔法は転送魔法以外使ったことないし、道具も持ってはいるけど使ってはいないでしょ?それにスキル。スキルはカイトは一番高レベルな技をドカーンって打って攻撃してるだけ。そのあとの反動とかは気にせずに。]
私は何も言い返せなかった。
確かにそうだった。
彼が最強と言われる所以はステータス面でしかなかったのかもしれない。
だが、散々言ったミサキだが、最後にフォローをした。
[でも、誰よりも強くなる伸びしろはあるよね。というか知らない無知なだけだもん。知ってしまえばその時はそれこそ誰からも認められる"最強"になれる。]
[ミサキはどういう立場にいてくれるの?]
補足する為にすぐ続きを打った。
[ミサキは私たちとは違う、上級プレイヤーなわけでしょ?知識量や経験は私たちのチームとは桁違い。ミサキも私たちと居たって面白くないでしょ?(笑)]
私は自虐を含めた言葉を使った。
でもそれは本当のことだ。
ミサキはレベルも高い。
ミサキがグループに居たら私たちのレベルの戦いならそれは戦いも負ける事はないし、レベルも経験値も私たちは、上がっていく。
でも既に上がるところまで上がっているミサキが私たちと一緒にいる必要もないんじゃないだろうか。
ただ気を使うだけならそんな関係はいらない。
少し間が空いた後返信が来た。
[リナたちと居るのは凄い楽しくてレベルとか関係なく自分の楽しみになると思ってるよ。でも、そうね。自分やカイトのレベルを考えちゃうと一緒にクエストには行けないかもね。そっちから願い下げだったら偉そうな口きいてごめんね。]
[そんなことはないよ!]
[だから、そうね。私はカイトと一緒に戦う為に上級プレイヤーと一緒のフィールドを用意するかな。]
わかってた。
ミサキが上級プレイヤーだ、ってわかった時に、いつか私たちを、言い方は語弊があるかもしれないけど見捨てて、強いプレイヤーがいる土俵へと上がってしまうのではないかと。
でもーー……。
[カイトは私たちと一緒に戦ってくれるって話してた。これからも、ずっと……]
[でもリナもこのコメントを見たくないでしょ?]
はっ、と気づき私はリアルタイムで流れるコメントを見る。
そこにはまたカイトを罵るようなコメントで溢れていた。
[見たくない、見たくない……けど]
[じゃあ我慢しなきゃ。きつい言い方するかもしれないけど、リナたちのグループではカイトは強くなれない。]
[そうだね……]
わかってた。
だから怖かった。
最強だからそれ故に大いなる責任が伴う。
最強という言葉には、周りの人たちも巻き込む。
最強プレイヤーと一緒に行動、戦闘しているのは"最強プレイヤーのグループメンバー"という周囲の人が勝手につける肩書が縛る。
私たちもそれに耐えられるのか、いや、耐えられない。
今回の事でカイトのアカウント共有両方のアカウントは公になった。
今後一緒に行動するのは難しいかもしれない。
私は話の終わりを感じると
[少し休むね]
とミサキにチャットをした。
そのあとすぐに了解の連絡が届いた。
本当は疲れてなんか居ないのに。
本当は休む必要なんてないのに。
私はスマホの電源をオフにすると涙を流していたことに気がついた。
「誰よりも……君のことを見てるのに……」
ポロポロと頬を伝って落ちていく水は強引に腕でかき消そうとした。
こんなにも自分が強かったらと思った日はない。
こんなにも同じ土俵に立てないことを悲しむ日はない。
いや、これからも考え、悩み続けるのだろう。
私は、どうしたらいいのかな。
カイトの居ないクロミナなんて、まっぴらごめんだよ。
頭の中にカイトとの会話の場面が浮かぶ。
そのまま私は眠りについてしまった。
起きたのは夜。
カイトから届いたチャットの通知でだった。
誤字等ありましたらお知らせください。
気ままにゆっくり投稿していきますので気長に待ってくださると嬉しいです。




