第13話 仲間たち
遂にこの日がやって来た。
現在4月16日23時58分。
あと2分でクロミナが再稼働する。
俺はこの時間からガッツリやるような夜更かし人間ではない。
アップデートとパーティメンバーへの呼びかけを行うのだ。
そこでたまたま会えたら嬉しいが。
黒川さんも美咲も連絡は先程途絶えた。
自分でそこはやりたいことがあるのだろう。
俺はこの待っている時間が懐かしく感じた。
五年前と同じ感じだ。
同じ椅子に座り、同じ机に肘をついている。
ふと時計を見ると既に24時を回っていた。
俺はすぐにクロミナに入る。
同じように「クロミナ!」という掛け声が聞こえた。
そして画面が暗くなり、アップデートの連絡が入った。
どうやらこのアップデートをしなくても既に実装はされており、ただの安否確認でしかないとの事だ。
アップデートしないと実装されないのではないのか?
いや、クロミナの会社は全アカウントの管理をしているんだったな。
そこで一斉に更新したら可能な話か。
単純な安否確認にしてはアップデートの時間がかかる。
画面にはあと5分の表示が。
この時間に沢山のアカウントがログインしてると推測できるから混線してるのか?
この時間も待てない人はアップデートをせずにプレイしてしまうんだろうな。
俺はそんなことを考えていた。
結局更新は10分程度かかった。
ようやくクロミナの世界に入ることができた。
世界はあまり変わった様子は見られなかった。
だが、中心都市「ラミナ」はいつもより人が多いように感じた。
そして、運営が仕事してることも確認できた。
俺はパーティメンバーが表示されているところを見る。
消えていない。
良かった。
パーティメンバーの人がクロミナを辞めたりした場合、パーティメンバーの表示からは消去される。
誰一人として消えていないようだ。
それどころか、ミズキがログインしているようだ。
俺はミズキにVC.を繋げる。
そしてそれに気づいたのか、ミズキからもVC.了承の通知が届く。
「こんばんは」
俺が言う。
「カイト!こんばんは、久しぶり!」
いつもより元気だ。
「元気だな、ミズキ。なんかあったのか?」
「その前に、会おう。ラミ=cafesでいい?」
「ああ、いいぞ」
俺はミズキと会うためにラミ=cafesに向かった。
到着すると既にミズキが手を振って待っていた。
「カイトー!久しぶりー!」
ミズキの姿は変わっていなかった。
当然といっちゃ当然だが。
1つ変わってるとしたら装備が完成していた。
完全装備だった。
どうやら俺があげた装備は使ってくれるようだ。
「元気してた?」
「ああ、元気だったよ。ミズキは?」
「うーん、あまり。」
そう笑いながら答えた。
とにかく中で話すことになり、中に入って椅子に座った。
「何かあったのか?」
俺が静かに聞く。
「うん…実は最近ツカサくんにあってないじゃない?」
あー。
「うん、ミズキ。もういいや。」
「えぇ!なんでよ聞いてよ!」
「いや、もうオチわかったわ」
「そんなぁ……」
ミズキは少しガッカリしていた。
そんなことより俺はパーティメンバーに話すことがあった。
「なあ、ミズキ。俺らのパーティに1人新しい人を入れたいと思ってるんだ。」
「え?」
ミズキは少し驚いたような声を出した。
「その人は…その、失礼かもしれないけど入れて大丈夫なの?」
うーん。
確かにな。
美咲を入れて果たしてこれまで通りのパーティが成り立つのだろうか。
それに俺は美咲のレベルも何も知らない。
これは困ったが、今更無理なんて言えない。
また美咲を突き放すようなことをしてしまうからだ。
だが、パーティメンバーの気持ちも考えた方が良さそうだな。
考えてみたらこのパーティはあまり強くない人たちで形成されたパーティ。
そこにレベルが高い人が入ったらパワーバランスもこのパーティの意味もなくなってしまう。
美咲のコミュ力ならすぐに打ち解けることはできると思うが、それは美咲の話。
他のメンバーはできないかもしれない。
俺は少し美咲を誘ったことを後悔した。
だが、もう今更引き返せない。
「その人はいい人だから多分大丈夫だよ」
「確証はないのね?」
ミズキは追求してくる。
それくらいこのパーティを無くしたくないんだろう。
「大丈夫だよ。なんせ俺の……彼女らしいから。」
なんてことを言わせるんだろうか。
まぁ俺が言ったことなんだが。
「彼女らしい?」
少し疑問に思ったミズキだが、すぐに笑って話し始めた。
「そうか、彼女らしいか。じゃあ問題無さそうだね!」
「どう言うことだよ…」
「そうかそうか!まだ色々と聞きたいことあるけど、もう遅いからまた明日ね」
「そうだな」
俺は12時半の表示を見て少し焦った。
もうこんな時間か。
やはり、楽しい時間は過ぎるのが早いな。
「よし、じゃあ明日の午前9時に集合でどう?」
「いいんじゃないか?」
しかし、俺には疑問が残った。
「どうやって他のメンバーに呼びかける?」
するとミズキはすぐ返した。
「一応このメンバーチャットに伝言を残しておいて、あとはクロミナじゃない別のチャットアプリから呼びかけておくよ」
「え?」
俺は思わず声を出してしまった。
「他のメンバーと繋がっていたのか?」
「だからその話しようとしたらカイトがもういいって言ったじゃん!」
「うわぁ、まじかよ。」
「どうする?交換する?」
「誰のを持ってるんだ?」
「ツカサくんと厨二のやつは持ってるよ」
「リナは?」
「リナは持ってない。だけど明日の朝には来るでしょ。あの子マメだから」
「そうか」
俺はミズキとツカサと翼の連絡先を教えてもらった。
そのあと、ミズキと別れの挨拶をして俺はクロミナから出た。
そしてすぐに別のチャットアプリに入った。
そこでミズキとツカサと翼の連絡先を入力する。
すると三人のアカウントが画面に表示された。
俺はすかさず友達登録をした。
これでクロミナがなくてもメンバーと話すことができるようになった。
あとはリナだけか。
俺は明日聞いてみることにした。
友達表示が5人になった画面を見て、俺は思わず笑みを浮かべた。




