第19話 敗者
東西南北全ての門へ通じる道、中心街の「クロス」の街道。
その道には多くの魔王がいた。
プレイヤーの驚いた声や、叫び声が大きくなってきた。
俺は剣を野球バットのように構え、魔王の腹を真っ二つにした。
魔王を倒したことで更に力を上げた魔滅剣シャイリアルは神々しく光った。
周りのプレイヤーはその光を見て集まってきた。
「聖騎士様だ…!」
「助かったぞ…」
みんな俺の周りでログアウトを済ます。
ログアウトのためには少しの間時間がかかる。
その間に魔王にやられることを危険視し、ログアウトできなかった人も多くいただろう。
だが、かなりのプレイヤーが減った。
それは気絶したプレイヤーも少なからずいるとは思うが、殆どは無事だ。
俺は西門の方向へ向かった。
やはり遠くから見た通り扉は完全に破壊され、魔王が入ってきていた。
俺は酷く驚いた。
なんと、護衛のプレイヤーがいないのだ。
これはどういうことだ…?
すると後ろから女の子の声が聞こえた。
「やめて!来ないで!」
俺は剣に力を溜め、技を放った。
飛ぶ斬撃…[シャイリアル=スラッシュ]
魔王は俺の斬撃で遠くまで飛び、家屋に激突した。
「大丈夫か?」
ショートヘアーの女の子のスキンで背は小柄。
腰には2本の剣を収める鞘が刺さっていた。
俺がそのプレイヤーを見るとそのプレイヤーはスクリと立ち上がり、俺の腕にくっついて来た。
「怖かった…」
俺は少し恥ずかしかったが、そのプレイヤーの頭を撫でてやった。
「君…名前は?」
「え…えっと…リンです。」
リン…か。
この場にいたってことは同じ運営から呼び出された人間だ。
名前は覚えておいた方がいいだろう。
「何があったんだ?他のプレイヤーは?」
俺が聞くと頭を抱えて座り込んだ。
「ほ、他のプレイヤーの方たちは…みんな…他の門の護衛に行ってしまいました」
「なんだって?!」
この子1人にして他のプレイヤーはみんな別の門へ護衛に向かったと言うのか。
なんて酷い話だろうか。
「いつからだ?」
「扉を突破される前です…ここは安全だから君1人でも大丈夫だよ…って言われて…」
「突破される前?!じゃあ…突破されてからの対処は全部君が…?!」
「は、はい…」
俺は周りを見て驚いた。
そして先程の街道を思い出して更に驚いた。
殆ど魔王は倒されているのだ。
周りに転がる魔王の死骸。
全てリン1人でやったのだ。
レベルは4695。
俺に結構近いレベルの持ち主だ。
「その…なんで助けに来てくれたんですか…?その…突破された時も誰も助けに来てくれなかったのに…」
「俺の護衛していた門を代わりにやってくれるって人が居てさ。その人のお陰で今助けに来れたのさ…でも不要だったかな?」
「そ、そんなことないです!助かりました…私…トラウマだし…」
「ん?なんか言った?」
「い、いえ!何も言ってません!」
俺が周りを見渡すと、リンも周りを見渡した。
そしてそのプレイヤーが話しかけてきた。
「さっき他のプレイヤーに代わりに護衛を頼んだって言ってましたけど…その…誰だかわかりますか?」
「聖騎士バルジオンって人だ。」
「え?」
そのプレイヤーは頭を抱えた。
「何かあったのか?」
「いえ…その…バルジオンさんは東の護衛を任されていたはずだったな…と」
え?
東と言えば魔物が侵攻してきた門じゃないか!
そんな状況下で俺に代わって南の門を守るなんて言うか?!
まさか!!
俺は南の門の方を見た。
ここからではよく見えない。
俺は急いで街道へと向かった。
そして南方向を見た。
扉が…突破されている。
まずい…まずい…まずい!!
