第5話 クロミナが全て
帰宅後。
2時間ほどクロミナをプレイしていた。
なるほど、クロミナをやっていない人がなぜ軽蔑されるのかが分かった。
クロミナはれっきとしたSNSアプリだったのだ。
俺がいない間にこんなことになっていたとは…
しかし、5年間携帯もさわれなかった俺からすれば当然のことか。
なんとかレベルを6に上げたが、まだ初心者だと思われるだろうな。
ガチャを一回引いたが強そうで弱い剣が出ただけだった。
弱いといってもこのゲーム特有の"放置"をしないと成長しない武器だった。
俺は友達が欲しいんだ。
クロミナで強くならなくてもいい。
だが、現実はそう甘くはなくてクロミナができないと友達ができないらしい。
全くふざけた世の中になったもんだな。
そうこうしているうちに約束の時間の6時になった。
すぐに作られたグループに入った。
するとその途端にVC.(ボイスチャット)が始まった。
「こんばんはー」
「やっほー」
中には楓の声もあった。
流石に声を出す勇気はなかった。
会話の中で今日行くクエストが決まったらしい。
会話の中では
「魔王軍行っちゃう?」
とか、
「大丈夫しょ、俺ら強いし!」
とか聞こえてきた。
あれ、コイツら俺の存在に気づいていないのか?
声を出すことに抵抗ある俺はチャットで会話することにした。
[そんな強いところで大丈夫なの?]
俺のチャットを見たのか、笑い声が聞こえてきた。
「はははは!大丈夫だよ!まぁカイト君は弱いからね!はは!」
「それな〜」
ん?
なんだこの感じ。
薄々とは感じてはいたが、やはりクロミナの中での力が学校生活での力とイコールの関係にあるのか。
確信突いた。
しかしだからと言って変わることは何もない。
罵倒されたって仕方がない。
俺含め総勢20人ほどのグループは魔王軍討伐のクエストに来ていた。
調べて判っていたが、魔王軍というのは強すぎて、約1年前に実装されたが未だに誰も勝ったことがないらしい。
このグループでは
「いやー今回俺ら魔王軍倒しちゃうんじゃね?」
とか言ってる男がいたが、サイトにも載っていたが魔王軍を倒すにはそれ相応のレベルと武器が必要らしい。
こいつらに備わっているとは思えない。
俺は改めてチャットを送った。
[本当に大丈夫なの?]
それを見たグループの男女は再び笑っていた。
「大丈夫大丈夫!」
「弱いからわかんないかもだけど俺ら強いからさー」
「雑魚は黙ってろって話!」
「それな〜」
おお、凄い罵倒された。
まぁ仕方ないが。
でも本当に大丈夫なんだろうか。
確か魔王軍に負けた場合最大1カ月プレイできないというペナルティが課されるって攻略サイトに載ってたはずなんだけどな。
これでこのグループが壊滅したらどうするとこやら。
まぁやることはやろう。
どうせこのゴミアカウントはまた作り直せる。
怖いのは他の奴らのはずなんだが…。
大丈夫なのか。
そうしているうちに魔王軍の幹部が現れた。
頭に角を生やした悪魔のような体をしている。
悪魔の名前は"魔王軍最高幹部ザルトネス"とあったか。
邪悪なオーラを放っている。
マジで強そうだぞ?
グループ全員が戦闘態勢に入った。
先頭には楓の姿があった。
なるほど、あの装備は強そうだ。
楓の装備は青く輝いていた。
聖騎士みたいだな、いや、青騎士か。
などと意味のわからないことを考えていると戦闘が始まった。
俺以外全員が一斉に攻めた。
しかし、すぐに先陣切って出た楓が戦闘不能になってから流れが変わった。
皆んな混乱状態に陥ったのだ。
俺はすかさず楓の蘇生に入った。
その間にも他のメンバーも倒れていく。
楓の蘇生が終わった。
「助かったよ、カイト君!」
素直に嬉しかった。
しかし、周りを見ると全員倒れていた。
楓と俺は絶望感に浸った。
しかし楓は突っ込んだ。
俺は一番近くにいたメンバーの蘇生に入った。
名前をSANAとか書いてあったか。
しかし、サナを蘇生した後、俺は魔王軍幹部によって倒された。
その後、俺という雑魚を助けるメンバーは誰もおらず、100秒あった復活タイムリミットが0になった。
画面が真っ暗になり、タイトルに戻された。
再びスタート画面を押して自分のアカウントにログインすると目の前には砂時計があった。
そこには2592000秒のカウントが。
計算した結果30日、約1カ月プレイすることが制限された。
これがペナルティか。
俺は仕方なく別にアカウントを作り、再ログインをした。
名前は「カイト2027」にした。
俺はアイツらみたいに強くない。
そしてアイツらとやったって弱いから雑魚扱いを受けるだけ。
だったら自分で始めて新しくネット上で知り合った人とプレイしたい。
決して現実世界で友達を作ることを諦めたわけではない。
まずはクロミナを知らなければならない。
それが生きていく上での絶対条件だと知ったから。