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第16話 再来


マズすぎる…!


私たちは目の前の強大な敵に追われていた。

私たちのレベルでは到底倒せそうに無い。


というか、なんでアイツがここにいるのよ?!

私、美咲、翼の前には巨大な剣を構えた"魔王"が立っていた。


赤い目を睨ませ、頭に大きな角を生やし

固そうな皮膚に身を包んでいる。

そして、悪魔同様背中には翼を生やしていた。


体力は美咲が回復してくれているからなんとか大丈夫だけど、一発でも攻撃を喰らったら終わり…無理ゲーだ…。


魔王に攻撃してもどうせ効かない。

いや、そうとも限らないかもしれない。

あの魔王は一度カイトによって倒されたはずの存在。

あの時倒されたのが本当の魔王で、今回のはその複製だとしたら劣化版という可能性もなくは無い。

だけど、逆も然り。

だから強く無い私たちは逃げるしか無いのよ。

それはあの中二ですらわかってるはず。


今回のクエストを選んだのもカイト及び他の強プレイヤーの影響があると思う。

他の強い人と自分を照らし合わせて自分はまだ強いレベルのクエストに行くレベルに達していないと判断することができたのだろう。


中二も思春期だし、そういう心の変化は大事よね。


私たちは走っていた方向に洞窟を見つけ、中に入って身を潜めた。

ズゥン、ズゥンと足音が聞こえる。


「どうする?美咲、翼」

私が問いかける。


「なんとか逃げてカイトたちと合流するしかねぇんじゃね?」

「そうだね…でも、ここから出られるかな?」


美咲の言葉を聞き、周りを見渡すとこの洞窟は洞窟と呼べるほど中がどこかに通じていたり、分岐点があるようなものではなく、言ってしまえばカマクラのような出入り口、つまり逃げ道が1つしかない逃げるにはあまり適していない場所だった。


外にはすでにすぐ近くまで魔王が来ている。

どうする…!?

カイト…ならどうしたかな?


すると美咲が何かに気づいたように顔を上げた。

スクリと立ち上がり出入り口の方へ近づいていった。


「ちょ、ちょっと美咲?!そんな近く行っちゃダメだって!」

「?!」


しかし、美咲が感じた異変は私たちにもわかってきた。

この洞窟もどきの壁が紫に変色してきていたのだ。

そして次の瞬間、外から紫のガスのような煙が入り口を通じて入ってきたのだ。


「あれは…毒ガスか?!」

「リナ!翼!出入り口から離れて!」


美咲の呼びかけに応じるが、肝心の美咲はどんどん入り出入り口に近づいていく。


「ちょっと、美咲!」

私の言葉にも応じない。


すると、美咲は魔法を唱えた。


「風魔法=リバース・ウインド!」


ぶわっ、っとこの洞窟から風が巻き起こり、出入り口の方へ吹いていった。


そうか、これで毒ガスを跳ね返したのか。


「今のうちに外へ!」


魔法を放っている美咲を通り越して、私と翼は外に出る。

外には魔王はいなかった。

でもこの毒ガスはどこから噴射されたのか。

あとから美咲も合流した。

今回は美咲に助かったわね。


それにしても慣れていたような感じがしたけど…もしかして経験豊富なのかしら…まさかね!


「ありがとう、美咲!」

「助かった」

「うん。よかった、みんな無事で。」


これで難は去った、そう思っていたのだけれど。


「なんか美咲のHP表示おかしくね?」

翼の発言で私は美咲を見る。


「まさか、美咲!毒にやられたの?!」


美咲は少しばつが悪そうな顔を見せると


「あはは、いつもなら自分も大丈夫なんだけどね…」

と言った。


"いつもなら"?


美咲は周りを見渡していた。

やはり何か慣れている様子が伺える。

何か…場慣れしてるような…。

私は美咲に聞いてみることにした。


「ねぇ、み…」

「見て!!」


私の言葉は遮られ、美咲の指差す方を見る。

そこには魔王が洞窟の上に立っている状況が写っていた。


美咲のHP表示もどんどん減っている。

このままではまずい。


するとそんな状況でも策があるかのように私たちの方を美咲は向いた。


「私は今からあいつと戦う。」

「無茶よ!」

「うん。この姿だとね。」

「え?それってどうゆうことだ?」

「どういうこと?」


私と翼からほぼ同じタイミングで発せられた言葉に対する答えはすぐに返って来た。


「アカウント共有するの。戒斗みたいに。」


なんだって?!


