第20話 壊滅
私の名は聖騎士バルジオン。
四年前にこのクロミナの世界に入り、レベルを着実に上げ、現時点でレベルは3000を超えるプレイヤーだ。
ガチ勢というわけではない。
ただ、このゲームが好きなのだ。
新しく出会った仲間と共にクエストに出かけ、敵を倒す。
その行動に楽しさを覚え、クロミナをやる度に自然と気持ちが上がる感覚を覚えていた。
しかし、そんな私の耳に入り込んできたのは2つの大きな情報、クロミナ最強プレイヤーである聖騎士エグバートの出現と、チーター"metalia"の出現だ。
前者は色々な憶測や推測が蔓延っていた。
そしてそれはいつしか確信を持つようになり、"放置民"だったことが判明した。
"放置民"だとわかったのなら心配はいらない。
自分の単純な能力、技術で最高レベルまで上り詰めたというのならば賞賛の意を表しざるを得ない。
だが、"放置民"、レベルだけのプレイヤーは単純な能力だけで、技術はもちろんクロミナの世界についても知らないまであった。
現に、以前姿を現した聖騎士デュラムはクロミナについては何も知らなかった。
だから魔王の手下にも負けたのだ。
後者は耳に入った時は驚いた。
そんなプレイヤーが存在することに対してと、運営の対応の悪さに。
そのチーターによって私の知人のプレイヤーのデータは消えた。
危うく、自分のアカウントすらも危険にさらされるところであった。
一番の悪はそのチーターであることは間違いないのだが、それに対する運営の対応も悪かったことには否定できない。
そして、今回。
長期メンテナンスの後に私及び多数の上級プレイヤーは"放置民"でクロミナ最強プレイヤーの[カイト]をモニタリングしていた。
そこで我々が感じたのは[カイト]というプレイヤーはやはりレベルだけのプレイヤーであることと、"metalia"のバージョンが1つ前のものであることだ。
彼らはそれに後々気づいたらしいのだが、我々には姿を見た瞬間に分かった。
それくらい、我々には情報と、技術がある。
それは時に運営すらも欺く。
その後、我々に運営から命令が下った。
その内容は、大雑把に言うと
「魔王の侵攻を阻止し、殲滅せよ。」
とのことだった。
だが、その命令には続きがあった。
それは私にしか届いていないのかも知れないが、そんなことは知る由もない。
その内容はこういったものだった。
「もし、殲滅が不可能と見なされた場合。我々運営は中心都市「ラミナ」とバトルフィールドの完全隔離を行う。それには君、もしくは味方の誰かが、対象に攻撃し、門外へと追い出さなければならない。しかし、君に頼みたいのは魔王の討伐ではなく、"metalia"の追放だ。君にしかできないことだ。武運を祈る。」
最後の「君にしかできないこと」は私しかバージョンが旧バージョンではないからであろう。
そして、"metalia"に攻撃し、門外へ追放する……。
かなりの重役を任された。
私が聖騎士バルジオンとして東の門を護衛するところから話は展開する。
東の門に到着した私は周りのプレイヤーの数に驚いていた。
そこにはレベルが1000を超えたプレイヤーが50人ほど集まっていた。
周りのプレイヤーから会釈や、クロミナ界の挨拶をされる。
そんな中、南の門の方から歩いてきたプレイヤーを発見する。
「バルジオン!」
私に気づき、私の名前を呼ぶと小走りで近づいてきた。
「セルギラじゃないか!」
私と聖騎士セルギラは古くからの旧友だ。
私が始めてすぐに知り合ったプレイヤーで、初心者同士だった私達はすぐに打ち解けた。
今では聖騎士タッグを組んでクエストに赴くほど気があう親友だ。
「何故南の門の方から来たんだ?」
私がセルギラに聞く。
「南の門には最強プレイヤーって言われてる聖騎士エグバートがいるんだよ。だから少し挨拶をしてきたのさ」
セルギラがあまりにもニヤついているものだからまたいつもの感じであることはすぐに想像できた。
「また自分よりも下のプレイヤーに意地の悪いことをしてきたのか?」
私が聞くと彼は意外とすんなり返してきた。
「いや、違うぞバルジオン。あいつは俺よりも上だ。上の奴に挨拶してきたんだ、なんの問題もないだろう?」
私はセルギラがその人のことを[あいつ]呼びしている時点で自分の考えていることはあながち間違っていることではないことを確認した。
