第10話 周囲の反応
私は絶望感に浸っていた。
先を越された…。
私が一番恐れていたことが起こった。
私がもっと早く…行動をしていれば…。
それにしても神谷さんがカイトを好きになるなんて…。
全く、災難な話だわ。
カイトは二つ返事で了承しなかったみたいだけど、時間の問題かもね…。
私も行動を起こさなきゃ…
でも、どうすればいいの?!
私とリナはカイトにとっては別の人なのよ?
もしもパーティでの会話でカイトに告白したとしてもそれはリナがカイトのことが好きと解釈される。
黒川里奈が木下戒斗のことが好きだとは思われない…。
しかもパーティには神谷さんも入ってくる…。
どうすればいいの?!
と、とにかく、学校ではいつもよりも明るく積極的に行動しよう。
なるべくカイトに見てもらえるように。
4月13日水曜日朝7時
完全に寝坊した。
最悪だ…。
昨日の夜延々と美咲とチャットをしていた。
というか、美咲が俺を寝かせてはくれなかった。
ずっと美咲は電話をしようとしていたが、俺は断固拒否し続けたため、だったら夜までチャットしようとのことで話が落ち着いたのだ。
くっそ…。
それにしてもなんだあの男慣れしてるというかコミュ力の塊というか…話し方が慣れていたぞ。
俺は1つ大きな欠伸をしながら急いで学校の準備をした。
学校に着くと桜の花びらが舞っていた。
そろそろ入学シーズンも終わりか。
俺が下駄箱を通ると周りからジロジロと視線が集まった。
なんだ…?
本当にそれこそ俺が勇者の姿で中心都市に行った時みたいに視線を感じた。
しかし、その時と違うのは影口が言われているという点だ。
まさか、俺が聖騎士であるということを美咲はバラしたのか?!
だとしたら許さないぞ?
俺に対する視線は教室の中でも続いた。
「おはよ…」
俺は黒川さんに声をかける。
「おはよう!」
いつもより声が大きい。
元気いいな。
「今日はどうしたの木下くん。目の下にクマがあるよ?」
やはり昨日の夜更かしが効いたか…。
「あー、昨日夜遅くまで起きていたからかな…」
「そ、それって、チャットしてたの?」
黒川さんが興味ありげに聞いてきた。
「う、うん。よくわかったね。昨日の夜ずっと美咲と…」
「美咲?!」
黒川さんは目を丸くした。
「うん、?美咲とチャットしてた。」
「み、美咲って呼んでるの?」
「う、うん。そうだけど…」
黒川さんは大きなため息をつくと、俺の反対側を向いてしまった。
なんだ?
みんなおかしいな…。
教室の中もざわざわしている。
すると3人くらいの女子がこちらに向かってきた。
「ねぇ、木下くん。木下くんって神谷さんと付き合ってるってほんと?」
「え、?」
なんだって?
付き合ってなんていないぞ?
「付き合ってないよ…?」
「えー?嘘だ〜!さっき神谷さんが昨日告白したらオッケーされたって言ってたよ?」
は?
なんだと?!
隣から黒川さんの強烈な視線も感じられる。
どういうことだ?!
「いや、告白は…」
と、俺が言おうとした瞬間、教室の扉が開いて教室にいた男子の黄色い声が聞こえた。
そこにいたのは、神谷美咲だった。
「あー!神谷さん!」
俺に話しかけてきた3人の女子が反応した。
美咲もこちらに向かってくる。
ちょうどいい。
美咲は俺とは違うクラスだ。
直接話すなら今しかない。
俺が美咲のクラスに入ったらまた変な噂立てられる可能性もあるからな。
「おはよう、みんな、それに戒斗❤️」
3人の女子からきゃーという声が上がる。
この女……。
「ねぇねぇ!二人って名前で呼び合ってるの?!」
「あ、それわたしも気になる〜」
三人の女子がガールズトークで盛り上がっていた。
「もちろん、お互い名前呼びだよ?」
てめぇ!
またもや女子からきゃーという声が上がる。
俺はすぐさま美咲に耳打ちをする。
「おい!どういうことだ…!俺は…」
「わかってる。聖騎士のことは言わない話だよね?でも、交際の話は言ってはいけないとは言われてない。」
えへん、と美咲は誇らしげに両手を腰に当てる。
「待て待て…そもそも俺とお前は交際していないだろ?!何の話をしてるんだ!」
「えー?そうだったっけ?」
美咲は知らん顔をするとわざと周りに聞こえるように言った。
「昨日も夜までチャットしてたしー」
「えぇー!そうなの?!」
「そんなの恋人同士がすることじゃん!」
そうなの?!
俺も知らねぇぞ。
なんだそのルール。
つまり、俺はまんまとはめられた訳だ。
俺はまだ答えを出していないのだが、この学校の女王の一声にかかればそれは嘘でも真実となってしまうようだ。
全く恐ろしいものだな。
俺はこうなっては仕方のない、今更取り返しのつかないことだと判断した。
でも、友達は本格的に減るな。
それは困るな。
やはりチャットで美咲に説得しよう。
女王の一声にかかれば偽りの真実も真っ赤な嘘にできるだろう。
俺は今日までの辛抱だと思い、諦めて授業開始の時を待った。