俺は全力で走り、南門へ向かった。
途中途中の魔王をなぎ倒しながら。
なんとか南門へ着くと上から声がした。
門の上だ。
「よく来たね…カイトくん」
そこには先程代役を頼んだ聖騎士バルジオンが立っていた。
「何してるんですか!?早く守ってください!!」
「それはできないよ」
何を言っているんだ?!
「だって、僕は聖騎士バルジオンじゃないからね。」
「何を言って…」
「僕は……"metalia"だ」
ばさっと偽物の仮面を剥ぐとそこには先程氷雪地帯で見た"影"が立っていた。
「メタリア……!」
「まぁそう怒るな。お前もすぐに消してやるからさ」
そういうとメタリアは指を鳴らした。
その瞬間、門を突破した魔王の集団が1とつに融合し始めたのだ。
その結果、巨大な魔王が俺の目の前に誕生した。
「今この世界にいる全ての魔王の合体系だよ…つまり、こいつを倒せばクロミナは助かるねー」
嘘をつけ…。
お前が門の上、中心都市に入っている時点で助かってないんだよ。
ドゴッ!
合体した魔王(これから合体魔王と記す)が俺めがけて剣を振るった。
その剣先は俺の足元に落ちた。
危ねぇ…。
もう一度合体魔王は後ろに剣を構え、全力で振った。
下にしゃがんで避けると、後ろの家屋が風圧と斬撃で吹き飛んだ。
その反動で一定時間止まった合体魔王に俺も全力で剣を振る。
しかし、思ったよりも復帰が早く、剣同士がぶつかった。
キィン…!という金属音が響く。
一歩後ろに下がるとそれに気づいた合体魔王は剣を突き刺して刺突してきた。
俺は魔滅剣シャイリアルで受けたが、力で負け、吹き飛ばされた。
ドッ!
止まったのは中心街「クロス」の噴水前だった。
「なんて力だよ…」
俺は魔滅剣を空に掲げ、力を溜めた。
そして地面を強く蹴り、合体魔王めがけて自分の全体重をかけた剣を合体魔王の剣に当てる。
先程の衝突とはまるで違う音が響いた。
そして衝撃波のようなものが生じた。
お互い一歩後ろに下がると俺は上に高く飛び上がり、合体魔王めがけて飛びかかった。
そして上に高く剣を構え、上からの斬撃を食らわせる。
直撃…しなかった。
合体魔王は一歩更に後ろに下がると俺の攻撃を見切ったようにかわし、反動で動けない俺の体を横から斬った。
またもや後ろに大きく飛ばされる。
俺のHPは405000/702000だ。
なんと、半分近くの体力を削ってきた。
大ダメージなんだが。
俺が立ち上がろうとしていると合体魔王に立ち向かうプレイヤーが現れた。
あの人たちも運営から呼び出されたプレイヤーだろう。
レベルは皆高い。
だが…。
殆どのプレイヤーの攻撃はかわされ、反撃を喰らっている。
このままだと全員倒れるぞ…。
それだけは避けたい。
確かメタリアは他の門の魔王もこの合体魔王になっていると言っていたな。
それが嘘か本当かはわからないが、俺の応援が来たということはそういうことなのかもしれない。
「うわぁぁ!」
1人のプレイヤーが目の前で気絶した。
他の人はそれに気づいていたが、自分の身を守ることで精一杯だった。
気絶したプレイヤーは倒れたまま動かない。
そのプレイヤーをよく見てみると頭の上に表示されているレベルがおかしい。
どんどんレベルが下がっていくのだ。
「おい…折角何時間も…何日も放置したのによぉ!なんでレベルが減ってくんだよ!!」
そのプレイヤーは嘆いていた。
これが、新しいペナルティか?
以前はアカウントが30日間使用できなくなるというペナルティが、メタリア及び魔王、悪魔にHPを0にされると課せられたが、今回はレベルが減少していくシステムらしい。
これは…一番タチが悪い…!
「や、やめてくれぇ…!」
そのプレイヤーのレベルは100を切り、遂に1になった。
そのまま復活できる時間が過ぎたのか、強制ログアウトされた。
てめぇ…!