「そうすればこの毒まみれの体も一時的に保管され、回復することができるときに治すことができる。」


美咲のHP表示が赤くなってきた。

私たち、パーティメンバーにも警告音が鳴っている。


「行くね。リナと翼の安全はあまり保証できないから、自分の身は自分で極力守ってね!」

「あ…!」


美咲は魔王に向かって走り出した。

私と翼は顔を見合わせていた。


「アカウント共有!」


カイトの時と同じように、美咲の体が光に包まれ、別アカウントに体が変更された。


あの姿は、女剣士だ。


もしかして、美咲は私たちのレベルに合わせるためにわざと別アカウントを作ったの?


美咲のレベルは1258。

上級者だ。


魔王が洞窟の上から降りてきて、美咲と対面した。

先に仕掛けてきたのは魔王の方だった。

地面を力強く蹴り、黒い羽を使って低空飛行のまま剣で斬りかかった。

美咲は剣を両手で持ち、左下に剣を構えた。

右足で地面を捉えると、そのまま左下から振り上げた。


キィン!


剣と剣が接触した金属音が鳴り響く。

数秒後、美咲は後ろに飛ばされた。

いや、自発的に飛んだのかもしれない。

私たちにはわからない話だ。


そこから何かを学んだのか、美咲は左下に構えた剣を腰を落とした状態で深く構えた。

すると美咲の周りに赤い線のようなものか回り始め、剣に力を溜めているという表現が適切なのだろうか、剣が赤く輝き始めた。


再び低空飛行からの上から振り下ろす魔王の攻撃が飛んできた。

その瞬間、美咲はジャストなタイミングで剣を振り上げた。


ガキィン!!


先程よりも音が明らかに大きい。

そして剣同士が接触したときに火花のようなものも飛び散り、先程とは違う力を感じた。


そして魔王の剣を弾いた。


美咲はそれで終わりではなかった。


右上に移動した剣を両手で構え、剣を背負うような態勢に入り、そのまま上から魔王の体めがけて振り下ろした。


魔王の体力メーターが4割ほど減っている。


「すげぇ…」


美咲だったら魔王を倒せるのではないか。

私と翼はそう感じ始めていた。


私はチャットに三通の通知があることに気づき、それがカイトたちからということにも気づいた。

内容はクエストクリアのための鉱石はゲットしたとのことだった。


そのことを翼に伝えると、ならもう逃げればいいんじゃないのかと話していた。

ひとまず合流するために何が起きているかを説明するためにチャットを打つ。


い、ま、せ、ん、と、う、ちゅ、、


「リナ!!」


突然の呼びかけに変換をせず未完成の文を送ってしまった。


目の前から大きな雪玉が転がってきていた。


魔法杖を構える暇もない。


直撃した、そう思ったが、目の前には翼が立っていた。

なんと、翼が雪玉を抑えていた。


「早く逃げろよ!」


私は少し距離を置いた。

だが、翼も耐えきれなそうだ。

私は魔法杖を構える。


「炎魔法=フレイム・バーン!」


雪玉はなんとか破壊することができた。

しかし、次々と雪玉は落ちてくる。


なんで?!

私と翼は魔法杖と剣を構えた。

一つ一つ、壊していった。

先程送ったチャットで気づいてくれていればいいんだけど…。

私は少し不安に感じながらも、彼らを信じた。




数分後、私は何やら異変を感じた。


美咲の発する金属音が聞こえない。

もしかして、倒したの?!


私は雪玉を壊し、美咲の方を見ると美咲が倒れている状況が映し出された。


「美咲!!」


私は急いで美咲の方へ向かった。


「来ちゃダメ!」


美咲から注意されるが、関係ない。


私は美咲を抱きおこす。

美咲は麻痺状態に陥っていた。


「早く、逃げて!」


翼は後ろから驚嘆の声を上げた。


「みんな逃げろ!」


そこには魔王が二体、それに黒い羽を生やして空中に立っている黒いマントに身を包んでおり、顔や体が影のようで認識できなかった。


「なによ…あいつ」


魔王はともかく、得体の知れないものが飛んでいることに恐怖を感じた。


私は魔法杖を構えた。


「無駄よ…リナ。アイツが出現してから魔王の力も強くなってるし、なによりアイツに攻撃が効かないの…!」


攻撃が効かない?!

どういうことなの?


私は魔法杖を構え、魔法を唱えた。


「炎魔法=フレイム・プリズン!」


魔法陣を魔王二体と得体の知れない影の上に作り出し、攻撃をした。

炎の檻のように奴らを炎で閉じ込めてダメージを与えるのがこの魔法だ。

二体の魔王には少なからず攻撃が効いたが、影には効かない。


やはり駄目なのか…。


すると影が魔王に指示を出した。

あの影が司令塔の役割を果たしてるの?


