第7話 連絡先交換
4月11日月曜日。
俺は高校に向かった。
春の風を感じながら桜並木を歩く。
これ以上ない最高の通学路だ。
歩いて数分で高校に到着する。
俺は教室に入ると異変を感じた。
クラスメイトがクロミナをやっていなかったのだ。
長期メンテナンスのため、当然と言っては当然だが、クロミナ命みたいな奴らがよくやらなくて済んでるな。
禁断症状みたいなのは出ていないのか?
などと失礼なことを考えていた。
しかし、よく聞いてるとクロミナの話はしていた。
「魔王軍討伐のクエスト行ったか?」
「おう!もちろんだぜ!二階まで行ったぜ!」
「マジ?!俺なんか一階でリタイアだぜ?」
「それよりも聖騎士の話だよ!」
「ああ、そうだな!俺聖騎士見たぜ!めっちゃかっこよかったわ!」
そういえば聖騎士の存在も知られたんだったな。
俺が聖騎士であることはメンバーしか知らないが…いや、あのコロシアムの中にいたプレイヤーにはバレたかもしれないな…。
もしバレていたとしたら「カイト2027」の存在が危ない。
俺が「カイト2027」のデータを扱っているとバレたら今や周知の事実となった聖騎士の正体が現実世界でもバレてしまう。
それは避けなければならないことだ。
俺が席に着くと隣で黒川さんがスマホを触っていた。
そういえば、あいつらに調子乗って黒川さんは友達みたいな発言しちゃったな…
黒川さんは決して知らないことだと思うけどなんか申し訳なさが残るな。
俺は黒川さんに挨拶をした。
「おはよう、黒川さん」
すると黒川さんはびくんと体を震わせて反対側を向いてしまった。
え、?
「え、あの、黒川さん?」
俺が声をかけても返事がない。
そっぽを向いたままだ。
俺は何かしたのか考えたが、何もしてないことを再確認した。
すると遠くの方から小さな声が聞こえてきた。
「ぉ…ぉはょ…」
えぇー。
ちっちゃ。
まぁ、挨拶貰っただけいいか。
俺は始業のチャイムを静かに聞いた。
12時20分。
昼食後。
俺は教室に戻ると黒川さんを見つけた。
見つけたと言ってもいるのは当然といえば当然だが。
俺は黒川さんにまた話しかけることにした。
明らかおかしい今日の態度について。
1時間目も2時間目も3時間目も、会話なし。
少し視線は感じたが、それだけだ。
流石にメンタルがきついが、嫌われるならせめて聞いておきたい。
何故俺を嫌っているのかを。
「黒川さん。」
またもや体を震わせる。
「俺…何か黒川さんに悪いことしちゃったかな…嫌っても構わないけど…俺のどこが嫌だったのか…教えてくれない?」
俺が問いかけると黒川さんはやっとこちらを向いた。
目で何かを訴えている様子だ。
「そ、そんなこと…ないよ…私は…私はただ…」
俺は待った。
ここで追い討ちをかけても結果は同じだ。
「私は…木下くんと…連絡先交換したいの…」
え?
「そんなこと?」
「う、うん」
俺は拍子抜けてしまった。
「そんなことで午前中話してくれなかったの?」
少し呆れたように俺が聞く。
「い、いいじゃん!連絡先の交換なんてしたことないんだから、」
顔を赤らめながらそう言った。
「黒川さんが良ければ喜んでだよ」
黒川さんはまるで曇っていた空から太陽の光が射したように明るく笑った。
俺らは連絡先を交換して、クロミナとは別のチャットアプリに入った。
友達1人。
俺は1人でも嬉しかった。
ここから増えたらいいな、などと考えていた。
帰宅後。
17時を回っていた。
俺は黒川さんからのチャットの通知に気づき、急いで返信した。
「よろしく(^ ^)]
[ああ、よろしく!]
[木下くんはクロミナ頑張ってるの?]
[頑張ってるというか楽しくやっ てるよ。黒川さんは?]
[うん!私も楽しくやってるよ笑]
[そうなんだ!]
俺は少し聖騎士について聞いてみることにした。
聖騎士は見たのかとか。
[そういえば、聖騎士見た?]
返信が来ない。
どうしたのか。
既読はついているのだが、返信が来ない。
またいつか来るだろう。
そう思い、俺は一旦スマホを切った。
私は喜びで溢れていた。
下校中もついスマホのチャットアプリの友達欄を見てにやけていた。
カイトの連絡先…
これからますます夜も眠れないだろう。
家に帰るとすぐさまカイトにチャットを送った。
初めは挨拶程度の話だったが、彼から聖騎士の話が出たときは思わず硬直してしまった。
なんて返せばいいの?!
待って……よく考えるのよ私!
彼は、私がカイトが聖騎士だということは知らないと思っている。
しかし、私は知っている。
そして私はただの聖騎士大好き人間としか思われていない。
そこで「聖騎士大好きな黒川さんだから聖騎士も見たのかなって思った。」というような心理が働いていてこのようなチャットを打ってもおかしくはない。
ここで聖騎士の話を出されて興奮しないと聖騎士のことが好きではなくなったと解釈されても大変だ。
私は聖騎士を好きだということでカイトのことが好きだと遠回しに伝えているようなものなのだ。
よし。
ここは興奮した様子で聖騎士を見たということにしておこう。
私はチャットを打った。
[見たよ!!最高だった!❤️もう彼こそ最高の聖騎士!もうなんていうの?オーラというか存在自体が神みたいな感じで!!」
チャットを送った後、数分間トーク画面を見ていたが、既読はつかなかった。
流石に返すの遅れちゃったかな…。
飽きられちゃったのかな?
私は少し肩を落とした。
次の朝、私は彼からのチャットの通知音で起きた。