俺は魔滅剣を構え、合体魔王に突撃した。
激しい攻防戦が続く。
周りには強プレイヤーの目があるのを感じた。
助けないんだな…そうなんだな!
俺は剣を今の興奮状態に乗せて横に大振りした。
しかし、なんなくかわされ、上から下に振り下ろす剣で俺の剣に接触させ、剣を地面に落とした。
俺がすぐに拾おうとしたが、丸腰になった俺を見放さない訳がない。
強めの一発を入れられ、遠くへ飛ばされた。
俺はそのまま倒れ込んだ。
2000/702000
「は…?」
俺には絶望感が襲いかかってきていた。
俺の体力は2000。
あと一撃で、死ぬ。
あと一撃で、HPが0になる。
あと一撃で、レベルが…
1になる。
俺を助ける人なんていない。
むしろ上に邪魔な奴がいなくなって清々するだろう。
そうだ。
そもそも俺はレベルは高いが、経験値は低かったのだ。
丸腰…。
剣だってそうだ。
この世界最強の剣を片手に、なんだってできると勘違いしていた。
どうだ?
剣をなくした今の気持ちは?
俺は自分に問いかけた。
何もできない。
何も、生み出さない。
何も…守れない。
俺は遠くで光を失っている魔滅剣を見た。
合体魔王が近づいている。
待て…何をする気だ…?
合体魔王が魔滅剣シャイリアルを踏んだ。
その瞬間から魔滅剣シャイリアルのレベルが下がり始めた。
やめろ…やめろ!やめろ!!やめろ!!!
俺は立ち上がった。
だが、足がすくんで動けない。
奪い…返さなきゃ!
でも、動かない。
こんなにも…俺は弱かったのか。
すると魔滅剣の方から声がした。
「やぁぁぁ!」
ドッ!
剣士が合体魔王を吹き飛ばした。
両腰に鞘を付けた…先程の女の子スキンのプレイヤー…リンだ。
「お兄ちゃん!」
俺のことか?
俺めがけて魔滅剣を投げる。
カランカラン…と俺の前で落ちる。
そのプレイヤーは俺の方をみてニコリと笑った。
あの子…俺のために…。
俺は剣を拾った。
瞬く間に剣は光を取り戻し、力を取り戻した。
それは剣だけでなく、俺にすら力をもたらしている気がした。
「ありがとう!」
俺が声をかけたせいか、そのプレイヤーは後ろが見えていなかった。
「危な……!!」
俺の声も聞こえず、そのプレイヤーは地面に転がった。
HP表示が減っていく。
元々…あと少しの体力だった。
折角…俺を、助けてくれたのに…。
「てめぇぇぇぇ!!」
俺の怒りに反応したかのように、魔滅剣は光を増す。
残りの体力なんて、気にせず、目の前の助けるべき人を助ける勇気が…俺には無かった!
もう…いいや。
俺は魔滅剣に全魔力を捧げた。
その時、新たな光を生み出した。
中心都市全てに行き渡る光が眩しいほどに俺の片手で輝いていた。
合体魔王めがけて走り、全ての力を放出した。
[固有スキル=奥義シャイリアル・スラッシュ]
ドッ!
手応えはあった。
……だが、相手にも手応えがあったことだろう。
俺の腹には一閃の切筋が通っていた。
2000→1000→500→10→1→0
カランカラン…。
俺の剣が落ちる。
俺も…落ちる。
だが、落ちたのは俺だけでは無かった。
何者かが落ちる音がした。
「今だ!!!」
何者かの声が高らかに聞こえると警告音が一瞬鳴ったと思うと、俺の目の前で境界線が引かれた。
よく見ると、ここは南門の狭間。
俺はちょうど合体魔王をバトルフィールドへ押し込んだようだ。
しかし、さっき誰かが落ちたような音はなんだったんだ?
わからない…。
だが、唯一言えることは、俺は負けたってことだ。
まだまだですね。