「まぁ、いい。それよりもだ。南の門には彼に加えて誰かいたのか?」
「いや?いないぞ。あいつ1人で大丈夫だろう?」
「1人で門を?それはまずいだろう」
「大丈夫だろ!最強プレイヤーなんだから!」
「いや、しかしだな…」
私はこれ以上言ったところで結局自分が動からないと何も変わらないことに気づき、南の門についてはあまり考えないようにした。
すると、その時。
後方から門が破られる音がした。
東門の反対は西門だ。
西門が破られたようだ。
さらに、その事実に追い打ちをかけるかのように 西門の方角から3人のプレイヤーがやって来た。
「何をしている?」
私はつい声に出してしまった。
私はその西門から来たプレイヤーに聞いた。
「何をしている?!西の門はどうしたのだ!」
するとそのプレイヤーは笑いながら答えた。
「1人のプレイヤーに任せてきたんすよ。そのプレイヤー強いんで大丈夫だと思うっす。それに俺ら負けたくないし」
笑っている3人のプレイヤーはレベルが1500程度の上級プレイヤーだ。
「………」
3人に対して憤りを覚えている横で、セルギラは自分の先程の発言をこの3人のプレイヤーの発言とを比較し、あまり変わらないことを確認すると先程自分が言った発言が恥に感じていた。
私はすぐさま西門の方へ向かい、近くにあった建造物の上に乗り、現状の把握に努めた。
しかし、その直後には最強プレイヤーがいるとセルギラが言っていた南門が破られた。
これはまずいことになった。
破られ、侵攻してくる魔王の群れ。
やる気と団結力がない上級プレイヤー。
もはや剣を握ろうとすらしていない。
彼らは今回の事件を1つの強制イベントとしてしか捉えていなかった。
誰でもわかる、壊滅的危機だ。
私が南門の方を向いて途方にくれていると大通りを南門のほうへ駆け抜ける1人のプレイヤーの姿が目に入った。
最強プレイヤーのカイトだ。
魔王の群れめがけて一目散に走っていく。
そこには諦めの様子は見て取れなかった。
私も続いて南門へ向かった。
すると、最強プレイヤーカイトの前には先程見た"metalia"と思わしき影が、姿を見せていた。
"metalia"だ……。
私は唯一奴に攻撃を喰らわせることができる。
そして門の上に立つ"metalia"と、壊滅に近づくクロミナ。
私がやるしかない。
いや、私と、最強プレイヤー、カイトがやるしかない。
私は剣を構えた最強プレイヤーを横目で見ながらそう思った。
最強プレイヤーが攻撃を始めた瞬間に私は門に登り始めた。
"metalia"にバレたら終わり。
そう思うだけで責任を凄く感じる。
私は配慮を、と思い、隠密行動モードアビリティである"消音歩行"と、"気配消去"のアビリティを使用した。
旧バージョンのアビリティも効果を成すことを願って。
私は時を待った。
最強プレイヤーカイトが全魔王の合体系を門外に追放した瞬間に私は行動を開始する。
しかし、かなり苦戦しているようだ。
それはそうだ。
周りにプレイヤーがいるにも関わらず、誰も助ける素振りは無く、彼らはただの傍観者になっていた。
最強プレイヤーカイトが飛ばされた。
そして、剣のレベルが下がっていく。
なんとか立とうとしているが立てない。
その時、1人のプレイヤーが魔王を吹き飛ばした。
あれは、上級プレイヤーの"リン"だ。
何故彼女がここに?
しかし、助けることに気を取られ、周りが見えてなかった。
攻撃されると、倒れ込んでしまった。
すると次の瞬間。
剣を取り戻した最強プレイヤーカイトが剣を構えた。
そこには神々しい光が生じ、魔王の姿を完全に捕らているように見えた。
いける!
私も構えた。
"metalia"めがけて。
ドッ!!
魔王は見事、門外に飛び出した。
その瞬間!
私は"metalia"を捕らえた。
「今だ!!」
私は叫んだ。
"metalia"が門外に落ちた瞬間、私の声を聞いたのか、それ以前に見ていたのかわからないが、運営が中心都市とバトルフィールドとの完全隔離を実施した。
一時訪れる静寂。
運営と私にしか今何が起きたのかはわからない。
ただ、中心都市とバトルフィールドとが隔離された結界らしきものを見て多くのプレイヤーは理解しただろう。
この日、4月17日。
長期メンテナンス終了の日に。
「放置対戦☆クロスラミナ」は
壊滅した。
第3章ー壊滅編ー完
誤字等ありましたら報告下さい。




