第18話 護衛
中心都市「ラミナ」に転送されるとそこはまだ氷雪地帯、更にはバトルフィールドから敵が侵攻してきていることを何も知らないかのようにプレイヤーが楽しそうに遊んだり、会話したりしていた。
やはりな…。
会話が聞こえる。
またこれもアップデートによる改善点としてあげられるな…。
それともこれからバトルフィールド以外のこの場所でも常時チャットを展開するのだろうか。
それはまだわからない。
今は周りの俺に向けられた歓声は聞こえないフリをして中心都市とバトルフィールドの境界線に向かった。
グループメンバーとはワープ中に話がついた。
俺は運営に言われた通りクロミナを守ると。
他のみんなとは美咲の毒を治しに言った後ログアウトすることを約束した。
今メンバーを危険に晒すわけにはいかない。
本来ならば美咲も戦えた、というか運営から言われていたため、戦うはずだったらしいのだが、武器が無い以上戦うことはできない。
泣きながら別れていった。
境界線である門へ向かって歩いていると
まだ敵モンスターも何も存在していなかった。
だが、これからここに侵攻してくることは確かだ。
いち早くプレイヤーにログアウトをしてもらったほうがいいんじゃないか?
その呼びかけはするべきだ。
そう考えていると、まるで俺の心を読んだかのように運営からの全プレイヤーへのチャットが届く。
[中心都市「ラミナ」、バトルフィールドにログイン中のクロミナプレイヤーの皆様、突然のことではありますが、新しい要素の改善のため、一時的なメンテナンスを行います。長期メンテナンス後のことで大変申し訳ないのですが、よりよいクロミナライフのためにもご協力下さい。]
それがいいだろう。
一時的なメンテナンスと言えば強制的にプレイヤーをクロミナから除外しても何も言われることはない。
また、このチャットを見てプレイをやめる人も少なからずいるだろう。
境界線に着いた。
大きな壁がこの中心都市を囲っており、俺の前には氷雪地帯へ行く大きな門が建っていた。
この東西南北全ての門を守っていればクロミナは助かるんだな。
すると俺の後ろから歓声とは別の声が聞こえた。
「お前が…クロミナ界最強の騎士か」
俺が振り向くとそこには俺と同じように鉄の鎧に身を固めた聖騎士が立っていた。
声からして男のプレイヤーか。
レベルは2580。
武器や、腕輪の装飾品などから見てかなりの上級者プレイヤーだということがわかった。
「俺の名は"聖騎士セルギラ"。運営から呼び出された人間だ。」
「はじめまして。俺の名は…」
「知ってる。"聖騎士エグバート"だろ。知らない奴はいない。」
なんと、強プレイヤーたちにも認知はされているようだ。
でも寄ってこない、ってことは、やっぱりそういうことなんだよな。
「俺たちは東の門を守っている。他のプレイヤーも西、北を護っている。」
「ここは…南の門は他のプレイヤーは来てくれないんですか?」
「お前だけで充分だろ。」
「いや…ですが攻撃不可プログラムの存在も確認されていて…1人では抑えきれない可能性が……」
「ああ、メタリアの話か」
「知っているんですか?!」
「当然だ。理由も聞かされず運営に呼び出されるはずがないだろう。」
「ならわかるはずです。奴がどれほど危険な存在なのか……」
「お前なら大丈夫だろ?なんせクロミナ界最強の騎士なんだからな」
「な……」
俺は何も言い返すことができなかった。
上級プレイヤーはメタリアがどれほど危険な存在なのかを知っている。
それを全て俺に投げるようだ。
なるほど、俺は知らずのうちに随分と上級プレイヤーに嫌われたようだ。
「わかりました。ですが、緊急事態の時は共闘してくれるんですよね?」
俺が問いかけると静かに答えた。
「さぁな」
そういうと聖騎士セルギラは東の門へ去っていった。
仲間割れしている場合じゃないのに。
いや…そもそも仲間じゃないか。
聖騎士セルギラと別れてから数分後。
俺は奴の対策を考えていた。
奴にはアップデート前の武器しか効かない。
だが、仮に他のプレイヤーに武器を借りたとしてもそれは使えないだろう。
何故なら今の俺のバージョンとその武器のバージョンが違うからだ。
対応していないからだ。
だから俺は誰か別のアップデートしていないプレイヤーを呼んで来たかった。
だが、そんなプレイヤーはそんなにいないものだった。
アップデートをしていなかった人で多かったのはクエストプレイヤーではない人達だ。
その人は武器なんて持っていない。
翼を連れてくる考えもあったが、武器がない以上戦うこともできない。
つまり、奴に対抗できるプレイヤーは殆ど現段階にはいないことになる。
それに加え、先程から何人ものプレイヤーに注意喚起をしているが、プレイヤーの数が減らない。
メンテナンスをする、と言ってもいつからとは言われていないため、まだクロミナにいる人が多くいてしまっているのだ。
まだ3000万近くのプレイヤーがいるだろう、と運営から言われた。
そんな数…全て守れるのだろうか。
俺は少し不安を感じてきた。
すると、次の瞬間。
遠くの建物が吹き飛んだ。
それだけではない。
次々と爆撃音と共に家屋や建造物が倒れていくのが見える。
しかし、急いで南の門の外に行っても誰もいない。
どこから攻撃されている…?
そういえば、中心都市で今だけ抜刀は許可されているらしい。
流石に許可されなければ戦えない。
どうやら攻撃されているのは東と西の門らしい。
だとしても、俺はここを離れるわけにはいかない。
ここには俺1人しかいない。
俺がいなければこの門はモンスターが通り放題だ。
それは避けなければならない。
俺の門が突破されたとしたら俺はなんて言われるだろうか。
またぐちぐち言われるのだろう。
だが、少しくらいは共闘してくれてもいいのではと思うのだが。
俺は息を吐くと戦闘態勢に入った。
門の外は静かだった。
それはそうだ。
プレイヤーは誰一人としていないわけだからな。
俺は壁の上に行くことにした。
ここは高台のように中心都市を見渡す事ができる。
監視にはうってつけだ。
中心都市の景色を見て俺は驚いた。
北の門は遠くて何も見えなかったが、西と東はよく見えた。
西の門が突破されていた。
モンスター…いや魔王が門の扉を破壊して入ってきているのが見える。
何をしているんだ?!
あそこには沢山の強プレイヤーがいるんだろう?!
……だが、俺は動けない。
誰か俺の代わりにここを守ってくれない限り。
その時。
後ろから誰かの声がした。
「探したよ。聖騎士エグバート。まさかこんな高いところにいるとはね。」
その男は体力メーターが減っており、戦っていたことが伺えた。
「あなたは…?」
「私は"聖騎士バルジオン"。レベルは3217だ。早速だが、君は西の門の護衛についてくれないか?」
「西の門?」
「ああ。いま西の門が壊滅的状況なのは知っているだろう?だから君が行って助けてやってくれ。」
「そうしたいのは山々なのですが…ここを守る人が誰もいなくなってしまうので…」
「それは心配ない。私がやろう。」
「本当ですか?!」
それなら問題はない…が、大丈夫だろうか。
かなりの体力を消費している。
それに剣の耐久度も下がっている。
不安だが、代わりのプレイヤーがいるのなら俺は西の門へ行ける。
俺は聖騎士バルジオンに頼むと急いで西門へと向かった。