魔王は私めがけて飛んできた。

危な…

しかし、標的は私ではなく、私の横にいた美咲だった。

魔王が美咲めがけて剣を振り下ろす。


美咲は動けない。

終わった…


しかし、翼は動いていた。


キィン!


太刀音が聞こえた。


だが、やはりレベルと剣の耐久度が足りなかったからか、剣が折れた。


あのお気に入りの剣が、だ。


今の翼には剣の大切さが仲間の大切さを下回ったのだろう。

また翼の変化が見られた。


捨て身の攻撃でなんとか魔王の斬撃からは美咲を守ったが、剣を失った翼は魔王に殴打され、左方に飛ばされた。


「翼!!」


翼のHP表示は半分を切った。


その間に美咲の麻痺が治り、自分で自分を道具を使って回復させた。


今回ばかりは翼に助けられたようだ。


でも、この状況が変わったわけではない。


するとその影が私たちめがけて歩いてくる。

しかし、攻撃することができないため、こちらも何もすることができない。


美咲の目の前まで来ると、美咲が構えていた剣を触った。


「何をするの?!」


影によって触られた剣はボロボロになって朽ちていった。


「は?え、なんで?!」


美咲は訳がわからないような声を出した。

それはそうだ。

あの武器は相当強化されていて、耐久度もさぞ高いことだろう。

それを一瞬で、しかも触れただけで壊してしまったのだ。


美咲も戦う武器を失った。

なんなの…アイツは。

影は後ろに下がると、再び魔王二体に攻撃命令を下した。


美咲めがけて剣を振り上げ、飛んでくる。


もう、終わりだ…。


美咲ももうここまでと堪忍していた。

剣が美咲の体を貫通する…。


その瞬間に、魔王二体の剣を構えた両手は切り落とされた。


グァァァァ!


魔王の叫び声で美咲は目を開ける。


どうやら遠くから飛んできた斬撃で魔王の手が斬られたようだ。

これは…。


「大丈夫か?!リナ、美咲!」


「「カイト!!」」


そこにはアカウント共有をした聖騎士カイトが立っていた。


美咲も安心したように安堵の声を出した。


「翼は今ツカサとミズキに回復してもらってる。アイツらは俺が片付ける。」


私たちに背を向け、魔王めがけて歩き出したカイトに私は声を上げる。


「カイト!あの影みたいな奴は攻撃が効かないの!でもアイツが司令塔みたいなの!」


私たちの方は向かず、静かに魔王二体と影の方を見ていた。


「それは厄介、というか無理ゲーだな」


カイトは魔滅剣を空に掲げ、光輝いた剣を構えた。

魔王二体も共鳴されたかのように剣を構える。


そして、剣が接触した。

だが、魔王の剣は一瞬で弾かれ、右からの一閃を入れられた。

さらに、もう一体の横切りも避けると隙を見せた魔王に斜め斬りをお見舞いした。


しかし、ここで私たちは異変に気付いた。

魔王の傷が癒えている。

それも全てあの影の所為だということにはすぐ気づけた。


やはり、アイツを倒さない限り、魔王も倒せない…。


でも、カイトは落ち着いている様子だった。

するとその時。


「くっそ、俺の剣を返せ!」


翼が先が折れた剣を影めがけて投げた。


影は避けることもしなかった。


何故なら当たらないと確信しているからだろう。


だが。

今回は話が違った。


ドッ!


影にダメージが入った。


「?!」


そこにいた全員が驚いていた。

なんで?!

そして何かに気づいたカイトは私たち全員き呼びかける。


「早く逃げるぞ!クエスト入り口へ走れ!」


カイトの指示で私たちは一目散にクエスト出入り口へ走った。

後ろでカイトが魔王二体を足止めしてくれている。


今回も、やっぱり何もできなかったな。


いや、魔王二体が出てくる時点で何かおかしいし、あり得ない話ではあるけれど、その状況で何もできないのは悔しかった。

美咲は無力化はされたものの、戦うことはできた。


私は…自分の身を守ることで精一杯だった。


私は、いつしか自分もアカウントをもう1つ持っていて、いざとなったらアカウント共有でみんなを助ける…みたいにできればいいと考えていた。


でもそれは無理な話。


それはただの美咲たちへの憧れ。

そんなことを考えているうちに出入り口前に着いていた。


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