第9話 告白
あっという間にその時はやって来た。
放課後。
俺は一人で体育館裏に向かった。
手紙を片手に。
体育館裏に着くと、そこには肩まで伸ばした黒い髪をなびかせるくるりとした目が特徴的な女子が立っていた。
あれが神谷さんか?
俺に気づいたその女子は嬉しそうにこちらに向かって来た。
「は、はじめまして!えっと、木下戒斗くん…神谷美咲です」
俺はすぐさま返した。
「はじめまして。えっと、この手紙をくれたのは君でいいんだよね?」
「はい!そうです。」
びゅうと1つ風が吹いた。
その風が俺の髪と彼女の髪をなびかせる。
「私は…つ、強い人が好きで…だから、その、私は戒斗くんのことが好きです!付き合ってください!」
え?
彼女は目を瞑りながら手をこちらに差し出している。
強い人が好きだって?
俺はこの止まった時間を動かした。
「ちょ、ちょっと待って、神谷さん!」
俺の声に神谷さんは目を開けた。
「強い人が好きなのはわかったけどなんで俺なの?俺は全然強くないよ?」
すると神谷さんはニコリと笑って言った。
「そういう謙遜するところも好き。」
「いや、謙遜とかじゃなくて…」
「戒斗くんは強いよ。聖騎士さんだもん。」
えっ?
俺が聖騎士だということを知っている?
いや、ありえないわけではない。
俺のアカウントを見た人はよく調べれば俺だということがわかるだろう。
それがまさかこんな近くにいたなんて。
ネット上では「カイト2027」が聖騎士だということは知られていると思うが、現実世界で誰がこのアカウントを所持しているかまではわからないはずだ。
そこはプレイヤーのプライバシーに配慮されている。
となると、考えられるのはひとつだけ。
現実世界での情報だ。
きっと彼女はこの学校全てのクロミナアカウントを調べ上げた。
そしてそこで見つけた「カイト2027」のアカウント。
それを所持しているのが木下戒斗だということまで気づいたのだ。
全く、恐ろしいな。
俺は返事をした。
「それは他の人には話したのか?」
「ううん、話してないよ。」
「その…もしもこの誘いを断ったら他の人にバラすとかないよね?」
「なんでバラしちゃだめなの?」
「目立ちたくないからだよ」
ふーん、と神谷さんは笑っていた。
そして、答えを出した。
「わからない、話しちゃうかもね」
それはまずい。
この学校で唯一俺の正体を知っているのは多分神谷さんだけだ。
他の人にも俺の正体が知られたらえらいことになる。
俺は神谷さんへの答えを出した。
「俺は神谷さんのことを知らない。だからもしよかったらだけど俺の友達になってくれないか?」
「少し時間を置いてから答えを出してくれるんだね。うん、いいよ」
神谷さんはニコリと笑った。
「もしよかったらだけど、俺のパーティに入らないか?俺のパーティには4人のメンバーがいるんだけど…」
俺が話している途中で神谷さんは話しはじめた。
「え、いいの?嬉しい〜!じゃあさ、私の連絡先ね。」
小さな紙切れを渡された。
こうなることも想定していたのか?
いや、まさかな。
用意周到なだけだろう。
連絡先を交換すると俺らは体育館裏から下駄箱に向かった。
「ねぇ、戒斗って呼んでいい?私のことは美咲って呼んでいいから。」
「戒斗はいいけど美咲はな…」
「だめ?」
「いや、抵抗がある。」
「じゃあみんなが呼んでくれる"みーちゃん"でもいいんだよ?」
「美咲って呼ぶわ。」
「やった〜」
全く、なんだこの会話は。
ここに来て入ってようやく高校生らしい会話ができているのかもしれないな。
高校生らしいというか恋人同士か。
俺は少し恥ずかしくなって来た。
でも友達が増えることは悪くない。
むしろ良い。
友達は多いに越したことはないと思うからだ。
その夜。
俺の元に一通のチャットが届いた。
黒川さんからだ。
[手紙の件、どうだった?]
俺はすぐさま返す。
[うん、友達から始めることにした]
[告白はされたの?]
[うん。]
[それで友達から始めるって言ったんだ]
[うん。クロミナも一緒にやることになった]
[それって、いつものグループの人と一緒に?]
[うん。楽しくなりそうだよ]
そのあとは就寝前の挨拶をして会話が終わった。
どこか元気がなさそうな感じがした。
気のせいかもしれないが。
いつもよりも"笑"が無かった。




