第15話 異変
共通ギルドに到着した俺らは早速クエストを選択した。
先頭で翼が悩んでいる。
今回こそは翼の意見に従おうということになり、話がまとまった。
「よし!」
翼が1つ声を上げると俺らパーティメンバー全員にそのクエストの内容が表示される。
「これでどうだ?」
翼に言われ、見てみるとそこにはこう書かれていた。
氷雪地帯探索クエストレベル☆☆☆
翼…お前。
どうやら翼も自分の力を考えて判断することができるようになったようだ。
前に比べてレベルがドンと下がっている。
これなら大丈夫だろう。
俺らは受付で承認手続きを行い、氷雪地帯に向かった。
一瞬にして氷雪地帯に到着した俺ら一行は減っていくHP表示に驚いた。
お花畑のクエストはツカサがまだ転送魔法を使用できなかったため使わなかったが、今回はメンバー全員が使えたのでとても移動が楽だった。
どうやらHPが減り始めたのは気候が原因らしい。
クエストの制限時間は30分。
体力が持つのもそのくらいまでだろうか。
今回のクエストの目的は新マップである氷雪地帯にある鉱石の収集だ。
氷雪地帯のマップもかなり広い。
俺らはいつもよりも少し急ぎめで移動を開始した。
周りを見ると俺らの他にもかなりのプレイヤーが探索やら討伐やらのクエストをしていた。
翼が、急がないと先取りされちまう!と慌てだしたので、仕方なく2手に別れることにした。
リナと美咲と翼、俺とツカサとミズキだ。
何かあったらすぐに駆けつけるようにすると決め、二手に分かれて探索を始めた。
東方向に進んだ俺らのチームはすぐに鉱石を発見した。
「ありました!カイトさん、ミズキさん!」
先頭を歩いていたツカサが発見した鉱石めがけて走りだした。
「待って!ツカサ、危ない!」
「え?」
ミズキの声にツカサは一瞬止まったが、遅かった。
ドドドド…
地面が揺れる。
鉱石があった地面の下から巨大なスライムのようなモンスターが顔を覗かせた。
「うわぁぁぁ!」
ツカサは俺らの方へ一目散に逃げてくる。
「逃げるぞ!」
俺の声にミズキも頷き、ツカサと一緒に走りだした。
一心不乱に走っていると周りに結晶のようなものが生成された洞窟のような空間に来ていた。
頭上にもつららのように結晶が見事にできている。
モンスターはまだ追ってくる。
ここしかない!
俺は後ろで走っているツカサに声をかける。
「ツカサ!上にあるどデカイ結晶を撃ち抜けるか?!」
俺の声にツカサははっ、と気づき、
「やってみます!」
と答えた。
ツカサは風弓具=ゴット・ウイングを構えた。
そして体をモンスターの方に向けて走る後ろ走りに変更し、弓を上に向けた。
「えいっ!」
ツカサが放った矢は金色に輝きながらモンスターの頭上にある結晶に当たった。
そしてピキッという結晶にヒビが入る音がして、モンスターめがけて落ちた。
冷たい風と吹雪のようなものが爆音とともに吹き荒れる。
周辺の結晶も割れ始めた。
視界が晴れるとそこには沢山の鉱石が生成されていた。
「あれは…!」
俺らは顔を見合わせて確信を持つ。
今回のクエストで集める鉱石だ。
その鉱石は赤色に輝き、微妙に入っていた太陽の光を反射していた。
「これだけあれば十分じゃない?」
「そうだな」
「早くみんなに教えましょう!」
赤い鉱石を手に入れると、すぐに他の3人にグループチャットを送る。
クエストでは他のプレイヤーの声が聞こえるため、もちろんグループのVC.というものは存在しなくなる。
そのため、離れている状態から電話のようにVC.を繋げることはできないのだ。
ツカサがチャットを打ってくれた。
[鉱石見つかりました!]
しかし、誰からも何も言ってこない。
どうしたのだろうか。
普通なら気づいて了解の合図や、合流するための場所を提示するはずだが…。
不思議に思った俺らは何度かチャットを送ってみることにした。
[どうしたの?答えてよ!リナ、美咲]
[おい!どうしたんだ?何かあったのか?!]
俺のチャットでようやく気づいたのか、返信が返ってくる。
[いませんとうちゅ]
「"いませんとうちゅ"?」
「なんでしょうか…」
「もしかしてさ、"今戦闘中"って書きたかったんじゃない?!」
「なんだって?!」
送り主はリナだ。
確かに戦闘中ならチャットに気づきにくいし、チャットもしっかりとした文字が打ちづらい。
するとそこに思いもよらぬ人からのチャットが届く。
澤田社長?!
なんと澤田社長及び運営からのチャットだった。
[カイトくん。急だが、氷雪地帯に行ってくれ。おかしな事が起きている。私たち運営も今調査中だが、何故だかよく調査ができなくなっている。もし何かあったらここにチャットをくれ。すぐに対応する。澤田]
おかしな事?!
嫌な予感がするな…。
メンバーからの戦闘中だというチャット、運営からの異常事態を知らせるチャット。
そして運営がよく調査できないとなると…まずいことになるな。
俺らはすぐに3人が向かった西方面に向かった。
「何故だ!」
「放置対戦☆クロスラミナ」管理オペレーション室では社長が怒りの声を上げる。
大きなモニターに広がる"ERROR"の文字。
氷雪地帯へのアクセスができなくなっている。
「社長、おそらく、氷雪地帯の管理者権限が変更されている可能性が高いかと」
佐藤管理人が言う。
「それはない。絶対なる権限は我々運営に存在する。それは間違いない。氷雪地帯にアクセスできないのは奴が外部からの全てのアクセスを禁止しているからだろう。」
管理人の大半が頭を抱えている。
「ということはつまり、セーフティーゾーンのようなものを作られた、ということですね?」
「そういうことだ。そして、それは多少の時間はかかるが我々の力であれば破ることは可能だ。」
社長は管理人一人一人に指示を出す。
「氷雪地帯だけに焦点を絞るなよ!他の場所もこれまで同様監視を続けろ」
管理人は了解の合図を出すと、またパソコンで指示通り仕事を始めた。
「さて…ここからどう動くか…」
"奴"と"運営"そして"カイト"及びそれ以外の強プレイヤーたち…。
全てのクロミナプレイヤーの命運をかけた戦いが今、始まろうとしていた。




